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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第八章 成長した転生貴族は留学する 【8-2 獣王国ビスト編】
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8-2-20 死んだ社畜は魔物の異種混合集団を排除する 7


「三つ目は魔物たちの装備だ」

「装備?」

「魔物たちの装備が整いすぎているんだ」

「……あり得ない話なの?」


 イリアさんが聞き返してくる。

 彼女にとって、魔物の装備が整っていることがおかしい事だとは思わないのだろう。

 魔物たちも戦う以上、装備を整えることがあると考えたのだろう。

 その考えは間違いではない。

 だが、完全な正解でもないのだ。


「魔物が装備を整える場合、どうすればいいと思う?」

「え? 自分たちで作る……なんてことはできないわよね。じゃあ、どこかから奪うのかしら?」

「そういうことだ。冒険者と戦って殺したり、息絶えてしまった冒険者の遺体から奪うことがほとんどだ」

「そんな風に揃えるのね」

「ああ。だからこそ、おかしかったんだ」

「整いすぎている、ってことが?」

「そうだ。本来は先ほど言ったような方法で装備を揃えるわけだから、冒険者たちの中古品と言うことになる。その時は一式で手に入るかもしれないが、消耗の度合いは場所によってさまざまだ。だから、何時までも使っているわけにもいかず、先に壊れる場所が出てくるわけだ」

「それが整いすぎているのがおかしいと言っていた意味ね」


 俺の説明にイリアさんが納得する。

 だが、この説明には続きがある。


「他にも装備が新しすぎた」

「だったら、おかしいんじゃないかしら? 冒険者たちから奪った中古品なんだったら、新しすぎるなんてことはないでしょう」

「新品の装備を手に入れた新人冒険者が調子に乗って無茶なクエストを受けた末に命を落とす。その結果、新品の装備を魔物が手に入れた、なんてことはない話ではない」

「……おかしな話ではない、ということ?」

「まあ、そんな失敗をするような冒険者はほとんどいないがな。そのレベルの失敗をする新人なら、必ず基礎を教えてくれる先輩がいるだろうしな」

「そう言われると、当たり前のことね。じゃあ、魔物たちの装備が整っていることはかなり異常なことね」


 イリアさんが納得する。

 おかしいということを理解してくれたようなので、話をさらに続ける。


「完全にゼロとは言えないから、魔物が新品の装備を揃えていること自体は否定しない。だが、それを魔物の集団単位で揃えていることは明らかにおかしい」

「魔物の集団に行き渡るぐらいの数の新人冒険者が失敗していることになるものね」

「そして、上位種の装備は明らかに新人冒険者が使うような代物ではなかった。少なくとも、Cランク級の冒険者が使うようなものだった。特にオーガエンペラーが使っていた戦斧はBランクどころかAランクの冒険者が使っていてもおかしくはない高級品のはずだ」

「え? それはそのレベルの冒険者がやられた、ってことよね?」


 俺の説明にイリアさんがそのような結論に辿り着く。

 今までの説明を聞いていれば、そういう風に考えるのは当然だろう。

 ほとんどの人が同じように考えるはずだ。

 だが、俺はその考えを否定する。


「まず、そのレベルの冒険者が野垂れ死にすることはまずない。そんなレベルの失敗をするような冒険者があんな装備を整えることができるはずがないからな」

「なるほど……だったら、他の魔物にやられて命を落とした可能性があるんじゃないかしら? そのオーガエンペラーにやられた可能性だってあると思うわ」

「いや、その可能性も低い」

「え?」


 俺の言葉にイリアさんは驚く。

 自分の考えが合っていると思っているのだろう。

 たしかに、魔物が冒険者と倒すことができれば、その装備品を丸々いただくことができると思うだろう。

 それ自体は何らおかしい事ではない。

 だが、今回の場合では条件に合わないのだ。


「もし、オーガエンペラーがあの装備を持った冒険者と倒したことによって、その装備を手に入れたと仮定する。オーガエンペラーであれば、そのレベルの冒険者を倒すこと自体は不可能ではない」

