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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第八章 成長した転生貴族は留学する
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8-1-16 国王は部下と話す

今回は国王視点です。


(国王視点)


 私との会話を終え、グレイン君が部屋から出て行った。

 最後に少し不機嫌にさせてしまったようだが、一体どうしたのだろうか?

 まあ、しっかりと仕事を受け入れてくれたのでよかった。

 これでシャルロットも安心だろう。


「おや、もうお帰りになったのですか?」

「ジョージ?」


 一安心していると、いつの間にか部屋にジョージがいた。

 いつもながら、一体どうやって入ってきているのだろうか?

 まったく気配を感じないせいか、彼の入室する姿を見たことがない。


「せっかく、お茶を準備したのですが……」

「あっ!?」


 彼の持ってきたものを見て、私は「やってしまった」と後悔する。

 たしかに、彼は部屋から出るときに「お茶の準備をする」と言っていた。

 ならば、グレイン君にはもう少しいてもらうべきだった。

 これは私の失態である。


「すまない……話が終わったから、帰してしまった」

「いえ、かまいませんよ……それよりも、提案は受け入れてもらえたのですか?」

「ああ、それはばっちりだ」

「なら、よかったです」


 提案を受け入れてもらったことを伝えると、ジョージは笑みを浮かべる。

 彼は私に──いや、王家に対して忠誠を誓っている。

 だからこそ、王家のためになることを聞けば、嬉しく思ってくれるのだ。


「しかし、ジョージには苦労を掛けるな」

「いえいえ、それが私の仕事ですから……」

「だが、私が国王になる前からいろいろとやってもらっているだろう? 正直、申し訳ない気持ちがあるのだが……」

「今回の件については私が会ってみたいと思っていたからですよ」


 申し訳なさそうにする私に笑みを向けるジョージ。

 これは本心からの言葉であろう。

 国王である私の近くにいる者だからこそ、私に近づく者について把握しておかなければいけない。

 もし、不穏なことを考えている者であれば、即刻排除しなければいけない。

 それがジョージの仕事でもあった。

 だからこそ、気になることもあった。


「それでどうだった?」

「どうだった、とは?」

「お前から見たグレイン君の評価だよ。私から見れば雲の上のような存在ではあるが、実力的に近いジョージから見れば、また違った見え方がするのだろう」


 ジョージから見て、グレイン君がどのような人物なのか気になってしまったのだ。

 権力的には私の方が雲の上の存在かもしれないが、冒険者としての実力はグレイン君の方が圧倒的に上──なんせ、アラン先輩とエリザベス先輩の子供なのだ。

 そんな二人の子供なのだから、私程度が推し量れるものではない。

 しかし、ジョージならどのように見えたのだろうか?


「そうですね……一言で申すと、【化け物】といったところですかね?」

「それだけか?」


 予想外の返答に私は驚いてしまう。

 いや、グレイン君を相手にその感想は間違いではないだろう。

 世間一般的な評価もおおむねそのようなものであるからだ。

 しかし、私がジョージに期待していたのはそのような答えではない。

 強者であるからこそ、感じるものがあると思っていたのだが……


「正直、末恐ろしいですよ」

「末恐ろしい?」


 ジョージが体を震わせ、私は首を傾げてしまう。

 別にこの部屋は寒くない。

 つまり、寒さが理由で体を震わせているわけではなく……


「あれでまだ12歳なのでしょう?」

「ああ、そうだな。8歳の時に二年飛び級で学院に入学しているからな」

「あれは明らかに12歳ではないでしょう。成人していてもおかしくはない……いや、成人でも彼より優れている人間などいないでしょう」

「そうだろうな。私もそんな人間に出会ったことはほとんどないな」


 ジョージの言葉に私は頷く。

 グレイン君は冒険者としての能力について、よく【化け物】扱いをされている。

 近接戦闘と魔法については他の追随を許さず、その両方を使うことによってあの強さを体現しているわけだ。

 しかし、彼が凄いのはそれだけが理由ではない。

 勉学については入学時点ですでに王立学院の卒業を軽々できるレベル──今では、学者と研究について話し合うことができるレベルだと聞く。

 礼儀やマナーについても、公の場ではしっかりしているようだ。

 私的な場では砕けた話し方をするそうだが、目上の人に対しては礼儀にのっとった対応ができるらしい。

 高位貴族ならまだしも、男爵家の子供がそこまで気を回せるとは驚きである。

 分野ごとでは、彼に勝つことができる人間もいるかもしれない。

 だが、総合的に彼より優れている人物などこの世にほとんどいないのではないだろうか?

 しいて言うならば、王立学院の学長──エルヴィス殿だろうか?

