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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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 統也と吉沢人は死者達の猛追を振り切り、息切れ切れに車庫へ逃げ込む。

入り口の鍵を施錠し、出庫用の大きなシャッターも閉まっている事を確認すると、吉沢は長息を吐きながら両膝を突く。


「ハァハァハァハァ、……な、何とかなったわねっ、」

「は、はい、お陰様で、ハァハァハァハァ……、」


 統也は息を整える間も惜しみ、田島の首筋に手を添える。


(良かった……)


 脈は弱々しくも田島の生存を伝えている。然し、安心してはいられない。

巨大な車庫は天井も高く、殴ろうが蹴ろうが そう簡単には取り崩せない強固さではあるが、死者達に囲まれた陸の孤島でもある。

【例外】の破壊力が明確でない以上、早々に次のプランを考えなくてはならない。

吉沢は左肩を抑え、背を屈める。


「ッッ……、」

「吉沢サン? ケガしたんですか!?」

「ぇ、ええ……でも、大丈夫。ちょっと齧られただけ、大した傷じゃ無いから……」


 笑って誤魔化すも、吉沢の肩は隊服を濡らす程にジットリと血が滲んでいる。

いつの間の事か、田島を気にするばかりに吉沢の負傷に気づきもしない自分の浅慮さには愛想が尽きる。


「すいません、俺、自分の事ばっかりで……あの、ここに救急箱の類はありませんかっ?」

「いつでも使えるようにって、確か、車の中に幾つか装備しといた筈だけど……」

「車ですね! 分かりました!」


 車庫の中にはジープとセダン車、戦車が1台ずつ残っている。

統也は車内を漁り、発見した救急箱の1つを持って戻る。

上着を脱ぎ、肩を出す吉沢の傷口に、統也はオキシドールを豪快に振りかける。


「ッッ、、怪我をしたのは拙かったわね……ソンビは血の臭いには敏感なんでしょ?」

「だ、大丈夫です、消毒液で血の臭いは誤魔化せますから、」

「それ本当?」

「半信半疑ですけど……でも、父サンがそう言って、俺の手当てをしてくれました」

「そう」


 統也の愁色を見れば、父親が今どうしているかは聞く迄も無い。

実際、オキシドールに血の臭いを消す効果があるか分からないが、今は気休めで充分だ。

ガーゼを重ね、吉沢の傷口に大きく広げると包帯で固定。

然し、こんな付け焼刃な手当てでは心許ない。一刻も早く適切な処置をする必要がある。


 統也は外の様子に耳を欹てる。死者の唸り声は車庫の中にも届き、収まる様子が無い。

焦燥に頭を抱える統也に目を側み、吉沢は気息奄々に呟く。


「私がいたら、アイツらがここに留まってしまう……」


 統也1人の身に、目覚めない田島と負傷の吉沢の命が圧しかかっている。

自分の怪我が八方塞がりの状況を招いている事に、吉沢が頽れてしまえば統也は頭を振る。


「何を言っているんですかッ、変な事 言わないでください!

俺は吉沢サンと一緒に田島を連れて、生きてここを出る!

吉沢サンがいてくれなきゃ、俺なんかアッと言う間にアイツらの餌食ですよっ、

最後まで俺を見捨てないでください、」


 情けない言い草だが、それが今の吉沢には支えになる言葉でもある。


「そうゆう台詞、こんな事になる前に聞きたかったぁ、何てね」

「え??」

「フフフフ。本当に水原君はすごいわね。とても高校生とは思えない」

「俺なんてただ自棄っぱちってるだけで、お二人がいなかったら……」


 今は浜崎すらも失った事に肩を落とす。


「すみません……」

「やめて。浜崎サンが悲しむから」


 浜崎は2人が生き延びる事を、死の際にも願っていたのだ。

その勇姿に感謝する事でしか、冥福を祈る事は出来ない。


「今はこれからの事を考えましょう。陽も落ちて来たし、無暗に動くのは危険よ。

長期戦には不向きだけど、ここは頑丈だし、少しなら非常食の備えもあった筈。

今日はここで凌いで、脱出は明日にしましょう」

「でも、早く傷の手当てをしないとっ、」

「私は大丈夫。傷は浅いんだから。それに、少し休みたい」

「……解かりました。まだ外の気温も高いからヤツらも弱体化するでしょうし、

上手くすれば数が減るかも知れません」

「ええ。あんな化け物にも弱点はあって寿命もある。私達には充分 望みがあるわ」


 太陽の陽射しに晒された死者達の肉体は損傷を速める。

今の内に腐敗死する事に期待しよう。

車庫の中も蒸し風呂の様に暑いが、それも日暮れと共に少しは軽減するだろう。


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