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統也は田島の乗るストレッチャーを壁際に寄せると、車庫内の設備を確認して歩く。
「吉沢サン、ジープの荷台に小型の大砲みたいなのがあるんですが、これは何ですか?」
「ああ、個人携帯用の対戦車ロケット弾と追撃砲よ」
「これが脱出の時に使えたら、ヤツらを撹乱できませんか?」
「ええ、相当な威力があるから使えるわね」
周囲には死者しかいないのだから、砲撃に遠慮は無用だ。
脱出時の心強い武器が手に入った事で、幾らか統也の気持は落ち着く。
その寸暇、ポケットの中の携帯電話がバイブする。
「日夏!?」
待機している一同の身に何かあったのか、統也は慌てて受話ボタンを押す。
「もしもし、日夏か!? どうした!?」
「統也クン!? 良かった、やっと出たぁ!」
受話器から聞こえるのは仁美の声と、自棄に騒がしい外の音。
そこには日夏の泣き声も混ざっている様に聞こえるが、向こうはどうなってしまっているのか、統也は表情を強張らせる。
「平家サン、どうしました!? そっちにもアイツらが!?」
「何なのよ! どうなってんのよ、こん中はぁ! ゾンビだらけじゃん!
ってか、今何処いんの!?」
「俺、ですか? 車庫です。ヤツらが多すぎて敷地から出られそうになくて」
「あっそ! 分かった! 今から向かうから!」
「え!?」
まるで駐屯地内に突入したかの様な言い草。
そして、通話口に由月の声。
「統也君?」
「ぉ、大川サン!」
「今、車庫の目測の位置に着いたわ」
「え!?」
「これから、車で車庫に突っ込む予定よ。
でも、激突したい訳では無いの。タイミング良くシャッターを開けて頂ける?」
車庫内に窓はあっても、梯子で上る高い位置。外の様子を窺い知る事は出来ない。
突っ込んで来る車に合わせてシャッターを開けるのは難しい。
「む、無理を言わないでください! そんな危険な事、出来ませんよ!」
「テンカウント。ゼロでシャッターに突入する事にしましょう。
準備は良い? こちらは余り待ってはいられないわ」
「ッッ、ちょっと待っ、」
「始めます。10……」
「うわぁ、」
統也は耳から携帯電話を離さず、吉沢に言う。
「すみません、吉沢サン! ロケット、ロケット弾をセットしてくれませんか!?」
「えぇ!?」
負傷の吉沢を扱き使う様で申し訳ないが、今は急を要して人手が欲しい。
吉沢は肩を押さえながらジープの荷台に走ると、横たわるロケット砲に弾を装填し、統也に担がせる。
「私は肩を負傷しているから、撃つなら水原君がやって! 大丈夫、操作は単純だから!」
「ぁ、脚は、」
「そんな物なくても素手で撃てるわ!」
「えぇ!?」
「それでシャッターを破るんじゃないでしょ!? 後はどうしたら良いの!?」
耳には由月が『4』のカウントを取る声。
「シャッター、シャッターを開けて、壁に寄ってください!!」
(クソッ、こうなりゃ何だってやってやる!!)
カウントは『2』。
シャッターがゆっくり上がり始めれば、足下から差し込むオレンジ色の陽射し。
そこに浮かぶ、死者達のシルエット。
「1……」
吉沢はライフルを構え、車庫内に侵入しようとする死者達を狙撃。
統也は近づいて来る車のエンジン音を耳に、ロケット弾の角度を設定、両足を踏ん張って発射。
ビュゥ……と、発射煙を上げてロケット弾は大蛇行だ。
その派手な演出は死者達を無遠慮に弾き飛ばし、注意すらも引きつける。
「ゼロ」
上がりきらないシャッターに車体の天井を僅かに削りながら車庫に突入。急ブレーキ。
ワンボックスカーがシャッターを潜ったと同時、吉沢はクローズボタンを押す。




