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恐ろしく野太い声が、駐屯地敷地内から海鳴りの様に響き渡る。
「な、何だ、この声は!?」
「ひ、人の声みたいですけど……でも、違う……化け物の……」
死者の声。
頭の中では答えが弾き出されているのだが、それを口にするのは恐ろしい。
日夏が肩息を続ける中、由月は窓の外を見る。
「彼等が動き出したわ」
道の前後左右から、死者達が姿を現す。
これ以上 数が増える様であれば、この集団に車を転がされかねない。
今の内なら加速で逃げる事も出来るだろう。岩屋はギアに手をかける。
だが、アクセルを踏む事が出来ない。
「ッッ……統也のヤツは、何やってんだよッ、」
ここを離れてしまえば、統也達を見捨てる事になる。
これ迄の岩屋であれば考える間も無く逃げる選択しただろうが、今は迫り来る危険と仲間意識、この2つに心が揺れる。
由月は腰を上げる。
「私が彼等を引きつけます。
その間にジープから彼女を保護して、安全な所に退避してください」
「由月サン、な、なに言ってるんですかっ」
「そうだぞ!! アンタ、頭イカレたか!?」
「もうとっくにイカレているわ。頼んだわよ?」
「由月サン!!」
由月は車を飛び降りるとジープの窓を叩き、膝を抱えて怯える仁美にジェスチャーで合図。
岩屋の車に戻るよう指示すると、そのまま先頭に停まるセミトラックに乗り込む。
「オイ、あの人、車運転できたか!?」
「ぃ、いいえっ、免許無いって言ってました!」
由月はセミトラックの運転席で暫し手を泳がせる。
この方一度もハンドルを握った事が無い。然し、見よう見真似だ。
シートベルトで体を固定し、刺さった儘のキーを捻るとエンジンがかかる。
では、発進させるにはどうすれば良いのか、人差し指でこめかみをトントントンと叩き、これまで見て来た記憶を手繰り寄せる。
確か、サイドブレーキと呼ばれる左のレバーを後ろへ引いていた様な気がする。
次に、ギアを握り締めてドライブへ。
「進め!」
加減無用でアクセルを踏みつければ、エンジンは唸り、タイヤがゴロゴロ……っと転がる。
両手で握るハンドルは重たく左右に震え、それでもアクセルは全開の儘、駐屯地の正門に向けてセミトラックを走らせる。
「バカヤロ!! 突っ込むぞ!!」
「由月サン!!」
2人が車中で叫ぶと同時、セミトラックは正門に激突。
――ガツン!!
ガシャンガシャンガシャン!!
バリケードは正門と共に薙ぎ倒され、車体の下に挟まり、摩擦に火花を上げながら引き摺られる。
ガガガガガガガガガ……!!
ドォン!!
車体は轟音を上げて横転。
タイヤは用も成さずに回転を続け、煙が上がる。
この衝撃に死者達の耳は一気に引きつけられ、足は迷う事無くセミトラックへ。
仁美はジープから転がり降りると、騒動を振り返りながら岩屋の車に逃げ戻る。




