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岩屋に呼び寄せられた由月と日夏が車に乗り込めば、仁美は3列目シートに食料と共に追いやられる。
遅れて浜崎と吉沢も駆けつけると、統也は通話をスピーカーに切り替える。
「緒方サン、ちょっと待っててください!
大川サンっ、隊舎内に【例外】が発生した! 今、食堂に避難してるってっ」
「もしもし、大川です。直ぐ側に【例外】がいるのね?」
「レ、レイガイ何て言われたって、オレにゃぁ良く分かんねぇよぉ、
ただ、松尾が部下全員 食っちまったんだ!」
「隊舎に待機してる隊員全員となると、11人にもなるぞ……」
浜崎の言葉に、一同は愕然。
例外である松尾と、11人の死者。分が悪すぎる。
ただハッキリしている事は、戦う術を持たない以上、隊舎に留まり続けるのは危険。
由月は建物の見取り図を思い返しながら、食堂からの逃走経路を模索する。
「現在に於いて、彼等に生前程の身体能力は確認されていません。
行動は食欲に集中し、例え力が強くとも、全ての反射は極端に鈍いものと思われます。脱出は可能です。最も安全なのは窓から。
バリケードを解放し、速やかに その場を離脱する事を推奨します」
窓に打ち付けた板を取り除くには手間もかかるが、正面突破するよりは死者との接触を減らす事が出来る。
「緒方サン、聞きましたね!? 全員でそこを出るんです! 車に、」
言いかけた所で、統也は言葉を飲み込む。
(駄目だ、全員は無理だ!)
残っている車両では、全員が乗車する事は出来ない。
「クソッ……せめて車庫に籠城してください! 皆にそう伝えて!
岩屋サン、今すぐ出発しましょう!」
統也の言葉に、浜崎と吉沢は夫々の車両に戻り、帰路を急いでアクセルを踏む。
だが、岩屋は迷う。これから戻る場所は避難所の機能を失った、死者の巣窟だ。
「ゾ、ゾンビがいるって分かってるトコに行けってのか!?」
駐屯地に戻るのは自殺行為でしかない。
蕩恐する岩屋に、統也は身を乗り出して言う。
「戻るんです! それから皆を連れて脱出する!」
「お前はそうやって、何で わざわざ寿命を縮めようとすんだよ!?
ここ何処だと思ってんだ!? 今から行って間に合うわけねぇだろ!?」
「動き出さなきゃ いつだって間に合わない!!
そんな事、岩屋サンだって とっくに気づいてるだろ!!」
「!!」
1歩を踏み出さなければ、1歩すら近づく事は出来ない。
浮かぶ諦観に任せて婚約者を救いに戻らなかった岩屋だからこそ、ヒーローに憧れるのだ。
同じ過ちを繰り返さない為には、この1歩が何よりも大事なのだ。
統也の言葉を、岩屋は強く噛み締める。
「ちくしょッ……その通りだよ!!」
エンジンをかけ、前の車両に急いで合流。
統也は再び携帯電話を抱え込む。
「緒方サン、急いで戻りますから!」
「うぅぅ、すまねぇな、統也……オレたちゃ田島のヤツをよ、見捨てようとしたんだ……きっと、そのバチが当たったんだ……」
「その話なら後で聞きます。良いですか?
【例外】の松尾に限っては鼻が利く。隠れていても何れ嗅ぎつけられる」
「そ、そんなぁ……」
「ねぇ! 臭いを誤魔化す方法って無いワケ!?」
「ぇ、えっとぉ、何でしょう……由月サン、何かありますかっ?」
仁美の問いを、日夏はその儘そっくり由月に丸投げ。
雖も、そんな疑問は ずっと以前から考量している。
だが、これと言った対策が用意できずにいるのだ。
由月は険しく眉を顰め、あらゆる知識を総動員し、仮説を手繰り寄せる。
「彼等の身体機能から、脳の活動領域を考察する限り、
爬虫類の構造に酷似していると言えるけれど……」
「でしたら、忌避剤や殺虫剤を撒くのはどうでしょうか!?
それなら食堂にあったと思います!」
「はぁ!? アンタなに言ってんの!? 量は!? どんだけ撒こうって!?
あんなの人間にも有害じゃん! 大体ゾンビに殺虫剤って、フザケてるでしょ!?」
「だ、だって……す、すいません……、」




