閑話10-22 女子高生は異世界召喚される
「何があったの?」
人だかりになっているところに到着し、私は須藤さんに話しかけた。
後ろの方に居てくれたおかげですぐに話かけることができた。
そんな私の言葉に須藤さんは人だかりの中心の方を指さす。
「あれよ」
「あれ?」
彼女の指さした方に視線を向ける。
前にいたクラスメートたちの間から確認した。
そこでは……
「君みたいな得体のしれない人間にこの武器は必要ないだろう?」
「むしろ、お坊ちゃんが武器を扱うことなんてできるのか? 温室育ちだったら、小型犬のように可愛がられていたらいいんじゃないのか?」
二人のクラスメートが言い争いをしていた。
西園寺くんと東郷くんの二人だった。
剣呑な雰囲気で彼らは文句を言っていた。
そんな二人の後ろでは、取り巻き立ちも睨みあっている。
これは非常にまずいと思う。
異世界召喚なんて摩訶不思議な状況に巻き込まれたのに、仲間内で争うのはデメリットしかない。
クラスメート内での不信感につながるし、帝国側からの評価も落ちてしまう。
これはどうにか治めないと……
「二人とも、言い争いはやめて」
「「委員長?」」
意を決して、私は二人の間に割り込んだ。
二人の──いや、その場にいた全員の視線が私に集中する。
正直かなり怖いが、私は場を治めるために口を開く。
「今はクラスメートどうしで争っている場合じゃないでしょ? 何が理由で言い争いなんてしてるの?」
とりあえず、状況を把握することが大事だ。
もちろん、どちらか一方に肩入れすることはしない。
どちらが正しいかはわかっていないのだから……
まずは喧嘩の理由を知らないといけない。
そんな私の質問に西園寺くんが答える。
「その男がこの二つの武器を独占しようとしたんだ。僕はそれを注意したんだ」
「二つの武器?」
西園寺くんの言葉に私は彼の指さす方に視線を向ける。
そこには二本の大剣があった。
これは……
「【聖剣】か……なるほど」
私はそれを確認し、大体の状況を把握することができた。
なるほど……【聖剣】が原因であれば、このような言い争いが起きても仕方がない。
もちろん、それ以外にも理由があるようだが……
「おいおい、言いがかりはよせよ。独占しようとしたのは、むしろそっちだろう?」
「東郷くん?」
西園寺くんの言葉に東郷くんが反論をする。
どうやら、彼の言い分は違うようだ。
一体、どういうことだろうか?
「そこのお坊ちゃんは、俺にはこの武器がふさわしくない、とか言いやがったんだよ。「【聖剣】なんだから、正義感のある優秀な人間が使うべきだ」ってな?」
「それは……」
東郷くんの言葉に私は何と言えばいいのかわからなかった。
別に彼が嘘をついているとは思わない。
西園寺くんであれば、むしろ東郷くんに言いそうだと思ったぐらいだ。
優等生と不良──相容れない存在どうしだからこそ、起こった諍いというわけだ。
「事実だろう? 君みたいな得体のしれない不良に剣なんて危険物を渡すわけにはいかないよ。ましてや、【聖剣】なんて貴重な武器をね」
「俺からすれば、お坊ちゃんみたいな温室育ちに持たせることこそ、宝の持ち腐れだと思うがな。振り回すどころか、持ち上げることすらできないだろ?」
「馬鹿にしないでもらえるかな? これでも剣道の段位を持っているんだ。武器は違えど、降ることぐらいは造作ないさ」
「そんなことを言っているから、温室育ちのお坊ちゃんだってんだよ。ルールで定められた戦いしか経験のない人間に実戦ができるかよ」
「……」
二人がお互いに文句を言いあう。
これはかなり不味いかもしれない。
二人の言っていることは別におかしなことではない。
二人の言い分はそれぞれしっかりと筋は通っていると思う。
だが、それはあくまでもそれぞれの方向から見た言い分である。
立場が違えば、その正義は変わってくる。
自分の正義が相手の正義ではない、というわけだ。
「そもそも、この【聖剣】は僕にふさわしいはずだ。なんせ、僕の職業は【聖剣使い】だからね」
西園寺くんが自信たっぷりに告げた。
これが彼の【聖剣】に対する執着の理由である。
【聖剣使い】──つまり、【聖剣】を扱うための職業である。
この職業はかなり珍しいらしく、【聖剣】に選ばれる数少ない職業の一つらしい。
「それがどうした? 俺は【聖武器使い】だぞ?」
東郷くんが言い返した。
もちろん、これも事実である。
西園寺くんが【聖剣】だけを扱う職業に対し、東郷くんは【聖属性】を宿した武器のすべてを扱うことができる職業らしい。
これは【聖剣使い】よりも稀な職業らしく、過去にも片手で数えるほどしかいなかったらしい。
西園寺くんが【聖剣】を、東郷くんがそれ以外の【聖武器】を使えばいい、と思う人が多いだろう。
しかし、事はそう簡単な話ではない。
そもそも【聖武器】自体がかなり珍しいモノらしく、種類もそこまで多くはない。
そして、現在この場にあるのが、二人が言い争っている二本の【聖剣】だけなのだ。
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