閑話10-3 女子高生は異世界召喚される
「ねえ、宮本さん。どういうこと?」
先生は慌てたように私に話しかけてきた。
先ほどの質問と皇帝の答えを理解できないからだろう。
皇帝を放って会話を始めるのはあまりよくない気もしたが、きちんと説明した方がよいと思ったので私は先生の方を向いた。
「もちろん、この状況を理解するための質問ですよ」
「え? 今の質問で何かわかったの?」
私の言葉に先生は首を傾げる。
まあ、先ほどの質問では目の前の男性が【地球】も【日本】も知らない人間であるということしか、わからないと思うだろう。
本来ならば……
「先生は当然、名前の知らない国はありますよね?」
「え? それはもちろんあるけど……なにか関係あるの?」
「知らない名前の国はあっても、【地球】という言葉を知らない人間はいると思いますか? といっても、それぞれの国の言葉で、ですけど……」
「え? そんな人はいないんじゃない? まだ授業で習っていないような子供とかならまだしも……」
私の言葉に先生がそんなことを言う。
予想通りの反応である。
これならば、次の説明も理解してくれるだろう。
「その通りです。日本どころか、地球で生きている人類で一般的な教養を持っているのならば、知らない国はあったとしても【地球】という言葉を知らないはずがないでしょう」
「たしかにそうだけど……」
「あちらの陛下は一般的な教養すらないと思われますか?」
「え? それはなさそうだけど……」
「そこです」
「どういうこと?」
私の言葉に先生がさらに首を傾げる。
まだ理解できないのだろうか?
まあ、真面目だからこそ、信じられないのかもしれない。
「一般的な教養を持っていそうな人が当たり前のことを知らない──それはここでは一般的な教養ではない、ということです」
「それって、つまり……」
「この国では【地球】や【日本】という言葉──いえ、その存在自体がないのでしょう。異世界なのですから」
「異世界?」
私の言葉に先生が首を傾げる。
まるで、初めての言葉を聞いたような反応である。
この言葉自体はここに連れてきてくれた男性がずっと言っていただろう。
皇帝も【異世界の勇者たち】と言っていたぐらいだし……
「そんなもの、あるわけないじゃない」
「はい?」
だが、先生はとんでもないことを言い始めた。
私は思わず呆けた声を漏らしてしまった。
「【異世界】だなんて、空想上のものでしょう。実際に私たちはこの場にいるのよ?」
「……信じられないのはわかりますが、これは実際に起こっていることですよ」
「実際に起こっているからこそ、空想上のことではないと思うんだけど……」
「……とりあえず、説明の続きを聞きましょう」
流石に真面目な先生を納得させることができる情報を現状では持ち合わせていない。
現実主義な先生だからこそ、自分がファンタジーな体験をしていると信じられないのだろう。
これは仕方がない事である。
ここは他に納得させるような情報を集めるしかない。
「む? いいのか?」
「はい。話の続きをお願いします。できれば、私たちがその【勇者】であることを証明できる話で」
私は次の話を注文した。
異世界云々の話では、先生を納得させることは難しいだろう。
だからこそ、もっと簡単な方法で先生を納得させようと思ったわけである。
「落ち着いているな」
「はい?」
皇帝の言葉に私は首を傾げる。
言葉の意図がわからなかったからである。
私が理解していないことを察したのか、皇帝は話を続ける。
「おそらく、ヒジリたちにとって、現状は全く理解のできない状況だろう? ならば、レイのように信じられなかったり、後ろにいる者たちのようにどうすればいいのかわからない状態になったりするものだろう」
「……私がおかしい、と?」
「そこまでは言ってない。普通とは違うとは思うがな……こちらとしては話しやすいので、ありがたいことではあるな」
「……そうですか」
まあ、皇帝の言うことは理解できる。
たしかに、こんな状況で落ち着いているほうがおかしいのかもしれない。
普通の高校生なら、もっと慌てるのが当然かもしれない。
だが、私はそんな気持ちになることはなかった。
「まあ、ヒジリの言うことももっともだ。とりあえず、勇者であることを証明するとしよう」
「ありがとうございます」
私の提案が受け入れられ、感謝の言葉を告げた。
さて、どうやって証明をするのやら……
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