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予想だにしないパンデミックが降って沸いたのか、制止も万策尽きた挙句の漏洩か、どの道、この深刻さを納得させるだけの理由にはならない。
「じゃぁ どうなっちゃうんだよっ、
誰も助けに来てくれなかったら、どうなるんだよ!?
化けモンの餌食になるのを待てってのか!? 冗談じゃねぇよ!
ここまで逃げて来て、そんなんねぇよ! フザケンなよ!!」
「田島、落ち着けよっ、」
「落ち着いてられるか!
家にも帰れねぇで、こんな何もねぇトコいられねぇよ!!」
「この辺は中心部から外れてるし、安全な方だ、きっと、」
「何処が安全だよ!? お前だって見ただろ!? ありゃゾンビだ、ゾンビ!
あんな得体の知れねぇ化けモンに追っ駆けられて、こんなバカげた事……
いつんなったら収まんだよ!? いつだよ!?」
「そんなの分かんないよ、俺だってっ……
でも、国だって何かしらの対策は採る筈だ。アメリカとか、隣国なんかも……」
「だから、いつだよ!? そいつらが今日中にオレ達を助けてくれんのかよ!?
何とかしてくれんのかよ!? 明日も明後日もこんなん、堪えられねぇよ!!」
統也の言う余りにも目途の無い展望に、田島は両手で頭を抱えて蹲る。
まるで雷から臍を守る子供の様だ。
(我ながら説得力の無さったらない……
国家レベルで考えたって、今をどうやって収束するのか……
その手立てがあっても時間がかかりそうだ。
アメリカだのって適当な事言ったけど、もし世界レベルだったら?
日本みたいな小っさい島国の面倒なんか見てられないだろ……
って、俺達みたいな平民が必死になったって、無駄な足掻きにしかならないじゃないか、)
田島の泣きじゃくる声を聞けば、一層に志気が下がる。
落胆を隠せない統也は項垂れ、愚痴を零す。
「もう、馬鹿みたいだ……大体、ゾンビって何だよ? 映画でしか観た事ないよ、
噛まれると感染してゾンビになって、そうやって芋づる式に増えてくんだろ?
あれが本当なら人類が太刀打ち出来るわけが無い、
単純に死ぬだけでもゾンビなら、どっち道ゾンビ確定じゃないか……」
「!」
統也の吐露に田島はビクリと肩を震わせ、のけぞる。
「と、統也」
「何……?」
「ぉ、お前、感染してねぇよな?」
「――ぇ?」
「感染してねぇよな!?」
田島から向けられる欺瞞と恐怖の目に、統也は放心する。
現状を説明できる要素が1つも無い。何も分からない。
それによって生じる先入観と憶測。
(ああ、こんなの、少しだって精神が持つとは思えない……)
絶望的な展開に統也が言葉を失えば、田島は我に返って土下座する。
「……ぁ、あぁ、ゴ、ゴメンっ……だって、お前が変な事言うからぁ、
うぅぅ、勘弁してくれよぉ、お前があんなんなったらオレ1人でどうしたらイイんだよっ、ヤダよオレ、1人とかぁ、うぅぅ」
「ぁ、ああ……うん、解かるよ、しょうがない……
感染は、してないと思うよ……良く分かんないけど、今の所は……」
感染するも何も、それすら判明していないのだ。
少なくとも、直接 死者には触れてはいない。
警備室に逃げ果せてから1時間は経つが、奇妙な体調の変化も見られないから安心して良い様にも思う。
(1人は心細い……
でも、自分以外の他人に対して疑ってかからなきゃ自分を守れない……
最悪だ、最悪……)
「取り敢えず、今は少しでも休もう……」
「そ、そうだな……
こんな時にアホみたいだけど、オレ、普通に眠気がさ、ハハハ……
ワリぃけど、ちっと寝てイイか?」
「ああ、良いよ。何かあったらすぐ起こすから」
「ホントだぞ? 起こせよ? ゼッテェ置いてくなよ?」
「分かってるよ。約束する」
存外パニックには弱いらしい田島には眠っていて貰えた方が良い。
統也の快諾に、田島は鞄を枕に寝転がる。そして照れ臭そうに言うのだ。
「ありがとな、統也。お前のお陰で生き延びた……」
語尾は寝惚け口調。
間も無くして寝息が聞こえると、統也は肩を撫で下ろす。




