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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第八章 成長した転生貴族は留学する 【8-2 獣王国ビスト編】
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8-2-7 死んだ社畜は因縁のある集団と対峙する 2


『皆さん、聞いてください。貴方方は騙されているのです』


「……あれか?」


 町の中心にある広場に到着し、俺たちは件の怪しい集団らしき人物たちを見つけた。

 たしかに白いローブを纏った集団である。

 冒険者の魔法使いが装備として纏っているのであれば、まだ理解できる。

 だが、数十人規模の集団が全員同じ服装であるのは、あきらかに異様な光景である。

 しかも、見たところ冒険者でも魔法使いでもないように見える。

 少なくとも、魔力があるようには見えない。

 そんな怪しい集団たちが何をしているのかというと、噴水の前で演説をしているようだった。

 その周りには多くの街の人たちが集まっていた。


『この国の王族や貴族は自分たちの暮らしを豪華にするためだけに貴方方から搾取をしています。そして、搾取するだけして、貴方方に還元しようとはしていません。それが義務であるのにもかかわらずです』


 集団の一番偉そうな男がそのようなことを叫んでいた。

 なるほど、そういうスタンスで話しているのか。

 別に言っていることが間違っているとは言わない。

 だが、完全に合っているとは言えないな。


「そういう貴族がいないとは言わないが、それはあくまでも一部の貴族だけの話だろう?」

「ええ、そうね。大半の貴族は領民のために領地を運営しているはずよ。もし領民を虐げるような領主であれば、確実に罰を与えられるでしょうね」

「でも、そういう奴らは狡賢いから、調査から逃げたりするんじゃないのか?」

「そんな真似をさせると思う? 事前にすべての情報を集め、完全に集めきったら即座に断罪するのよ」

「……怖いな」


 イリアさんの言葉に俺は思わず身震いをしてしまった。

 うち──カルヴァドス男爵家に断罪されるような後ろめたい事は何もない。

 だが、断罪することができる人間が身近にいることに若干恐怖を感じてしまう。


「というか、そういう仕事は公爵家の領分なのか? てっきり公爵は城で陛下のサポートをしているだけかと思っていたのだが……」

「あくまで派閥の貴族がやっていることね。国の膿を取り除くためには、しっかりとした後ろ盾のある方が良いでしょう?」

「なるほど」


 イリアさんの説明に納得する。

 断罪する相手より身分が下であれば、断罪することは難しくなるだろう。

 権力を盾に脅される可能性もある。

 断罪しようとしたことを不敬だと騒ぎ立て、ダメージを与えられることもあるかもしれない。

 それを避けるために、後ろ盾としてキュラソー公爵家は良いのだろう。


「実はグレイン君と初めて会ったとき、私はある貴族を断罪した帰りだったのよ」

「え?」


 イリアさんから予想外の言葉を聞いた。

 当然であろう。

 俺は思わず聞き返してしまう。


「なんで公爵令嬢のイリアさんがそんなことをしてたんだ? そういうのは派閥の貴族がやるものなんだろう?」

「勉強のためよ。私も将来、人の上に立つ人間なんだから、現場のことを勉強しておくことが大事だと思ったのよ」

「なるほど……? いや、それでも現場に行くことじゃない気もするんだけど……危ないだろうし……」


 イリアさんの説明に納得しつつも、まだ疑問が残っている。

 公爵令嬢であるイリアさんの勉強のために、わざわざ汚職をしている貴族の断罪に行かせるような真似をするのだろうか?

 それが教育方針であるのなら、キュラソー公爵はどうかしてると思ってしまうのだが……


「一応、私は囮も兼ねていたのよね」

「囮?」

「そう。キュラソー公爵家の令嬢である私が行くことによって、相手を油断させるのよ。向こうからすれば、この国のトップクラスの権力者と繋がりを持つことができると思うだろうから、安心して私と会おうとするのよ」

「……公爵令嬢が会おうとしている時点でおかしいと思わないのか?」

「私から会おうとはしていないわ」

「? どういうことだ?」


 イリアさんの説明では理解できなかった。

 そんな俺の反応にイリアさんは説明を続ける。


「あくまで領地を通ろうとすることを強調したのよ。その領地を通るのであれば、領主に挨拶するぐらいはおかしくないでしょ? そして、公爵令嬢に会うことができるのであれば、と向こうから接触を図ってくるわけよ」

「ほう……よく考えられているな」


 俺は思わず感心してしまった。

 たしかに、ただ通ろうとしているのであれば、怪しまれる可能性は少ないのかもしれない。

 イリアさんの見識を広めるための旅をしている、などの理由をつければ、その信憑性も上がるのではないだろうか?

