109
Y市自衛隊駐屯地。
「帰って来ねぇなぁ……」
緒方は首に巻いたタオルで額の汗を拭いながら、N県へ向けて出発した3台の車が戻るのをロビーで只管待ち侘びる。
統也達が駐屯地を出てに2日。
便りが無いのが無事の知らせと思っているが、やはり心配でならない。
そんな緒方の傍らで、村岡は苦笑する。
「今日明日には帰って来る筈です。
こちらも全ての作業が片付きましたし、バリケードも強化しました。
無事に迎えて上げましょう」
「そうさなぁ。
死体の山はどうすっかと思ったが、ハァ……埋めちまえばこっちのもんだ。
後は、松尾将補と田島が起きてくれりゃぁよ、世話ねんだけどなぁ」
そこに、看護師の清水が駆け寄る。
「村岡三等陸佐、宜しいですか?」
「どうかしたか? 容体に変化が?」
「はい。少し奇妙な事が……」
「何だい、清水サン。奇妙ってのは? 2人はちゃんと生きてんだろ?」
緒方の疑問符に清水は見識に迷い首を捻る。
「脈拍は弱っていますが安定してます。ですが……皮膚の表面に変化が、」
「変化?」
「田島君に見られる現象なんですが、痩せた皮膚が硬質化しているような気がするんです」
「そんな事が起こり得るのかっ?」
「自分も初めてなので何とも……
脂肪を失った分、皮膚が硬直しているのかも知れませんが、
レントゲンでも撮らない事には、正確な事は分かりません」
「レントゲン……流石にそれは無理だろう。点滴でどうにかならないか?」
「点滴治療での回復は今が限界です。揃々、考えない事には……」
揃々だ。
死ぬまで面倒見ていては、蘇えりを発生させてしまう。
砦の安全神話を築く為にも、内部での発生は食い止めなくてはならない。
他の生存者に与える精神的なダメージも考えれば、最悪の判断も否めないと言う展開。
これに緒方は窮迫し、身振りを大きくする。
「そ、そりゃねぇだろっ、統也は田島の為に ここを出てったんだぞっ?
ダメだからって、そりゃ……どのツラ下げて説明したらイイんだよ、俺はぁ!」
「説明責任は我々が負います。然し……」
「彼等が受け入れるでしょうか? 特に水原君は……」
N県に立つ前、統也は『必ず戻るので田島をお願いします』と、しつこく迫っている。
統也の居ぬ間に滅多な事が起これば、今後の信頼関係にも響く。
半面、統也がいないからこそ、反発を買わずに事を済ませられる。
緊急による是非を唱えれば納得せざる負えないのだから、村岡の気持ちは揺れる。
「点滴を外したらどうなる?」
「栄養が行き渡らなくなれば次第に……
血管も細くなってますから、外してしまえば次は難しいかと」
針を付け直す作業すら困難な程、田島の体は死を間近に迎えている。
言ってみれば、今日か明日かも分からない命。
村岡は意を決する。
「――仕方が無い。……彼には諦めて貰おう」
「む、村岡サンよぉ、そ、そりゃ、本気かい……?」
「自分はここにいる生存者の命を預かっています。これ以上危険に晒す事は出来ません」
「と、統也には何て……」
「事後報告になりますが、戻り次第、自分が伝えます」
「ぁ、あぁ……そ、そぉしてくれや、俺はもぉ何とも言えん……
中で蘇えられんのだけは勘弁願いてぇ、それだけだっ、」
変わらない状態で統也を迎え入れてやりたいが、それも難しいとなれば緒方に村岡を咎める事は出来ない。
*