 私の知る限り、彼以上の存在は知らない。

 まあ、あの人は1000年近く生きているエルフらしいので、いくら【化け物】と呼ばれているとはいえ人間の子供が超えることができるわけがないか?


「これでも私はどんな相手でも付け入る隙があると思っていました」

「ん?」


 ジョージが突然そんなことを言う。

 一体、何の話だろうか?


「私には先代から受け継いだ戦闘技術があります。それを使えば、たいていの人間を簡単に屠ることができます」

「ああ、そうだな。お前はその力で今の仕事をしてくれているんだな」


 ジョージの言葉に私は頷く。

 彼の言う「先代」──ジョージの親代わりだった人から彼はとある技術を受け継いでいた。

 その結果、彼は今の仕事をしているのだ。


「まあ、この世には当然私よりも強い人間はいます。そういう場合、どうするべきだと思いますか?」

「ジョージより強い人間が相手だと? ……全く想像がつかないが、【逃げる】とか?」


 ジョージの質問に少し考え、私は答えた。

 まあ、流石にこれは間違いであろう。

 ジョージがそのような答えを出すわけがないし……


「国王──国のトップとして、それは間違っていない選択肢ですね。陛下は常に生きることを考えないといけませんから……貴方が亡くなれば、周囲は混乱することになります」

「だが、ジョージの答えは違うのだろう?」

「まあ、そうですね。私の場合は【弱点を突く】でしょうか?」

「【弱点を突く】?」


 ジョージの言葉に私は首を傾げる。

 いや、言っていることが理解できないわけではない。

 だが、だからこそ疑問を感じているのだ。

 ジョージより強い人間は基本的には戦闘においては圧倒的な強者であることが多いはずだ。

 だからこそ、弱点とは言っても、そう簡単に攻められるようなものではないと思うのだが……


「はい。どれだけ強い人間だとしても、弱点は存在します。完璧な人間などこの世にいるはずもありませんから」

「いや、どこかにいるんじゃないのか? 私たちが知らないだけで……」

「その仮定も否定はできませんが、そうなるとすでにどこかで名が上がっているとは思いませんか?」

「……まあ、そうかな?」

「まだ世に出てきていない可能性もありますが、そういう人物は幼いころから頭角を現しているものです」

「なるほどな」


 ジョージの言葉に私は頷く。

 彼の言うことは理解できた。

 すべての人物には弱点があり、そこを狙えばいいのだ、と。

 だが、そう簡単にいくのだろうか?


「私の過去の経験ですが、とある事件の調査で圧倒的に実力が上の男と対峙することがありました。スピードは私の方が圧倒的に速かったのですが、一気に近づいて攻撃しようにもその対応の速さが異常でした。しかも、遠距離攻撃も全く効かない」

「そんな奴がいたのか?」

「はい。正直、私は負け──死を覚悟したほどです。ですが、そんな私にチャンスが訪れました」

「チャンス?」


 そんな状況を打開できるチャンスがあるのだろうか?

 強者同士の戦いは凡人の私には想像できない。

 一体、どんなことが……


「激しい戦闘で周囲のものを破壊していると、ある壁の向こうに一人の少女がいました。その少女を見た瞬間、男は体を震わせました」

「もしかして……」

「ええ、それが弱点です」

「おい、それは人としてどうかと……」


 ジョージの言葉に私は嫌そうな表情を浮かべてしまう。

 彼に裏の仕事を任せている身としてはあまり言うべきかもしれないが、それでも酷いと思ってしまう。


「それが戦いというものです。弱点をこんな身近に置いていく方が悪いんですよ」

「しかし……」

「その少女が現れたことで形勢は私が有利になりました。相手の男は少女の応援でどうにか意識を保っている状況でしたよ」

「うわぁ……」


 ジョージの説明に私は本気で引いてしまう。

 私は彼にこんな仕事をさせてしまっていたのか……

 だから、こんなに歪めてしまったのか?


「私がとどめを刺そうとした瞬間、誰かが少女を捕らえました」

「少女を捕らえた? 誰が?」


 だが、ここで話の流れが変わった。

 一体、誰がとらえたのだろうか?


「それは私がいろいろな事情を聞いた商人でした。彼から聞いた話では、その街では幼い少年少女を誘拐する悪党がいる、と」

「ジョージより強い男がその犯人だ、と?」

「ええ、そう聞いていました。私も最初はそう思っており、少女が現れたときもまだそう思っていました。しかし、徐々におかしいとも感じていました」

「おかしい?」


 ジョージの言葉に私は首を傾げる。

 彼は一体、なんでそう思ったのだろうか?


