4-24 小さな転生貴族は許しを請われる
※3月21日に更新しました。
(バンッ)
勢いよく扉が開かれる。
そこから複数人が勢いよく入ってきた。
駆け寄ってきたかと思うと、倒れるヴァンの近くに集まる。
「ヴァン様の命だけはお助けください」
一人の男が嘆願する。
年齢は明らかに年上だが、ヴァンを目上として扱っているようだ。
「お前ら、なぜここに……」
「ヴァン様をおいて我々だけ逃げられるわけないじゃないですか」
ヴァンの言葉に男は笑顔で答える。
どうやら彼らが仲間なのだろう。
俺の予想は当たっていたようだ。
「我々の命でしたら、差し上げる所存です。なので、ヴァン様だけはどうか……」
「やめろ、お前たち」
仲間たちの嘆願をヴァンは止めようとする。
だが、誰も止めようとはしなかった。
次々と俺に頼んでくる。
「この男にどうしてそこまで?」
俺は思わず問いかけた。
たとえ仲間だとしても、普通はここまでしないだろう。
そんな俺の問いに最初の男が答えた。
「聖光教の中でヴァン様が唯一我々を人として扱ってくださいました」
「……それはどういう意味?」
いきなりの内容に俺は理解できなかった。
咄嗟の話にしては重すぎる気がする。
「我々は全員が平民出身です。ルミエール聖教国で生まれた人間は全員が聖光教に入信しますが、平民の我々に対する扱いはとても酷い。人として扱われず、まるで奴隷のようにこき使われているのです」
「……」
「そんな中、ヴァン様だけは違いました。多くの聖騎士が貴族出身の従者を選ぶ中、ヴァン様だけは平民出身の我々を選んでくださいました。そのおかげで我々は救われました」
「だから、自分たちの命を?」
「はい」
ヴァンの仲間たちは全員頷く。
彼への恩義があるから、全員が同じように行動できるのだろう。
あるのは聖光教への信仰ではなく、ヴァンへの信頼のようだ。
そんな中、一人の男が口を開く。
「一人のメイドが負傷しましたよね」
「……そうだが」
シルフィアのことを言われ、俺は自然と低い声が出た。
何を言うつもりだろうか?
「それは私のせいです」
「違う、やめろっ!」
ヴァンは否定しようとする。
だが、男の暴露は止まらない。
「もちろん、私も傷つけるつもりはありませんでした。ですが、少女たちを取り返そうと暴れるメイドと争ううちに脅すために持っていたナイフで刺してしまったんです」
「……一緒に誘拐しようとした時点で同罪だと思うけど?」
「たしかにその通りです。ですが、ヴァン様はあなた方が到着する直前まで、メイドを死なせないために魔力を分け与えていました。隠密の作戦中をバレるわけにはいかないため、あなた方の到着に気付いてその場から立ち去りました」
「だから許せ、と?」
「いえ、メイドを傷つけたことにヴァン様の非はないので、そのことをわかっていただきたいだけです」
「……」
男の言い分はわからないでもない。
だが、ヴァンたちがハクアとクロネを誘拐したのは事実だ。
許して良いのだろうか……
「グレイン」
「父さん」
いつの間にかアレンが近くにいた。
先ほどまで怒っていたのに、今は落ち着いている様子だった。
「男がここまでしているんだ。許してやろう」
「いいの?」
まさかアレンがそんなことを言うとは思わなかった。
娘を誘拐され、メイドを傷つけられたのだ。
普通は許せないと思うのだが……
「もちろん、罰は受けてもらうぞ? うちの領地で重労働でもしてもらおうか?」
「それでいいんですか?」
アレンの提案に男が驚く。
罰が思ったより軽かったのだろう。
自分の命を引き換えようとしたのに、肩透かしを食らったのかもしれない。
「重労働だぞ? きつい仕事のはずだ」
「ヴァン様の命を救えるのなら、どんな仕事でもしましょう。犯罪は勘弁ですが……」
「安心しろ。人様に犯罪を命令するほど俺も非道じゃない」
「それは失礼しました。ありがとうございます」
アレンが嫌そうな表情をしたので、男は謝罪をして感謝の言葉を口にする。
「だが、子供もメイドも俺たちのことを嫌がるんじゃないのか? 誘拐犯だぞ?」
「まあ、それも罰の一部だな。信頼して貰えるように努力しな」
「……なるほどな。感謝するよ」
ヴァンは納得し、アレンの提案を受け入れた。
彼としては、自分の部下たちを救えれば良いのだ。
ならば、この提案を受け入れない理由がない。
作者としては、きちんとした理由があるのであれば情状酌量はされるべきだと思っています。
もちろん、裁判のニュースとかで出てくる精神疾患のやつはどうかと思いますが……
別に罰を与えないわけではなく、罪に対して適切な罰を与えるべきだということです。
作者のやる気につながるので、読んでくださった方は是非とも評価やブックマークをお願いします。




