閑話10-30 女子高生は異世界召喚される
「【闇属性】の特性上、【魔剣】を扱うことによって、何らかの異常が現れてくるはずです」
「異常、ですか?」
宰相の言葉に私は心配げな声を漏らしてしまう。
かなり不穏なことを言われたからである。
内容を理解していなくとも、その言葉だけで不穏であることは理解できた。
そして、私のその予想は当たっていた。
「かつて、【魔剣使い】という職業の者がいたそうです。その者はかなりの剣の技術を持っており、【魔剣】の力も相まって一騎当千の力を有していました。戦いの場に現れてから、すぐに有名になるほどの力だったそうです」
「……」
「ですが、その名声もすぐに別の悪評に変わってしまいました」
「悪評、ですか?」
宰相の言葉に私は反応する。
名声が悪評に変わる、そう言う話はよく聞く。
だが、【魔剣】という強力な武器を使うことによって得た名声がそう簡単に悪評に変わるのだろうか?
「はい。その者は力に溺れ、誰彼構わずに攻撃するようになってしまいました。最初は弱いものを助け、悪だけを斬るような立派な人物だったそうですが……」
「そんな人がどうして?」
「おそらくですが、【魔剣】を使うことによって精神的な汚染があったと思われます」
「精神的な汚染……なるほど」
宰相の説明に私は納得する。
【魔剣】を使うことによってそのようなデメリットがあるのであれば、その理屈は成り立つはずだ。
【闇属性】の特性は濁すこと──つまり、【魔剣】を使うことによって、精神を濁されてしまったわけだ。
結果として、正義を失い、【魔剣】を振るう獣に落ちてしまうほどに……
「じゃあ、吉田さんの職業はっ!?」
「おそらく【魔剣使い】かそれに準ずる職業でしょう。しかも、かなり高位の……」
私の言葉に宰相は神妙そうな表情で答える。
やはり予想通りの解答であった。
しかし、気になることが出てきた。
「どうして高位のものだと?」
「このグラムは【魔剣】の中でもかなり強力なものです。当然、そのデメリットも強く表れるはずでしょう」
「でも、吉田さんは平然と……」
「平然と使っているからこそ、高位の職業であると考えられるわけです。いくら適性があったとしても、グラムを扱ったらすぐにでも壊れてしまうでしょうから……」
「そんなものを……」
宰相の説明に私は言葉を失う。
私の友達はなんてものを手にしてしまったのだろうか。
いくら適性があったとしても、そんなとんでもない武器を手にするなんて……
「なるほど、さっきの行動はそういうことだったんですね」
「西園寺くん?」
私たちの話を聞いていたのか、いきなり西園寺くんが会話に入ってきた。
彼は一体何を言っているのだろうか?
私が疑問に思っていると、彼は自信満々に宣言した。
吉田さんに向かって、指をさして……
「既に精神汚染を受けているのでしょう。だからこそ、クラスメートである僕たちにあのように攻撃ができた」
「「「「「っ!?」」」」」
西園寺くんの言葉にその場にいた全員が驚いた。
たしかに言っていることは筋が通っている。
普通はクラスメートに対して、あのような行動をとることができないだろう。
下手をすれば、二人が命を落としていた可能性もあるからである。
そう考えれば、吉田さんがすでに精神汚染を受けていてもおかしくはないかもしれない。
驚くクラスメートたちから視線を向けられた吉田さんは……
「え? 全然違うけど?」
「「「「「は?」」」」」
あっさりと否定した。
その反応を見て、怖がっていたクラスメートたちも呆けた表情を浮かべた。
そして、自分の推理を否定された西園寺くんは恥をかかされたとばかりに赤い表情で反論をする。
「そんなはずはないだろっ! だったら、どうしてあんなことをしたんだよ」
「委員長が困っていたからだけど?」
「それで僕たちが危険だったじゃないかっ! 委員長のためとか言って、僕たちを亡き者にしようと……」
「そんなわけないでしょ? 自信過剰もたいがいにした方が良いわよ?」
「じしっ!?」
吉田さんの言葉に西園寺くんが言葉を詰まらせる。
自信過剰などと言われたことがなかったのかもしれない。
まあ、確かに自信過剰ではあるけど……
「この大剣を持ったら、自在に動かせるように感じたのよ。こんなに大きいのに、まるで羽を持っているような感じね」
「そんなわけないだろっ! 明らかに数十キロはあるはずだ」
「現にこんな風に振るってるんだから、私の言っていることが真実でしょう? 西園寺くんは私が数十キロの大剣を片手で振り回すようなゴリラに見えるかしら?」
「うぐっ」
吉田さんの反論に西園寺くんは言葉を詰まらせる。
この点では、もう反論することはできないだろう。
【魔剣】に関しては、適性のある吉田さんの言っていることの方が正しいはずである。
理論的な話ではなく、直感的な部分で……
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