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ブラックビート  作者: 坂戸樹水
102/140

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 診療所内の安全が確認されると、浜崎は外で待機している全員を呼び寄せる。



「生存者はいなかった」



 この報告に岩屋と日夏はは首を傾げる。


「いなかったって……そりゃどうゆう事です?」

「み、皆サン、他の場所に移動しちゃったんですかっ?」


 残念としか言えない真実を、敢えて伝える必要も無いだろう。

浜崎は言葉を選ぶ。


「いいや。それも分からないんだ。ただ、ここにはいなかった」

「何処に行ったか分からない以上、私達にはどうする事も出来ません。

今の内に薬や医療器具を纏めて、明日の朝にはトラックに搬入できるよう準備しましょう」

「出発は明日の朝か……」

「我々も直ぐにでも戻りたいがね、夜間の走行は控えた方が良いだろう。

仕方が無い」


 夏の日差しであっても、日照時間は日に日に短くなっている。

日暮れからの時間を使えない一同にとって、1日は極めて短い。

吉沢は駐屯地の看護師=清水から預かったメモを、言葉ない統也に手渡す。


「ここに田島君と松尾将補に必要な点滴の種類が書かれてるの。水原君に任せても良い?」

「はい……」

「元気を出して……って言うのは無理よね、私達も辛いわ……

でも、今はこれからの事を考えましょう。生き延びる為に」

「はい、」


 “生き延びる為”。由月の言葉は吉沢の心にも響いている。

統也にも守るべき友がいる以上、立ち止まってはいられない。

そう激励する吉沢の厚意に、統也は深く頷く。


 浜崎と吉沢に連れられ、他の面々が診察室にて医療器具の梱包をする中、統也は小狭い院内薬局で作業をする。

メモに書かれているのは点滴だけで無く、様々な薬の銘柄。

今後、怪我をしたり病気になる者もいるだろうから、充分な備えを整える必要がある。


(俺達は生き延びなきゃならない。

必要なら こうして物資を補給しに出て、少しでも安全な場所を探し続ける。

そうまでして生きたいのかと問われれば良く分からないけど……

ただ、そうしようと思う。今は、田島を救う事。

田島を救えたなら、きっとそれは希望になる。俺達はもう1度生きられる)


 今は生きた心地もしないが、生きる望みが見せる世界を変えるだろう。



「点滴は……

ソリタ、ラクテック、ポタコールR……初めて聞く名前ばっかりだ」


 薬剤は壁に備え付けられた棚に分類されて並んでいる。

どんな効果があるのか分からないが、医薬品名が書かれたシールが貼り付けられているから、統也でも見分けられるだろう。

指先でシールをなぞって慎重に確認し、在庫の全てを空の段ボール箱に詰めていく。



 カタン……



 背後の物音に、統也は慌てて振り返る。


「!? ……ぉ、大川サンか……」

「驚かせたかしら? ごめんなさい」


 一声をかけてくれれば良いものを、黙って背後で作業されては統也で無くても驚く。


「どうしたんです? 何ですか、ソレ?」

「私物が無くなりそうだから、幾つか分けて頂くわね」


 由月が錠剤を手に取ると、統也は薬の銘柄を一瞥で確認する。

確か、メモに書かれていた物だ。



(安定剤?)



 精神安定剤の一種として、看護師の清水が求めている薬の1つ。

それを由月が私物として持ち歩いているとなれば気にもなる。


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