102
診療所内の安全が確認されると、浜崎は外で待機している全員を呼び寄せる。
「生存者はいなかった」
この報告に岩屋と日夏はは首を傾げる。
「いなかったって……そりゃどうゆう事です?」
「み、皆サン、他の場所に移動しちゃったんですかっ?」
残念としか言えない真実を、敢えて伝える必要も無いだろう。
浜崎は言葉を選ぶ。
「いいや。それも分からないんだ。ただ、ここにはいなかった」
「何処に行ったか分からない以上、私達にはどうする事も出来ません。
今の内に薬や医療器具を纏めて、明日の朝にはトラックに搬入できるよう準備しましょう」
「出発は明日の朝か……」
「我々も直ぐにでも戻りたいがね、夜間の走行は控えた方が良いだろう。
仕方が無い」
夏の日差しであっても、日照時間は日に日に短くなっている。
日暮れからの時間を使えない一同にとって、1日は極めて短い。
吉沢は駐屯地の看護師=清水から預かったメモを、言葉ない統也に手渡す。
「ここに田島君と松尾将補に必要な点滴の種類が書かれてるの。水原君に任せても良い?」
「はい……」
「元気を出して……って言うのは無理よね、私達も辛いわ……
でも、今はこれからの事を考えましょう。生き延びる為に」
「はい、」
“生き延びる為”。由月の言葉は吉沢の心にも響いている。
統也にも守るべき友がいる以上、立ち止まってはいられない。
そう激励する吉沢の厚意に、統也は深く頷く。
浜崎と吉沢に連れられ、他の面々が診察室にて医療器具の梱包をする中、統也は小狭い院内薬局で作業をする。
メモに書かれているのは点滴だけで無く、様々な薬の銘柄。
今後、怪我をしたり病気になる者もいるだろうから、充分な備えを整える必要がある。
(俺達は生き延びなきゃならない。
必要なら こうして物資を補給しに出て、少しでも安全な場所を探し続ける。
そうまでして生きたいのかと問われれば良く分からないけど……
ただ、そうしようと思う。今は、田島を救う事。
田島を救えたなら、きっとそれは希望になる。俺達はもう1度生きられる)
今は生きた心地もしないが、生きる望みが見せる世界を変えるだろう。
「点滴は……
ソリタ、ラクテック、ポタコールR……初めて聞く名前ばっかりだ」
薬剤は壁に備え付けられた棚に分類されて並んでいる。
どんな効果があるのか分からないが、医薬品名が書かれたシールが貼り付けられているから、統也でも見分けられるだろう。
指先でシールをなぞって慎重に確認し、在庫の全てを空の段ボール箱に詰めていく。
カタン……
背後の物音に、統也は慌てて振り返る。
「!? ……ぉ、大川サンか……」
「驚かせたかしら? ごめんなさい」
一声をかけてくれれば良いものを、黙って背後で作業されては統也で無くても驚く。
「どうしたんです? 何ですか、ソレ?」
「私物が無くなりそうだから、幾つか分けて頂くわね」
由月が錠剤を手に取ると、統也は薬の銘柄を一瞥で確認する。
確か、メモに書かれていた物だ。
(安定剤?)
精神安定剤の一種として、看護師の清水が求めている薬の1つ。
それを由月が私物として持ち歩いているとなれば気にもなる。




