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N県。
先頭を浜崎の運転するセミトラックに任せ、3台は山道を走る。
予定では、もう揃々目的地に到着する頃合だ。
今日は何事も無く過ごせるかと思っていたが、坂本が夏病に侵され、自ら命を絶ったのは3時間程前の事。
外は青空が広がっていると言うのに、車中の空気は曇天の様に重々しい。
1人でセミトラックを運転し続ける浜崎の傷心を思えば、かける言葉すら用意できそうにない。
岩屋はフロントミラー越しに後部座席の3人を見やる。
「あのさ、聞いて良いかな?」
「何ですか?」
答えるのは統也ばかりだが、岩屋は続ける。
「坂本サンはぁ……何であんな事……」
夏病に侵された自殺者だと言う事は解かっている。
然し、余りにも突然の出来事だったから、岩屋は問わずにはいられない。
「分かりません。昨日まではそんな様子、無かったのに……」
(いや、Y市を出てから異常な暑だったのは気になっていた。
だからって気を緩める事は無かったし……
でも、その所為で坂本サンは体調の変化に気づけなかったのかも知れない)
車中はエアコンがかかっているから暑さは感じないが、日中の今、外は酷暑だ。
車のボンネットで目玉焼きくらいは簡単に焼けるだろう。
「一応 言っとくけど、俺が何かぁ……そのぉ、変な行動し出したら宜しく頼むな」
「ょ、宜しくって、何ですかっ?」
「どうゆう状態でも、何にしろ、兎も角だ。痛くないように頼む」
「よしてくださいよ、そんな縁起でも無い事っ、」
「だけどよぉ、今は無事でも、坂本サンみたいに次にはどうなるか分かんねぇだろ? 俺だけじゃなく、全員さぁ」
「そうですけど……、」
「統也がラリったら容赦なくブッ飛ばしてやるから、直ぐに意識 取り戻せな?」
「それなら俺も痛くないようにお願いします」
何の前触れも無くやって来るタイムラグの脅威。
変化の一旦を間近に見てしまうと、今正常でいられる事が却って不思議に思える。
2人は空笑いをして困惑を誤魔化す。
由月は窓の外を見やる。
山々が連なり、こんな状況でも無ければ絶好の展望を楽しめた事だろう。
「少し、涼しくなって来たわね」
車は坂道を登り続けている。標高が上がった事で外気が下がった様だ。
岩屋は『そう言えば』と零し、冷房を弱める。
「やはり、気象と影響は大きく関わっているのかも知れない」
「それは、どうゆう意味ですか?」
「大川センセ、もぉホント、アンタが頼りだわ。で、影響って何?」
由月は口元に手を添え、考えを巡らせながら話し始める。
「Y市を出てK県へ入った辺りから、異常な気温上昇が感じられたわ。
10度近い体感差」
「そうですね。俺も40度は超えているんじゃないかと思いました」
「普段からK県は雷雨の多い地域で、夏の気温に関しても全国上位」
「それが何? それで坂本サンは夏病になったって?
そんなの考えるまでもねぇだろうよ、大川センセ」
「待ってちょうだい。今、分析していますから……
気象に乱れが多いと言う事は、その分、大気中のイオンバランスが悪いと言う事で……」
「分からねぇぞ、大川センセぇ~~」
「イオンにはマイナスとプラスがあるでしょう?
電界があるのよ。磁場も発生する」
「はぁ……あ! 電界、磁場……16ヘルツ……」
「そうよ、統也君。
地球の心音がより強く影響を齎す場所、それが気象変化の激しい土地。
この関係がイコールなら、Y市も含めK県はそれ以上に影響を受け易い土地だと考えられる。
それこそ、前触れも無く夏病を発症させる程の」
「って事はぁ……大川センセ、俺達は相当 運が良いって事か?
暑いってくらいで、特に何も感じなかった」
「鈍感って言い方もあるんじゃない?」
仁美の愚痴っぽい言い草に、岩屋は不機嫌そうに鼻を鳴らすが、由月は首を傾げる。
「影響を受けていない……」
全てが変化してから今日に至るまで、タイムラグは続き、生存者の数は減少し続けている。
然し、由月が見る限り、明らかに それ等の影響を受けていない者達が目の前にいる。
これも個人差と言えなくも無いが、科学的見地で言うなら、影響を受けないなりの理由がある筈だ。それが解かれば影響を取り除く一石になるに違いない。
由月は黙り込んだきり、考え耽る。




