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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
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「ホラ、暑いからドア閉めて!」

「ぁ、はい、すみません」


 仁美にパシン! と肩を叩かれ、車に乗り込むも、由月の診察は浜崎と吉沢を残しているから、直ぐには出発できない。

岩屋はフロントガラス越しに由月を眺め、シミジミと言う。


「働くなぁ、あの人ぉ」

「そうですね」

「大川センセ、昨日、何処で寝てたと思う?」

「何処って、隣の部屋じゃないんですか?」

「それがさ、俺、トイレ行きたくて早く起きたんだけど、あの人、待合席に転がって寝てたぞ。死んでんのかってビックリしたわぁ」


 どうやら由月は意識が落ちるまでパソコンと睨めっこしていた様だ。

働き者と言うよりは働きすぎだろうに、統也と仁美は揃って口を開ける。


 そこに、統也の携帯電話がバイブする。

日夏からの業務連絡だろうか、画面を見やるとそこには緒方の名が表示されている。

田島に何かあったのか、統也は慌てて受話ボタンを押す。



「も、もしもし!? 緒方サン!?」



 統也が焦燥のまま応答すると、受話器からは緒方の震えた声が返って来る。


「と、統也かっ、今、何処だっ? 何処にいるんだっ?」

「まだK県です、どうしたんですか? 田島に、」

「ち、違うんだ、違うッ……死んでたんだ、ちっと目ぇ離した隙にぃ!」


「え? ――死? ……田島、が……?」


「ォ、オイ! 田島君がって、嘘だろ!?」


 岩屋が運転席から手を伸ばし、統也の肩を掴むと同時、

受話器からは緒方の訥々とした、それでいて噪蝉の様な声が聞こえる。


「松尾だッ、松尾が死んでやがったんだよ!!」


「!? ……田島じゃなく、松尾将補、が? ど、どうして……」


 田島では無かった事にはホッとするも、松尾が眠る者となって まだ2日だ。

それが、今日には『死んだ』と言うから、驚きを隠せない。


「ゎ、分かんねぇよぉ、田島と病室分けた方がイイって……

そぉしてる間に、戻って来たらいねぇ……

ベルトでよ、ふん縛っておいたのによ、見張りの兵隊サンも死んでてっ、

違うじゃねぇかぁ、ありゃ非力なんじゃねぇのかッ?

ぁ、あのヤロ、見つけた時には兵隊サンぶっ飛ばして、皆 食っちまってやがってぇ、」

「ぃ、今、隊舎の何処にいるんですか!?」

「食堂だ、この前と同じ、静かにしてりゃぁ……なぁ、そうだろ? 統也ぁ、」

「田島は!?」

「た、頼むよぉ、勘弁してくれぇ……自分守るのが精一杯でよぉ、」

「田島はどうしたんだ!!」

「うぅぅぅ……置いて来ちまったぁ……医務室の隣の部屋にそのまんまぁ……」


 田島だけが避難していない状態。

更に言えば、松尾は【例外】に当たる死者。

ストレッチャーに革ベルトで固定されていたにも関わらず、それを自力で抜け出したとなれば、強い力を持っていると考えられる。


(大川サンは『長く眠れば眠った分、脅威が増すんじゃないか』って言ってたけど、松尾将補はたった2日 眠っただけだ……

それで あの拘束を解けるだけの力を備えたって言うなら、田島はどうなるんだ!?)


 縋る緒方は戦々恐々。岩屋は運転席を飛び出し、由月の元へ走る。

統也は頭を抱えて悶える。


(待て! 落ち着け! どうする!? 松尾は【例外】だ!

隊員の人達が歯が立たなかったって事は、食堂のバリケードでやり過ごせるとは思えない!)


「緒方サン、銃を扱える人は!?」

「いねぇよぉ、残ってるのは俺ら民間人だけだっ、

統也、どうしたらイイっ? ここに立て篭もってりゃイイんだよなっ?」

「そこを逃げられませんかっ?」

「逃げる!? 何処に逃げりゃイイんだ! 外に出たって同じじゃねぇか!」

「今までのタイプとは違う! 逃げなきゃ駄目です! 車がまだ残ってる!

それで早く脱出してください! 移動し続ければヤツらは追いつけない!」

「車庫へ行けってのか!?

皆ぁ蘇えって、食堂の周りをウロウロしてやがるのに、出られやしねぇよぉ!!」


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