8-1-12 死んだ社畜は呼び方を考える
「とりあえず、その問題は理解できました。ですが、俺にできることは何もない気が……」
「まあ、そうだろうな。いくら君が異常な力を持っていようと、所詮は男爵家の次男坊だ。流石にこの問題を解決するよう頼むことなどはないさ」
「……」
国王の言葉に少し申し訳なくなってしまう。
今までいろいろと化け物扱いをされてきたが、まさか役に立たないと思われる日が来るとは思わなかった。
いや、俺にもできないとがあるので、それは仕方がない事かもしれない。
しかし、この一大事に何もできないというのも、申し訳ない気持ちになってしまう。
まあ、こんな面倒なことに巻き込まれたくないという気持ちもあるが……
「私が頼みたいのはシャルロットのことだ」
「第二王女様ですか?」
国王の言葉に俺は首を傾げる。
予想外の言葉だったからだ。
キース王子についての話だと思っていたのに、まさかシャル王女についての頼みだとは思わなかった。
「いつも通りの呼び方でいいぞ?」
「いえ、陛下の前ですから……」
「公の場ではないから、かしこまることもない。むしろ、親しげな感じで話してくれた方が、愛娘に友人がいることを実感できる」
「なるほど……では、シャル王女と呼ばせていただきます」
国王の親心を満足させるべく、俺は普段の呼び方をする。
しかし、国王はなぜか意外そうな表情を浮かべる。
何かまずかったのだろうか?
「「王女」と呼んでおるのか? 友人なのだろう?」
「友人ではありますが、適度な距離を保っている状態ですね。俺の方が年下ですから、呼び捨てで呼ぶわけにもいきませんし……」
「ふむ……では、「さん」をつけたりすればいいのでは? たしか、イリア嬢のことはそう呼んでいただろう?」
「まあ、そうなんですけど……そうすると、イリアさんがお気に召さないようで……」
「どうしてだ?」
「婚約者とそうでない者の扱いを同じにするのか、と」
「なるほどのう……乙女心はわからなんな」
「ええ、本当に」
国王が納得し、今度は俺がため息をつく番だった。
一度、シャル王女と先ほどのような話になったことがある。
その時、「さん」をつけるという話にまとまりかけたのだが、それに反対したのがイリア嬢だった。
それでは自分と距離が同じではないか、と。
言いたいことは理解できるが、まさかそんなことを言われるとは思わなかった。
結局、その話はなくなってしまった。
「だが、シャルロットも不満なんじゃないか? 自分だけ王女呼びとは、距離を感じてもおかしくはないだろう?」
「ですが、イリアさんの言い分も無視できませんし……」
「ふむ……イリア嬢の要望を無視せず、シャルロットとの距離を近くする呼び方か?」
「俺の方が年下ですから、呼び捨てなどはできませんよ?」
国王が考え始めたので、俺はもう一度伝えておく。
流石にこの条件だけははずせない。
年上の女性を呼び捨てで呼ぶのはできないからだ。
まあ、うちのメンツは心の中で呼び捨てではあるし、ティリスやレヴィアについては普段から呼び捨てではあるが……
「では、私がイリア嬢を呼ぶようにすればどうだ」
「陛下のように、というと……シャル嬢、と? 不敬ではありませんか?」
「まあ、王族への敬称ではないな。だが、グレイン君とシャルロットは友達、それぐらいの距離でも構わないだろう?」
「……」
国王の言葉に少し考える。
たしかに、その呼び方なら「王女」呼びよりは距離が近く感じる。
そして、イリアさんとの呼び方とはかぶらないから、その条件も満たしているわけだ。
しかし……
「なかなか言い慣れなさそうですね」
「まあ、初めての呼び方などそんなもんだろう。私だって、先輩のことをカルヴァドス男爵と呼ぶのにどれだけ苦労したか……」
「ああ、後輩でしたね」
「憧れの先輩に対して偉そうに振舞う……後でどれほど後悔したか」
「立場的には圧倒的に上なんですから、そこまで気にすることではないと思いますけど……」
「理屈ではそうだが、本人からすればそうもいかないのだ。冒険者時代に世話になったのだから、なおさらな」
「……難しいですね」
国王の言葉に俺はそんな反応をする。
もちろん、言っていることは理解できる。
だが、それはあくまでも私的な状況での話だ。
国王と男爵という公の立場ならば、むしろきちんと立場を明確にした呼び方をしないといけないはずだ。
我慢をしないと……
「まあ、そんな私でも自然と呼ぶようにはなれた。なら、グレイン君にもできるはずだ」
「そうですか?」
「シャルロットも立場や生まれのせいで親しい友人などイリア嬢だけだった。だからこそ、身近な人間が増えるだけで嬉しくなるはずだ」
「……なるほど」
国王の言葉に納得する。
その話はイリアさんから聞いたことがある。
シャル王女は友達がいない、と。
その時はただただかわいそうだと思っただけだ。
だからこそ、話すようになった。
しかし、それならばもっと親しく話すようになるべきだったのだ。
これは俺の判断が間違っていたのか。
「では、シャルロットのことをそのように呼んでくれるか?」
「ええ、もちろん……と言いたいところですが、その前に一つ」
「なんだ?」
「一応、本人の了承を取ってからにします。いきなり呼び方を変えれば、困惑するでしょうし……」
「なるほどな。では、そうしてくれ」
「わかりました」
国王の言葉に俺は頭を下げた。
って、用件はこれなのか?
いや、流石に違うか……
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるので、是非お願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




