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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第八章 成長した転生貴族は留学する 【8-2 獣王国ビスト編】
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8-2-14 死んだ社畜は魔物の異種混合集団を排除する 1


 俺たちは村に辿り着くと、息もつかずに駆け込んだ。

 それぐらい状況が逼迫していると感じていたからだ。

 火が上がっているぐらいであれば、そこまでしていなかっただろう。

 だが、聴覚と嗅覚がヤバいという情報を伝えてくれる。

 悲鳴と血の匂いである。


「ティリスは右回り、アリス姉さんは左回りで村を回ってくれ」

「「了解」」


 俺は二人に指示を出し、三手に分かれる。

 この村の規模は意外と広い。

 周囲の街との距離が離れているせいか、単独で生活をするために広くしているのだろう。 

 だからこそ、三人が単独行動をすることで広範囲を救助しようとしているわけだ。


「ギギャッ」

「きゃあっ」


 俺の進路にゴブリンに襲われそうになっている女性を発見した。

 俺は水の礫でゴブリンの額を撃ちぬいた。

 仰向けに倒れるゴブリンをよそに俺は女性に話しかける。


「大丈夫ですか?」

「は、はい……えっと、あなたは?」

「俺はグレイン=カルヴァドス。近くを通りかかった冒険者です。状況を教えてもらえますか?」


 自己紹介をしつつ、現在の状況を聞くことにする。

 おそらくティリスとアリスは戦うことに夢中になるがあまり、情報を聞くことを忘れる可能性が高い。

 まあ、それを見越して、二人を外周に回したのだが……

 まっすぐ村の中心に向かう俺の仕事量が一番少ないのは、こうやって情報を聞く時間を考慮してである。


「魔物たちが襲撃してきたのです」

「襲撃? この村で太刀打ちできなかったんですか?」


 女性の言葉に俺は問い返す。

 この村は冒険者がおらずとも、ある程度の魔物なら対処はできると思っていた。

 先ほどの魔物はゴブリンで、決してランクの高い魔物ではない。

 この村で対処ができると思うのだが……


「魔物の大群だったんです。最低でも200体はいたようです」

「それは多いな。だが、単独でそんな数がいるのか?」


 女性の言葉に俺は素直に驚く。

 魔物と言えども、野生の生物と何ら変わりはない。

 数が多いほど戦いの際には有利ではあるが、多すぎると日常生活に支障が出てくる。

 その数を養うための食糧などの問題が出てくるわけだ。

 だからこそ、少なくとも200体の魔物の集団の襲撃に驚いたわけだが、どうやら事情は違ったようだ。


「違います」

「違う? 何がだ?」

「単独の魔物ではないんです。複数の魔物が徒党を組んで、この村に襲撃してきたんです」

「なにっ!?」


 俺はさらに驚くことになってしまう。

 数の意味では複数種の魔物が集まっているのであれば、おかしなことではなかった。

 しかし、魔物同士で徒党を組んだという話は聞いたことがない。

 オーク種同士、ゴブリン種同士といった似たような種類でなら、聞かない話ではない。

 だが、それはあくまでもそれらの種類の上位種が指揮を執ることでまとめ上げていることが多いのだ。

 この女性の反応からして、その状況ではないのだろう。

 本当に異なっている種類の魔物たちが徒党を組んでいる、と思われる。

 それだけにかなり異常な状況だろう。


「確認できただけでも、ゴブリン種、オーク種、コボルト種の他に近辺に住んでいる魔獣がいました」

「それは多いな」

「しかも、私たちが見たことがない魔物もいました」

「見たことがない?」


 女性の言葉が気になり、俺は聞き返してしまう。

 そんな俺の反応に女性は説明を続ける。


「この近辺に住んでいる魔物たちの生態はしっかりと把握しています。攻め込まれた場合に対処できるように、事前に情報を集めているんです」

「なるほどな」

