8-1-11 死んだ社畜は王城の状況を聞く
「それで、一体何の用ですか?」
俺はソファに腰かけ、国王と向かい合う。
ジョージさん(仮)のことは気になるが、今はそんなことを知っても意味はない。
下手をすれば、国王すら詳細を知らない気がする。
それよりも、ここに呼び出された用件を聞かないと……
「留学するらしいね?」
「どこでその話を?」
国王の言葉に即座に反応してしまう。
俺も先ほど決めたばかり……いや、聞いたばかりの話なのだ。
それなのに、どうして国王が知っているのだろうか?
「エルヴィス殿が伝えてくれたのだよ」
「学長が?」
「君たちが留学することになりそうだから、事前に報告をしておこう、とね?」
「……なるほど」
本人たちに伝える前に国王に報告したのか、あの学長は。
いや、国に関係する一大事であるならば、先に国王へ知らせるのはおかしな話ではない。
まあ、俺たちが留学することは国の一大事ではない気がするが……
俺たちがいなくなることで、何らかの問題が起こる可能性があることは否定しないが、基本的に誰かが解決してくれるはずだ。
なので、いちいち国王に伝えることではない気もするが……
「先輩も私に直接伝えるのはまずいと思ったのだろうね」
「父さんが?」
「グレイン君は今の城内の状況を知っているかい?」
「状況、ですか?」
国王の質問に俺は首を傾げる。
一体、何が聞きたいのだろうか……俺は少しだけ考える。
「第二・第三王子が王立学院を卒業したことで、自分達が王位継承権に最も近いと言っている件ですか?」
「ああ、そのことだ。流石にそれは知っていたか」
「ええ、もちろん」
どうやら合っていたようだ。
まあ、国王の頭を悩ませていることなど限られてくる。
最高権力者であるために様々な気苦労などを負っていると思われがちではあるが、多くの臣下たちがそれぞれで解決することが多いので意外と少ない。
だが、それでも国王が──いや、国王だからこそ考えないといけないことがある。
その一つが次代の国王についてである。
「キースが留学に出ているのも一つの原因なのだろう。次の王にふさわしくないから追い出された、などと噂になっておるよ」
「……信じる人いるんですか、その噂」
国王の言葉に俺は怪訝そうな顔になってしまう。
だって、そうだろう?
キース王子は大変優秀な人物だ。
王立学院在学時に一度も学年首位から陥落したことがないぐらいに頭が良い。
片手剣やレイピアなどの扱いもできるらしく、この国の騎士団員と比べてもそん色がないらしい。
いや、普通の団員ではすでに相手にならず、団長・副団長クラスと同等だと聞いたことがある。
この国の騎士団がどれほどの実力はあるか知らないが、弱いということはないはずだ。
一部、弱い奴らもいるかもしれないが……
とりあえず、キース王子のことを知っているのであれば、彼が追い出されたなどと信じることはまずないはずだ。
少なくとも、第二・第三王子のようなボンクラが国王に選ばれる可能性より低くなることはないと思う。
「キースの留学のことを内密にしていたせいだろうな」
「それがどうしたんですか?」
「キースの居場所を知られないようにするための措置だったのだが、それが追い出したという噂に繋がったわけだ」
「……つながらない気がするんですが?」
国王の言葉に俺は首を傾げる。
どこをどうすれば、そんな風に繋がるのだろうか?
普通の──いや、普通ですらないボンクラの考えは俺には想像がつかない。
これは俺が異常だからではなく、普通の人もわからないのではないだろうか?
「あの馬鹿どもが何度も私にキースの居場所を聞きに来たのだよ。おそらく、遠い異国の地で一人で過ごしているのであれば、暗殺することができると考えたのだろう」
「……わかりやすいですね」
「もちろん、私は突っぱねたさ。そんな見え見えの作戦に協力するなど、ありえないことだからな」
「当然でしょうね」
「だが、それが悪手だったようだ。私が居場所を言わないのは、知らないから伝えられないと解釈されたのだ」
「知らないから伝えられない?」
国王の言葉を俺は理解できなかった。
いや、言っていることは理解できた。
だが、どうしてそんなことになったのか、まったくわからないのだ。
疑問に思う俺に国王はさらに説明を続ける。
「私がキースを留学させたのではなく、追放したということにしたらしい。だからこそ、行き先を知らない、とな」
「……強引すぎる解釈ですね」
「だろう? だが、私が行き先を公表しないせいで、馬鹿どもはそれをさも真実であるかのように吹聴しだしたのだ」
「……」
国王の言葉に俺は何も言えなかった。
あきれてものが言えない。
「私も否定できればいいのだが、そうするとキースの居場所を言わなければならないことになる。だから、いうことができないわけだ」
「……なるほど。それは困ったことですね」
「ああ、本当にな」
俺が共感すると、国王は大きくため息をついた。
最高権力者ともなると、一つの悩みの重みが違うな。
これは俺が解決できることではないな。
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