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13時。
Y市自衛隊駐屯地の正門が見える位置に車は停車される。
周辺に死者の姿は無い。
「着いたぞ」
岩屋の言葉に一同は顔を上げる。
だいぶ長い事、車に揺られていた様な気がするのだが、到着してしまえばアッと言う間。
永遠に到着しなければ良かったのにと、何処から兎も無く嘆きが聞こえて来そうだ。
前の車両から浜崎と吉沢が降りる。
2人の表情に浮かぶのは、恐怖を押し殺す闘志。
駐屯地には生存者が1人でも残っていると信じ、隊舎内に突入する段取りを話し合う。
「連絡が入ってから4時間が経過している。生存者は……絶望的かも知れない」
「はい。分かっています、けれど……」
「生存者がいないと断言は出来ない。吉沢、お前は自分が生き延びる為の選択をしろ。
逃げる事も必要な判断だ。俺に着いて来る必要は無い」
「ゎ、私はッ……生き延びる為、自衛隊員として生きる決意をしています!
せ、生存者の有無が確認できない以上っ、て、撤退は、出来ません!!
それに……同胞に、これ以上……生存者を襲って欲しくありません」
内部には同志の蘇えりが徘徊している。
今一度、仲間に銃口を向けなくてはならないこの局面、吉沢の震えは止まらない。
然し、仲間だからこそ立ち向かわなくてはならないと感じている。
「俺も行きます」
「水原君、」
これまで以上に危険と見做される現場に、統也が現れるとは思いもしない。
「いや。中は危険だ。民間人のキミを連れて行く事は出来ない」
「友達が待ってるんです。
俺が行ってやらなきゃ、アイツはずっと1人でいなきゃならないから……」
統也はライフルを握る手に力を込める。
(田島を迎えに行ってやるまでは終われない。そうでなきゃ、死ねない……)
統也の強い決心は、その眼から感じ取れる。ならば、これ以上 拒む理由は無い。
浜崎と吉沢は頷き、3人の足は隊舎へと向けられる。
車中では4人が言葉ない時間を送っている。
それは、今回がこれ迄で最も危険である事が肌で感じ取れるからだろう。
隊舎内には避難者を含め、40人近い死者が蠢くだけで無く【例外】の存在がある。
待機していた隊員の誰もが返り討ちにされたのだから、たった3人で太刀打ちできる相手とは思えない。
統也は下車する際に、『皆はここで待機していてください』と、いつも通りの言葉をかけたが、誰にも目を合わせる事はしなかった。
それが、決意を揺るがせない為の小策である事は解かり切っている。
死を覚悟する統也を見るのは、岩屋と日夏にはC市の中心部以来になるだろう。
岩屋はハンドルに凭れ、3人の背を見送れずにいる。
日夏は緒方の電話以来、泣き通している。仁美は膝を抱え、再三再四の溜息を零す。
由月は目を伏せ、ただ一点を見つめる。その面持ちは、あらゆる可能性を考察するもの。
生き延びる為の手立てを休み無く考え続けている。
「なぁ……どうすりゃ良いんだよ、俺らは……」
ここに残り、これまで通り3人を待つべきなのか、そう言い含めた岩屋の問いが何を言わんとするのか、考える迄も無い。
仁美は顔を上げ、敢えて険しい表情で問い返す。
「どうって? 何が?」
「何って、何だよ……」
「どうすればイイか何て、そんなのこっちが聞きたいっての! ホント、もぉ最悪ッ」
話し合う余地も無し。
『そんなの自分で考えろ!』と言い含めて仁美が岩屋の問いを突っ撥ねれば、危険に対する焦りと、溜まり溜まった怒りが爆発する。




