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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
109/140

109


 Y市自衛隊駐屯地。


「帰って来ねぇなぁ……」


 緒方は首に巻いたタオルで額の汗を拭いながら、N県へ向けて出発した3台の車が戻るのをロビーで只管待ち侘びる。


 統也達が駐屯地を出てに2日。

便りが無いのが無事の知らせと思っているが、やはり心配でならない。

そんな緒方の傍らで、村岡は苦笑する。


「今日明日には帰って来る筈です。

こちらも全ての作業が片付きましたし、バリケードも強化しました。

無事に迎えて上げましょう」

「そうさなぁ。

死体の山はどうすっかと思ったが、ハァ……埋めちまえばこっちのもんだ。

後は、松尾将補と田島が起きてくれりゃぁよ、世話ねんだけどなぁ」


 そこに、看護師の清水が駆け寄る。


「村岡三等陸佐、宜しいですか?」

「どうかしたか? 容体に変化が?」

「はい。少し奇妙な事が……」

「何だい、清水サン。奇妙ってのは? 2人はちゃんと生きてんだろ?」


 緒方の疑問符に清水は見識に迷い首を捻る。


「脈拍は弱っていますが安定してます。ですが……皮膚の表面に変化が、」

「変化?」

「田島君に見られる現象なんですが、痩せた皮膚が硬質化しているような気がするんです」

「そんな事が起こり得るのかっ?」

「自分も初めてなので何とも……

脂肪を失った分、皮膚が硬直しているのかも知れませんが、

レントゲンでも撮らない事には、正確な事は分かりません」

「レントゲン……流石にそれは無理だろう。点滴でどうにかならないか?」

「点滴治療での回復は今が限界です。揃々、考えない事には……」


 揃々だ。

死ぬまで面倒見ていては、蘇えりを発生させてしまう。

砦の安全神話を築く為にも、内部での発生は食い止めなくてはならない。

他の生存者に与える精神的なダメージも考えれば、最悪の判断も否めないと言う展開。

これに緒方は窮迫し、身振りを大きくする。


「そ、そりゃねぇだろっ、統也は田島の為に ここを出てったんだぞっ?

ダメだからって、そりゃ……どのツラ下げて説明したらイイんだよ、俺はぁ!」

「説明責任は我々が負います。然し……」

「彼等が受け入れるでしょうか? 特に水原君は……」


 N県に立つ前、統也は『必ず戻るので田島をお願いします』と、しつこく迫っている。

統也の居ぬ間に滅多な事が起これば、今後の信頼関係にも響く。

半面、統也がいないからこそ、反発を買わずに事を済ませられる。

緊急による是非を唱えれば納得せざる負えないのだから、村岡の気持ちは揺れる。


「点滴を外したらどうなる?」

「栄養が行き渡らなくなれば次第に……

血管も細くなってますから、外してしまえば次は難しいかと」


 針を付け直す作業すら困難な程、田島の体は死を間近に迎えている。

言ってみれば、今日か明日かも分からない命。

村岡は意を決する。


「――仕方が無い。……彼には諦めて貰おう」

「む、村岡サンよぉ、そ、そりゃ、本気かい……?」

「自分はここにいる生存者の命を預かっています。これ以上危険に晒す事は出来ません」

「と、統也には何て……」

「事後報告になりますが、戻り次第、自分が伝えます」

「ぁ、あぁ……そ、そぉしてくれや、俺はもぉ何とも言えん……

中で蘇えられんのだけは勘弁願いてぇ、それだけだっ、」


 変わらない状態で統也を迎え入れてやりたいが、それも難しいとなれば緒方に村岡を咎める事は出来ない。



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