閑話9-17 助けられた少女は高校生になった
「まあ、そいつの話は置いておくとして……東郷には、特定の相手をしつこく狙う、という噂があったわけだ」
「……でも、それだけで勝てなくなるの?」
高田くんの言葉に私は疑問を口にする。
たしかに戦いにおいて、「しつこさ」というのは一種の強さかもしれない。
某国民的アニメの落ちこぼれの少年も意地でガキ大将を倒すことができた。
あれも「しつこさ」における強さだろう。
だが、あれはあくまでも例外だと思う。
実際に「しつこさ」だけで勝てるほど喧嘩は甘くないと思うのだが……
「言っただろう。直接的な強さだけが喧嘩の強さじゃない、って」
「確かに言っていたけど……」
高田くんの言葉に私はさらに首を傾げる。
たしかに高田くんはそんなことを言っていたが、それに一体何の関係があるのだろうか?
理解できていない私を見て、高田くんが説明を始める。
「しつこい奴は自分が勝つことに異様な執着心を持っている。その結果、勝つためには手段を選ばなくなるわけだ」
「手段を?」
「そうだ。例えば、俺の場合なら、「現役の野球部員が喧嘩をした」という情報をいろんなところに流す、とかかな?」
「たしかに効果的だろうけど……」
高田くんの上げた一例に納得しつつも、私は何とも言えない気持ちになってしまう。
たしかに、その方法を使えば、高田くんとの喧嘩に勝てずとも、勝利をすることができるだろう。
だが、果たしてそれは純粋な勝利と言えるのだろうか?
喧嘩に勝てないからと言って、そんな卑怯な手段をとるのはどうかと思うのだけど……
「納得できなさそうだな」
「ええ、そうね」
「まあ、普通の不良ならそんな手段はとらないだろうな。そんなことをしちまったら、しゃばく──不良としての格を下げちまう」
「……不良にも格なんてものがあるんだね」
不良のいらない情報が手に入ってしまった。
どうやら不良にも上下というものが存在するみたいだ。
実社会の上下からはみ出たはずなのに、さらにそこでも上下を決められるとは……何とも皮肉な話である。
「基本的に不良って言うのは、「喧嘩が強いこと」と「漢としての器のでかさ」が大事になってくる。さっきのような行為はこの両方を下げてしまうわけだ」
「なるほどね……でも、噂では東郷くんはそんなことをしていたんでしょ? それなら、不良としての格はかなり低いんじゃないかしら……」
高田くんの言葉に私はそう言う結論に辿り着く。
今までの説明を聞いた限り、噂から東郷くんがそこまですごい不良だとは思えない。
明らかに卑怯な手を使っているようだし……
そんな私の言葉に高田くんは首を横に振る。
「いや、それは違う」
「違うの?」
「ああ。あくまで先ほどまでの話は一般的な不良での話だ」
「東郷くんはその一般的な不良に入らないの?」
高田くんの言葉に私は思わず聞いてしまう。
その話し方では、東郷くんは不良の枠に入っていないようではないか。
不良の中にも種類はあるだろうが、だからといって「不良ではない」と言うことにはならないだろう。
そんな私の疑問に高田くんは答える。
「一般的──その枠組みには入らないだろうな。不良であることには変わりないだろうが……」
「どういうこと?」
「勝つためにはなんでもする、と言ったよな?」
「ええ、そうね。高田くんに対してなら、情報を周囲に流すことだったかしら?」
「確かにその通りだ。だが、それはあくまでも俺に対しての攻撃だ。相手に合わせて、的確な攻撃方法に変えるのも奴の特徴だ」
「攻撃方法を変える?」
私は首を傾げる。
不良の戦いにそれほど攻撃方法があるのだろうか?
「情報を流すのは手段の一つに過ぎない。それによって、集団から孤立をさせたり、味方だと思っていた組織から襲わせたり、仲間からも裏切らせたり──これもすべて情報を流すことでできることだ」
「……不良とは思えないわね」
「まあ、一般的な不良ではないわな。しかし、喧嘩で格を決めるような不良には実に効果的な方法だ」
「……それは否定できないわね」
高田くんの説明に納得せざるを得ない。
まっすぐな人間ほど搦手に弱いということはよくある話だ。
ゲームのキャラクターだって、パワーキャラを倒したりするために「眠り」などの状態異常を利用するのはよくある話だ。
まあ、それを不良の世界に当てはめることができるかはわからないが……
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途中で某国民的アニメの映画の話が出てきますが、その作品は作者が一番好きな話です。
子供の時、感動で泣いてしまうほどに……




