1-7 死んだ社畜はやらかします (改訂版)
本日3話目です。
「ふむ……【魔法とはすなわちイメージである】か」
俺は【サルでもわかる魔法の使い方・初級編】を読み、なるほどと頷く。
魔法というのは魔力があるだけでは使えない、どのように使うかをイメージして初めて使えるものだということだ。
といっても、最低限魔力はないといけないし、魔力を使うことができなければ意味がないわけだが……
「どういうことなんですか?」
そんな俺の言葉にリュコが首を傾げる。
どうやら彼女には俺の言ったことが理解できなかったのだろう。
まあ、彼女は文字が読めない環境で育ってきたぐらいなので、いくら初級編でも本に書かれてあるような内容を理解しろという方が酷なのかもしれない。
とりあえず、俺が実践してみることにする。
魔力についてはすでに理解できている。
魔力を持っている人間は胸のあたりに魔力の塊があり、そこから全身をまるで血液の様に循環しているのだ。
魔力の塊はいわば心臓のようなものと考えていいだろう。
そして、その魔力を俺は右手に集中させる。
イメージは蝋燭の炎──小さな光で周囲を照らすイメージを思い浮かべる。
「小さな光よ 照らせ 【ライト】」
(ポワッ)
俺が呪文を唱えると右手からソフトボールぐらいの光の球体が現れた。
不安定でまたまだ光量は足りないが、それでも初めてにしては上出来ではないだろうか?
そんな思いでリュコの方に視線を向けると──
「なんで一回で成功してるんですかっ!?」
「ええっ!?」
──なぜかいきなり怒られた。
成功したのに、なんで怒られないといけないのだろうか?
しかし、大きな声を出したことで平静になったのか、リュコはすぐに落ち着きを取り戻した。
「すみません。まさかグレイン様が一回で魔法を成功させるとは思わなかったので……」
「えっと……もしかして、すごいことをしたの?」
「はい。大体、魔法を習い始めるのが5歳ぐらいからと言われており、魔法を使える先生の下で指導を受け、大体平均1週間ぐらいかかってようやく使えるようになるそうです。ちなみに、1ヶ月かかってもできない場合には魔法の才能がないとみなされます」
「……なるほど」
リュコの説明に納得する。
そういえば、女神さまが適性のないものはいくら練習してもできないものはできないと言っていたので、おそらくそれは魔法の適性がなかったということなのだろう。
俺は全属性魔法の適性があるので関係ない話ではあるが……
「といっても、4歳の時点ですでに簡単な文字を読めるグレイン様なら、魔法を一回で成功させるなんて簡単でしたね」
「……それは褒めてるのか? 褒めるような言葉の中にまるで僕がおかしいといったようなニュアンスを感じるんだけど?」
「……ソンナコトハナイデスヨ」
「……まあ、気にしないでおくよ」
リュコはサッと視線を逸らし、片言で返事をする。
しかも、「ひゅーひゅー」と吹けない口笛をしながらである。
これほどわかりやすいなんて珍しいが、転生で勇者ほどではないがこの世界の一般人からすればチートと言われてもおかしくない力を持っているので、あながち間違いではない。
なので、彼女の反応もわからないではない。
そんなことを言っても、頭がおかしくなったのかと心配されるのがおちだが……
「でも、なんで一発で成功したんですか? 私はまったく糸口もつかめないんですけど……」
「簡単な話だよ。要は自分のしたい事を頭でイメージして、それを魔力を使って再現するのが魔法なんだよ」
「えっと……」
どうやら俺の説明はまだ難しかったようだ。
さて、どう説明したらいいか……
「そうだな……例えば、机の上に本があるよね?」
僕はとりあえずわかりやすく説明するために机の上にある本を指さす。
ちなみに本の題名は【暗殺術・初級】だった。
この本を指さしたのに意味はない。
「はい、ありますね」
「じゃあ、リュコがあの本を手に取りたいとき、どうする?」
「えっと……手を伸ばして取りますね」
俺の質問にリュコは少し悩んで答える。
だが、この反応なら魔法を使うのにそこまで苦労しないだろう。
「今、リュコは本を手に取るための自分の行動を頭に浮かべたよね?」
「はい、そうですね」
「それがイメージするってことだよ。頭の中に思い浮かべたことを魔力を使って実現する、それが魔法なんだ」
「な、なるほど」
ようやく僕の説明を理解してくれたようで、リュコが頷いた。
彼女は元々勉強をしてこなかっただけで、案外理解力はある方なのかもしれない。
では、次の段階だ。
「じゃあ、自分でやりたいことをイメージして、それを循環している魔力で再現してみようか」
「……すみません」
「どうしたの?」
申し訳なさそうにリュコが話しかけてくる。
一体、どうしたんだろうか?
「循環している魔力ってなんですか?」
「あっ!?」
彼女の言葉に僕は先ほどまで彼女は自分自身が魔力を持ってることすら知らなかったことを思い出した。
イメージすることを覚えても、彼女は魔法を使うことはできなかったわけだ。
一時間後……
「どう? これが魔力の循環している感覚だよ。わかった?」
「は……はい……」
僕の言葉にリュコが頷く。
現在、僕と彼女はお互いの手を両手とも握っている状態である。
その状態で僕は彼女に魔力を流し、魔力が流れる感覚を体感してもらうことにしたのだ。
どうすれば彼女に魔力の循環している感覚を伝えようかと思ったのだが、どうにも言葉にするのは難しい事に気が付いたので体感してもらうことにしたわけだ。
なぜか彼女は手を握った瞬間、顔を茹でたこのように赤らめて俯いたが……
「自分の中にも同じように魔力が流れているの、わかるでしょ?」
「はい……たしかに私の中にも同じようなものが流れている感覚がありますね。こんなのが私の中にあったんですね」
「そういうこと。じゃあ、さっそく練習してみようか」
自分の中に魔力が流れている感覚がわかったようなので、さっそく実戦してみよう。
そう思って、彼女から手を離したのだが……
「あっ!?」
「ん? どうしたの?」
「……なんでもありません」
なぜか彼女は少し悲しげな表情を浮かべた。
なんでそんな表情をしたのだろうか?
顔を赤らめたり、悲しげな表情をしたり、女の子はよくわからないな。
「とりあえず、何か思い浮かべてみて。とりあえず、身近なものなら思い浮かべやすいんじゃないかな?」
「う~ん、そうですね……蝋燭の火を思い浮かべます」
「それがいいんじゃないかな」
「では、やってみますね」
彼女はそういうと目を瞑り、右手を掲げてぐっと力を入れる。
おそらく魔力を集中させようとしているのだろうが、別に力を入れなくても意識をすれば魔力を集中することはできる。
彼女は先程魔力の感覚を感じたので、そんなことを知る由もないが……
「グググッ……」
彼女は体内にある魔力を一点に集めようとしているのか、どんどん彼女の右手魔力が集まっていくのを感じた。
やはり俺の見立て通り、かなりの魔力を体内に保有しているようだ。
この世界での平均値は知らないが、それでもかなり多いように感じる。
だが、そこであることに気付いた。
それだけの魔力が右腕に集中してるということは、その魔力で魔法を使うことになるわけで……
「リュコ、ちょっとや……」
それに気づいた俺は制止しようとするが、
「篝火よ 燃えよ 【フレア】」
その制止もむなしく彼女は呪文を唱えてしまった。
そして……
(ドオオオオオオオオオンッ)
「きゃあっ」
「うっ」
彼女の右手から発生した爆発に俺達は巻き込まれた。
その衝撃で俺は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
あまりの痛みにそこで俺の意識は途切れてしまった。