「だったら、おかしな話じゃないんじゃ……」

「だが、その場合はその装備がかなり消耗していないとおかしいんだ。確実に激しい戦闘をしているはずなんだから……」

「あっ!?」


 俺の説明でイリアさんが気付いたようだ。

 装備は戦闘の激しさによってその損耗具合は変わってくる。

 激しい戦い方をすればするほど、損耗は当然激しくなってくるわけだ。

 オーガエンペラーとあの装備の冒険者が戦えば、全壊とは言わずとも半壊レベルにはなっている可能性が高いわけだ。


「明らかにオーガエンペラーが持っていた装備は多少の使った後はあったが、ほとんど損耗している様子はなかった。手に入れてからそこまでの時間が経っていないと思われる」

「つまり、この辺りで手に入れたということかしら? だったら、気づいたことがあるんだけど……」

「何だ?」

「装備を手に入れるんだったら、何も冒険者からじゃなくてもいいんじゃないかしら?」

「というと?」

「例えば、商人がその装備を商品として運んでいたとしたら、オーガエンペラーが商人を襲うことで新品の装備を手に入れることができると思うのだけれど……商人の護衛とかがいたとしても、商品を手に入れれば新品の装備も手に入れることができる。商人だったら装備の数もそろえている可能性もあるだろうし」


 イリアさんは鋭い指摘をする。

 たしかに、彼女の言うことは理にかなっている。

 その理屈であれば、今までの俺の話に説明をつけることができる。


「その可能性は否定できないが、この辺りで商人が魔物に襲われているという情報はないそうだ」

「その情報が伝わっていない、ということは?」

「それはないだろう。もし商人が襲われていたとしたら、街と街の間の道に何らかの痕跡が残っているはずだ」

「襲撃をされた跡、ということかしら?」

「そういうことだ。商人は基本的には街と街をつなぐ道しか通ることはないから、襲撃された痕跡は確実に道に残っているはずだ。馬車や荷物、死体を処理したとしても、すべての痕跡を消すことはできないんだ」

「たまたま人が通らなかったとか? この村は他の街から離れているんでしょう?」

「可能性はゼロではない。だが、他にも否定できる理由がある」

「どういう理由かしら?」

「商人たちは護衛の他に情報を伝える人間を雇っている可能性が高い。もし何らかの問題が発生した場合、すぐに近くの村や街に知らせることで救援を頼むためだ。もし、その商人がオーガエンペラーに襲われたと仮定すると、その情報はすぐに近辺の村や街に伝えられているはずなんだ」

「その人もやられた可能性は?」

「可能性がないわけではないが、かなり低いはずだ。そいつにとって情報を伝えることが仕事だから、生き残ることが最優先になってくる。だったら、最初にその場から逃げた可能性が高いはずだからな」

「生き残っている可能性が高いわけだから、その情報は伝わっているわけね」

「そういう情報がないわけだから、魔物たちが商人を襲撃した線も薄いということだ」

「……なるほどね」


 イリアさんは少し考えるそぶりを見せたが、反論はしないようだ。

 流石にこれ以上は否定する材料はなかったのだろう。

 そもそも彼女は魔物に関しては素人なので、否定する材料はさほど多くないのだから。

 素人だからこその面白い視点はあったが……


「とりあえず、これらの条件から裏に何者かがいると思ったわけだ」

「その何者かが魔物たちに装備を与えたということかしら?」

「そういうことになるな」

「でも、それが何の利になるのかしら? 魔物に装備を与えるということは魔物をわざわざ強くするということでしょう? 人間にとっては、害しかないのじゃないかしら?」

「いや、一概にそうとは言い切れない」

「どういうことかしら?」


 イリアさんは首を傾げる。

 これは流石に難しかったのだろう。

 俺は説明を続ける。


「おそらく今回の件の裏にいる人物は魔物を操ることができる人間の可能性がある。どういう方法を使っているかはわからないが、支配する・手懐けるなんて方法も考えられるな。そして、そうやって操ることによって、自分達の敵対している場所を襲撃することだってできるわけだ」

「誰がそんなことを?」


 イリアさんが驚き、そんなことを聞いてくる。

 まさかそんなことをしようとしている者がいるとは思わなかったのだろう。

 だが、あり得ない話ではない。

 そして、そんな彼女の質問に俺は答える。


「いや、わからない」

「わからないの?」

「そりゃそうだろう。その人物を特定するためには情報が足りなさすぎる。それに、あのレベルの魔物たちを操ることができる奴なんて、俺だって聞いたことはない」

「でも、さっきの説明をしたということはそういうことができる人間がいるんでしょう?」

「いるにはいるが、せいぜいC級程度の魔物を数体従える程度の力しかない。今回のようなことをすることができるレベルではないし、そもそもそんなことをする理由はない」

「……そういうことね」


 俺の説明にイリアさんは納得するしかないようだ。

 俺だって、わかっているのであればすべてを説明したい。

 だが、俺にもそれができないのだ。

 今回の件の黒幕が分かっているのであれば、こちらにも対処のしようがあるのに……

 とりあえず、今の俺にできることは一つだ。


「ティリス、頼みたいことがある」

「何かしら?」


 俺は真剣な表情でティリスに声をかけた。






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