「そんな私たちが見たことがないということは明らかに近辺の魔物ではないということです。その上、他の魔物たちからも襲撃されてしまったので、対処ができなかったんです」

「そういうことか」


 女性の説明に俺は状況を把握する。

 この村が対処できるのはあくまでも近辺になわばりを持つ既知の魔物のみだったのだ。

 いや、普通に生活する分にはそれだけで十分だったのだ。

 そのなわばりの魔物は決して数も多くはないだろうから、村人たちでも対処は可能だったはずだ。

 しかし、今回は知らない魔物がいた上に単純に数が多かった。

 それがこの状況というわけだ。


「あなたは村の入り口あたりに行ってください」

「え?」


 俺の指示に女性が呆けた声を出す。

 だが、状況は刻一刻を争う。

 俺は簡単に説明をする。


「そこは先ほど俺たちが入ってきた場所ですから、魔物たちもいないでしょう」

「ですが、他の人を助けないと……」

「知らない魔物を相手することはできないんでしょう? だったら、素直に入り口付近で隠れていてください」

「……わかりました」


 俺の指示に女性は頷く。

 自分達の力量をしっかりと把握しているのだろう。

 だからこそ、受け入れざるを得なかったのだ。


「魔物たちを討伐して村人たちを助けていきますから、あなたには治療を任せますよ。流石にその時間も惜しいですから」

「っ!? わかりました」


 俺の言葉に女性は嬉しそうにする。

 自分には何もできないと思っていたが、この状況でもやることはあったからだろう。

 流石にただ助けられるだけでは彼女も申し訳ない気持ちだろうし……


「では、俺はこれで」


 俺は女性に告げると、再び駆け出した。

 状況は思ったよりもかなり不味いようである。

 魔物たちの目的はわからない。

 だが、この村の人たちの命を奪おうとしていることだけはわかった。

 なら、早急に助けて行かないといけないわけだ。


(((パンッ)))

「「「グギッ」」」

「「「っ!?」」」


 走りながらゴブリンの眉間に水の礫を撃ち込む。

 襲われていた村人たちはいきなりのことに驚きの表情を浮かべる。

 そして、周囲を見渡すと俺を発見する。

 近寄ろうとしてくるが、俺はそれを回避して指示を出す。


「村の入り口まで退避しろ。そこで怪我人の治療をしてくれ」

「「「わかりました」」」


 俺の指示に三人は頷く。

 流石に状況を理解していたのだろう。

 だからこそ、俺の邪魔をするわけにはいかないと近寄るのをやめたのだろう。


(ビュッ)

「ちっ!?」


 走っている途中に俺は舌打ちをしながら回避行動をとる。

 先ほどまで俺のいた場所に矢が突き刺さる。

 地面に刺さっているということは……


「そこかっ!」

「グウッ」


 俺は木の上に向かって水の鞭を振るった。

 矢を放った相手は水の鞭が直撃し、地面に叩き落される。

 こいつはコボルドだな。

 しかし、この状況はかなり面倒なことになったかもしれない。

 時間が惜しいというのに……


「「「「「ガルルルルルッ」」」」」


 仲間を攻撃されたと気付いたコボルトの集団が俺の周囲に集まってくる。

 コボルドは魔物の中でもっとも集団行動を得意としている魔物である。

 もちろん、それで圧倒的な実力差を埋めることができるわけではない。

 だが、それで自分達よりもある程度強い相手となら対等に渡り合うことができるようになるわけだ。


「こっちは時間がないんだ。とっとと倒させてもらうぞ」


 俺は両手から水の礫を作り出す。

 それを攻撃の合図ととったのか、コボルドたちは一斉に襲い掛かってきた。

 近づいているコボルドたちには、直接水の礫を撃ち込む。

 遠距離から矢を放ってくるコボルドにはその矢を撃ち落としつつ、本体に攻撃をした。


「ちっ……無駄な時間を使わせやがって」


 コボルドたちの全滅を確認し、俺は村の中心に向かう。

 倒すこと自体はそこまで難しい事ではない……いや、むしろ簡単な部類ではあるのだが、いちいち立ち止まらされるのは面倒である。

 少しでも被害を減らすために、急いで行動をしないといけないのに……






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