「どうして誘拐犯のはずの男が少女に応援されていたのか、と」

「ああ、なるほど……そういうことか」


 ジョージの答えに私は頷いた。

 たしかに男が誘拐犯であるならば、少女から応援されることなどないだろう。

 男にとって幼い少女は誘拐の対象であり、少女からすれば誘拐をしようとしている悪党なのだから……

 まあ、男が少女を養っていくために、誘拐という悪事に手を染めている可能性は否定できないが……といっても、子供を育てるような人間が子供を悲しませるような悪事に手を染めることはあまりないか?


「私は商人の男に問い詰めました。すると、その少女は元々商人の元にあった【商品】でした」

「【商品】? つまり、奴隷ということか?」

「そういうことです。そして、男は奴隷として扱われている少年少女を救う義賊だったわけです」

「一応、賊ではあるのだな」

「まあ、いろんなところを襲撃していますから、無実ではないですね」

「そうなるか」


 話の流れがだいぶ変わってきた。

 このままどうなるのだろうか?


「とりあえず、状況をすべて理解した私は商人たちを殲滅しました」

「殲滅って、穏やかじゃないな」

「その商人は町の有力者にも取り入っているような人間でしたから、下手に生かしておいても無罪放免になる可能性があったのですよ。それに、奴隷も容認している国での話ですから……」

「ああ、なるほどな」


 たしかにそれならば、殲滅をするべきかもしれない。

 下手をすれば、ジョージが追い詰められる可能性もあるのだから……


「結果として、私は男に感謝をされました。その商人は違法に奴隷を扱っていたそうで……」

「違法?」

「はい。奴隷商人にもルールがありまして、基本的に奴隷とされるのは犯罪をした成人がほとんどなのですよ」

「なら、子供がいるのはおかしいわけか」

「はい。親が奴隷だったとしても、子供は教会の孤児院などに預けられます。犯罪者の子供が犯罪者なわけではないですから、奴隷も同じなわけです」

「なるほど……その男は違法な奴隷を救うための義賊だったわけか」

「そういうことです」


 話の展開を聞き、私はほっとした。

 流石にジョージがそこまで非道な人間でなくてよかった。

 いや、子供という弱点を使って相手を倒そうとした時点で、十分非道なのかもしれないが……


「まあ、直接戦闘で勝てなければ、それ以外の弱点をつけばいいというわけだな」

「はい」

「だが、それでグレイン君はどうもできないのか? 彼にはある程度の弱点はあると思うのだが……」


 話は理解できた。

 だが、それならばジョージにはグレイン君を倒す手段があると思うのだが……


「たしかに私の知らないだけで、彼にはそのような弱点がある可能性があります。ですが、よく考えてみてください。彼にそのような存在がいると思いますか?」

「兄弟姉妹や婚約者を人質にとれば……」

「実力のある子たちだと聞いていますよ。いくら私でもそのような子たちを人質にグレイン君と戦うことなどできませんよ」

「なら、病気の両親が……」

「彼の両親は健在でしょう? というか、子供たちより強いでしょう」

「うん、知ってたよ」


 薄々私も気付いていた。

 ぱっと思いついて口にしてみたが、そもそもグレイン君の周りには強い人間が揃っている。

 類は友を呼ぶ、と言う奴だろうか?


「とりあえず、そのような弱点がないのなら、直接倒さないといけないわけですが……」

「ジョージでも難しいのか?」

「はい。おそらくは逃走を図ったとしても、逃げ切ることができないレベルです」

「そんなにか?」


 ジョージの言葉に私は驚く。

 彼の能力は隠密と速度、精密性に重きが置かれている。

 つまり、逃走は彼の十八番の一つであり、それで逃げられないということは勝ち目が全くないというわけで……

 暗殺しようとしても、無駄である可能性が高い。


「あれで12歳なのですから、本当に末恐ろしいですよ。あれが大人になれば、どれほどの化け物となるのか……」

「すでに【化け物】と呼ばれているがな」

「そのうち学長を超えるのではないのですか?」

「……どうなのだろうか?」


 ジョージの言葉に私は悩む。

 グレイン君が今以上の化け物に成長することはわかる。

 どれほどまでいくかは想像することすらできない。

 しかし、だからといって、学長であるエルヴィスに勝てるのだろうか?

 あれはおそらくこの世に存在している人型の中で最強と言っても良い存在だ。

 そんな彼に成長したグレイン君が勝てるのか……


「私としては期待しますね。最強のエルヴィス学長が負ける姿、一度は見てみたいですよ」

「やめてくれ。一応、あれでも王家の守護をしてくれているのだから、負けてもらったら困るよ」

「ああ、そういえばそうでしたね」


 私の言葉にジョージが忘れていたような反応をする。

 王家に仕えているのだから、それは忘れないで欲しい。

 他国に行かせすぎたか?






今回から少し長めに書いていこうと思います。

それに伴い、週一回土曜日投稿にしようと思います。


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勝手にランキングの方もよろしくお願いします。

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