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(気にしない……か、)
どうせなら根に持たれたい気もする複雑な心境。
そこに横槍。
「こんな時に、どーしてサボってられるかなぁ?」
院内薬局の出入り口に寄りかかって不満を聞かせるのは仁美だ。
統也はギョッと目を丸め、慌てて由月の手首を離す。
「ぁ、あぁ、平家サン、そっちは片付いたんですかっ?」
「まだ。大川サンがいないから見て来いって、浜崎サンに頼まれただけ」
「そ、そうですか! 大川サン、薬が欲しかったみたいでっ、」
「ふーん」
仁美の顔には“不愉快”と書かれている。
然し、気に留めるでも無い由月は、手に入れた安定剤と湿布を持って踵を返す。
「だからぁ、大川サン、何処行くのッ?」
「スタッフルームにも備品はあるでしょうから、取りに行って来ます。
診療所を出る事はしませんから、私の事は気になさらず結構と、浜崎サンにお伝え頂けると助かります」
「はぁ? 自分で言えばぁ?」
「そうですね。分かりました」
頷くも、由月の足は浜崎達がいる診察室では無く、スタッフルームへ。
行動を改める気の無い由月の態度に仁美は呆れ返って露骨な溜息をつくと、次には統也を睨む。
なに食わぬ顔をして作業を再開しているから、また腹立たしい。
「統也クンは、あの人の事が気になってるんだ?」
「別に、気にしてるってわけじゃ……
俺の所為でケガをさせてしまったから、謝っただけですよ、」
「あの人、結構キレイだもんね?
あぁゆぅ細っこいの、男は守りたいとか思うもんだしね?
靖田クン何か、あの人にゾッコンで、まぁ、ちょっとあそこまでいくと引くけど」
妙に悟った口振りの仁美に統也は怪訝する。
「そう言えば平家サン、恋人はいらっしゃらないんですか?」
「はぁ? 何で今その話?」
「この前は、俺の話だけで終わっちゃいましたから」
「……イナイよ、そんなの」
「そうですか、」
仁美は俯き、口を尖らせる。
「好きな人はいたけどね」
言及。
仁美らしからぬ力ない言葉に、統也はバツが悪そうに視線を泳がせる。
「本当にすみません、余計な事を……」
「別にイイって。大した事じゃ無いから。
会社のセンパイで、優しくて落ち着いたのがいて、それがイイなって思ってただけ」
「告白はしなかったんですか?」
「はぁ? するワケないじゃんッ、
別に、どーにかなりたかったわけじゃないし、気づいたら彼女できてたしッ」
「そうですか」
「世の中って弱肉強食じゃんッ、
私みたいな一般人が どーこーしようとしても、元々才能あるヤツに勝てるワケないし、そぉ思ったら、色々 面倒臭くなっちゃうじゃん!」
どうやら仁美は、自分自身に強い劣等感を持っている様だ。
負けっぱなしの人生に愛想を尽かしているとでも言いたげに、肩を落とす。
統也は首を傾げて苦笑する。
「俺は、そうは思いませんよ?」
「えぇ?」
「言えば良かったのに。その先輩に」
「だから!」
「きっと喜んだと思いますよ? 平家サンだって、充分 可愛いから」
「!!」
そんな事を言われたのは初めてだろう仁美の顔は瞬く間に紅潮。
ヨロヨロと後ずさる。
「な、何!? はぁ!? 頭おかしいんじゃないの!?」
「え? 何でです?」
「もぉイイ! じゃぁね!」
仁美は走って診察室へ戻って行く。
ポツンと残される統也は、瞬きを繰り返す。
「俺、何かマズイ事言ったのかな?」
無自覚。
*




