閑話10-14 女子高生は異世界召喚される
「……意外と残ったわね」
私は予想外の結果に驚いた。
なぜなら、想像以上に【勇者】として行動すると決めた人数が多かったからだ。
具体的に言うと、40人中32人──クラスメートの8割である。
正直、半分を超えればいい方だと思っていたのだが……
「まあ、せっかくの体験だからと思っている奴もいるんじゃないかしら?」
須藤さんがいきなり話しかけてきた。
もちろん、彼女も参加する側である。
しかし、驚くべきことは他にもあった。
「須藤さん、いいの?」
「何がよ」
「だって、須藤さんの職業って……」
「……言わないで」
私の言葉に須藤さんが恥ずかしそうな表情を浮かべる。
それほど自分の職業が恥ずかしいのだろう。
別に恥ずかしがるような職業ではないと思うのだが、【勇者】としてはおかしな職業なのかもしれない。
そんな彼女の職業は【料理人】である。
明らかに戦闘に不向きな──いや、完全にできない職業だろう。
まさか【勇者】の職業の中にそんなものがあるとは思わなかった。
思わず皇帝に質問をしてしまったぐらいである。
とりあえず、【勇者】は称号であり、召喚された時点で全員に与えられる者である。
職業については、各々の得意分野に当てはめられている可能性が高い、ということだ。
ならば、たしかに須藤さんは【料理人】という職業は相応しいのかもしれない。
「私としては、大人しく待っていた方がいいと思うけど……」
「私だけ仲間外れにするつもり?」
「いや、そう言うわけじゃないけど……」
「でも、意外と役に立つかもしれないわよ?」
「どういうことかしら?」
須藤さんの言葉に私は思わず聞き返してしまう。
彼女は一体何を言いたいのだろうか?
【料理人】という職業がどういう風に役に立つというのだろうか?
別に職業の差別をしているつもりはないけど……
疑問に思う私に須藤さんは説明を始める。
「たしかに私の職業は戦闘には役に立たないかもしれないわ。でも、それ以外のことはどうかしら?」
「というと?」
「おそらく、【勇者】としての経験を積むために世界を旅することになると思うわ。それがRPGの醍醐味だもの」
「ファンタジーな世界とはいえ、現実だけどね?」
「そして、旅をする上で大事になってくることはわかる?」
「何かしら?」
「もちろん、普段の生活よ」
「普段の生活?」
彼女は何が言いたいのだろうか?
残念ながら、私は彼女が何を言いたいのかがわからない。
これは私の頭が固いせいかもしれない。
これでは先ほどの皇帝を笑うことができない。
「人間が自分の本来の力を出すために必要なことはその実力を出すことのできる環境を作ることよ」
「なるほど……確かにそうかもしれないわね」
「つまり、普段と同じような生活を送る方が実力を出すことができる可能性が高くなるわけよ」
「……否定できないわね」
「その一つとして、【料理】は大事になってくるわ。生活に必ず必要なことなのだから」
「……意外とよく考えているわね」
「意外で悪かったわね」
私の呟きに須藤さんは頬を膨らませる。
これは失言だった。
だが、まさか彼女がこんな風にいろんなことを考えるとは思ってもいなかったのだ。
しかも、しっかりとした内容だし……
私が驚くのも仕方がない事である。
「それにもう一つ考えていることがあるわ。といっても、こっちはあくまでも予想だけどね」
「もう一つ? 予想?」
彼女の言葉に首を傾げる。
一体、何を予想したのだろうか?
「【勇者】という称号が私たちの基本的な能力を上昇させる可能性よ」
「そんなことがあるの?」
「わからないわ。だからこそ、あくまで【予想】といったわけよ」
「……」
これはどう反応すればいいのかわからなかった。
たしかに彼女の言わんとしていることは理解できる。
だが、それはあくまでも彼女の想像の話だ。
実際に正しいかどうかはわからない。
「でも、あながち間違いではないと思うわ」
「どういうことかしら?」
「さっき、あの皇帝はだいぶ前にも今回のように【勇者召喚】が行われたと言っていたわよね?」
「ええ、そうね。数百年ぐらい前らしいけど……」
「それぐらい昔のことなのに記述が残っているということは、その【勇者】が活躍したことに他ならないわよね」
「まあ、そうね……でも、それがどうしたの?」
彼女は何が言いたいのだろうか?
それがどうして、先ほどの予想につながるのだろうか……
「職業は私たちの得意なことなどが当てはめられるという話よね」
「ええ、そうみたいね。例外もあるみたいだけど……」
「でも、日本で高校生だった私たちの得意なことが職業となったとしても、活躍できるほどすごくなると思う?」
「……たしかになさそうね」
「つまり、活躍することができるほど【勇者】という称号が補正してくれる可能性があるわけよ」
「……」
「どう? おかしいかしら?」
「いえ、否定することはできないわね。私には考えつかなかったことだわ」
まさか須藤さんに教えられることがあるとは思わなかった。
いや、料理などは教わることがあったかもしれないな。
まあ、そこまで必要なことでもなかったので、その予定はなかったわけだけど……
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