プロローグ1-2 英雄男爵は友人に提案される
「それで提案はなんだ?」
ルシフェルへの注意が終わったので、アレンは話を元に戻す。
とりあえず、珍しく二人が執務室に直接来たのだ。
ということは、かなり重要なことのはずだが……
「ああ、それなんだが……ガキどもを留学させないか?」
「留学?」
リオンの言葉にアレンは首を傾げる。
まったく予想していない内容だったからだ。
アレンは純粋に疑問を感じ、質問をする。
「どうしてそんなことを?」
「もちろん、いろんな経験をさせるためですよ。世界は広いのですから、自国にこもらずにどんどん外に出るべきだと思うのですよ」
「ふむ……なるほどな」
ルシフェルの説明にアレンは納得する。
たしかに言っていることはもっともである。
留学というのは、子供たちにとってもいい経験になるはずだ。
「俺たちだって、冒険者時代はいろんな国に行っただろう? その経験が今の俺たちを作っているわけだしな」
「それは喧嘩を吹っ掛けてきた奴は片っ端からぶっ飛ばすことか?」
「いや、それは【獣王国】の常識だな。実力主義だからこそ、そういう風習ができたんだ」
「……違うのかよ」
リオンの言葉にアレンは何とも言えない表情を浮かべる。
まさかの学んだことかと思ったら、ただの他国の常識だったのだ。
仕方のない反応である。
といっても、その風習もどうかとは思うが……
「その土地の食べ物、風習、建物などを実際にその目で見ることができるのです。授業などで聞くのも一つですが、やはり実物に勝るものはないでしょう」
「そのための留学か?」
「はい、そういうことです」
「ふむ……」
ルシフェルの言葉にアレンは考え込む。
言っていることはもっともである。
自分の経験してきたことなので、それを子供たちにさせるのも悪くはないと思っている。
しかし、気になることもある。
「で、本当の目的は?」
「はい?」
「今まで話した内容以外にも目的はあるんだろ?」
アレンははっきりと聞いた。
この二人がわざわざ執務室まで来たということは、「この留学を絶対にさせたい」という気持ちの表れである。
もちろん、「子供たちにいい経験を積ませたい」という気持ちもあるかもしれない。
だが、アレンにはどうもそれだけではないと思ってしまったわけだ。
「もちろん、主目的は「子供たちに経験を積ませる」だよ」
「じゃあ、サブの目的は?」
「「グレイン君にうちの良いところを見せて、一生住んでもらおう」ってことかな?」
「……」
ルシフェルの言葉にアレンは黙ってしまう。
どう反応すればいいのか、わからなかったからである。
まさか、そんなしょうもない理由だったとは……
「うちの大事な跡取り候補なんだが?」
「長男のシリウス君もいるでしょ? だったら、次男のグレイン君をくれたっていいんじゃない」
「まだどちらに後を継がせるか決めていないんだ。そんな状況で勝手なことをさせるわけにはいかないな」
「でも、どっちも後を継ぐ気はないんじゃないの?」
「まあ、そうなんだが……」
ルシフェルの指摘にアレンはため息をつく。
これはカルヴァドス男爵家の中で由々しき問題でもあった。
まさかの跡継ぎ候補である息子たちが揃ってカルヴァドス男爵家を継ぐ気がないのだ。
まあ、これはおそらくアレンのせいだろう。
元々が平民出身であるアレンはあまりにも貴族らしくない。
そんなアレンが当主であり、男爵家という貴族の中でも一番下の位のせいか、貴族らしい生活を送らせていなかった。
結果として、子供たちは貴族の令息令嬢らしくなくなってしまったわけだ。
それが後を継ぎたくない、という気持ちになったようだ。
「だが、どちらが継ぐかも決まっていない状況で、グレインをやるわけにもいかないな」
「まあ、言い分はわかるけど……どっちかは家を出ないといけないわけだよね?」
「そうなるな」
「だったら、もう跡継ぎはシリウス君に決めて、グレイン君をくれないかい?」
「やらん」
「やっぱりか」
最初から断られることはわかっていたのか、ルシフェルはあっさりと納得する。
アレンは一度決めたことは簡単には覆さない。
今の時点で難色を示していたので、断られることはわかっていた。
そんな中、リオンが口を開く。
「アリスの嬢ちゃんは跡継ぎ候補じゃないのか? この国では女が当主でも構わないだろうし、なんならその旦那が当主をしても……」
「アリスにそんな相手がいるとでも?」
「……あれだけのルックスなら引く手数多だと思うが? まあ、うちのティリスには負けるがな」
「いやいや、うちのレヴィアの方が上でしょう」
「いや、アリスだろう」
三人が娘自慢を始めてしまう。
だが、すぐに正気に戻る。
話の本題はこんなことではないからだ。
「とりあえず、嬢ちゃんが婿を取って、カルヴァドス男爵家を継げば問題ないと思うが……」
「いや、問題大有りだよ」
「そうなのか?」
今度はリオンが首を傾げる。
ないと思っていた問題とはいったい何なのだろうか?
リオンには全く想像がつかなかった。
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