 最初は危ない事をしているな、と思ってしまったが、案外悪くない作戦ではない気もする。


「といっても、その恨みを買って、あの状況に陥ったのだけどね?」

「あの状況、というと……山賊に襲われていたことか?」


 イリアさんの言葉に出会った当時のことを思い出す。

 そういえば、彼女は山賊たちに襲われ、かなり危ない状況だったはずだ。

 護衛たちがやられ、爺やも一時は命の危険だったのだ。


「ええ、そうよ。といっても、あれはただの山賊ではないわね」

「そうなのか? 装備を見る限り、ただの山賊のように思ったが……」

「装備だけなら、そうかもしれないわね。悪知恵が働く領主だったから、そういう所はしっかりとしていたようね」

「その言い方だと、領主と山賊たちが繋がっていた、ということか?」


 イリアさんの説明に俺はその結論に辿り着く。

 まあ、これは誰でもわかるようなことではあるが……


「いわゆるマッチポンプというやつね。自分たちで問題を起こしておいて、それを自分たちで解決する。それによって、名声を得ようとしていたみたいよ」

「それはまた……」

「自分たちに不都合な相手の馬車だけを襲い、それを貴族が助けることによって感謝される寸法ね。ゲスの考えそうな作戦よ」

「そう何度も使えるような戦法には聞こえないが……」


 イリアさんの説明に俺の頭にそんな疑問が浮かぶ。

 有効であることは認めるが、そう何度も使えるような手段とは思えない。

 何度も同じことをすれば、おかしいと思う人が多く現れると思うのだが……


「それほどしょっちゅうやっていたわけではないわね。しかも、毎回の結果が違うのよ」

「結果が違う?」

「ええ。山賊を全員討伐したという報告もあれば、隣の領地に取り逃がしたがいくつかの荷物は取り返した、とかね」

「怪しまれないように、報告の内容を変えていたということか? それはまた手の込んだことで……」

「被害者たちも完全ではないにしろ、しっかりと荷物は返ってきたことでおかしいとは思わなかったようね。全部を奪われたのであれば、文句をその貴族に言っていたかもしれないけれど、ある一定の成果を得ているのであれば、面と向かって批判はできないでしょ?」

「たしかにな。そんなことをすれば、そいつの評判が悪くなるだけだ」


 本当に悪い奴は悪知恵が働く。

 だからこそ、そんな悪事を働いていたのだろう。


「でも、そういう悪事はいつかバレるものなのよ。その貴族の領地付近で山賊に襲われたという話が多かったことから、調査することが決まったのよ。といっても、私はその調査には参加していないけどね」

「当時は10歳のはずだから、それは当然だろうな」


 イリアさんの言葉にうなずく。

 まあ、その年齢で囮になるのもおかしな話ではあるが……

 結果として、危険な目に合っているようだったし。


「その貴族は逮捕し、調査官とともに王都へと移送することになったわ。その後、私が王都へ帰ろうとした矢先──」

「山賊に襲われた、というわけか? 報復と言ったところか?」

「そうみたいね。せっかくの自分たちの稼ぎぶちを奪われたのだから、そんなことをした私に報復を……ついでに、私で儲けようとしていたのかもね」

「とことんゲスなことを考える奴らだな。悪い事をしていたんだったら、捕まる可能性ぐらいは考えておくべきだろうに……」

「利益に目がくらんでいたんでしょう? 結構裕福な生活はできていたようだしね」

「だからこそ、それを奪ったイリアさんを襲ったわけか」


 つくづく救いようのない話である。

 恨むのだったら、自分達に犯罪の片棒を担がせた貴族だろうに……

 まあ、山賊である時点ですでに手を汚していたかもしれないが……


「まあ、そんな貴族たちもいるから、あの人たちの言っていることはあながち間違いではないのよね」

「たしかにそうだな。貴族といっても、一概に全員が良い奴だとは言い切れないしな」


 イリアさんの言葉に俺は納得する。

 俺もこの四年の学院生活でいろんなやつに出会ってきた。

 男爵家という立場上、貴族としては最下位に位置している。

 そんな俺への対応で、そいつの性根と言うものはわかるのだ。

 親しげに話してくるものもいれば、偉そうにする奴もいた。

 後者については、俺に命令をしようとする者、俺の周囲にいる女性陣をよこせと言う者、キュラソー公爵家や王族とのコネクションを築こうとする者などがいた。

 すべて断っていたが……


「王族にだって、屑はいるわね」

「それもそうだ」


 俺たちの頭にはある派閥の人間たちの顔が思い浮かんだ。

 本当に迷惑をかけられた。

 あいつらのせいでいらぬ苦労を負う羽目になったことも多かった。

 今回の留学だって、その一つだし……


「ちなみに、あの集団の言っている騙している王族や貴族とは誰だと思う?」

「少なくとも、俺たちが思っている奴らとは違うだろうな」

「あら、どうして?」


 俺の答えにイリアさんが少し驚いたような反応をする。

 白々しい。

 彼女だって、同じようなことを思っているだろうに……

 まあ、聞かれたのだから、しっかりと答えるが……


「あの白いローブには見覚えがある。あれは【聖光教】だ」


 俺は苦々しい表情をしながら、そう呟いた。

 その名前を口にすること自体、嫌な気分になってしまったからである。






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