閑話9-4 助けられた少女は高校生になった
吉田さんが法学部に進学したいという話を聞いてから、さらに1ヶ月が経った。
6月になり、私はこう高校生活にも完全に慣れていた。
しかし、吉田さんとの仲は全くと言って進んでいなかった。
この2か月の間に一度席替えがあったのだが、またまた隣同士になっていた。
それでも、世間話程度しかしない間柄であった。
そして、私には新たな問題が出てきた。
それは……
「宮本さん、僕と付き合ってください」
「……」
それはしょっちゅう告白されるようになったことである。
今回で3回目なのだが、高校生というのは恋愛に飢えているのだろうか?
一人を相手に告白しすぎな気がする。
いや、別にそれは悪い事ではないだろう。
この高校は恋愛を禁止しているわけでもないので、節度を守った交際をすれば問題はないはずだ。
私だって、良い人を見つけることができれば、恋愛することもやぶさかではない。
しかし……
「えっと……ほとんど話したことないよね?」
「そうですね」
私の言葉に男子生徒は答える。
坊主頭に鍛え上げられた肉体、といっても極端に筋肉がついているようには見えない。
日焼けもしている──野球部と言ったところだろうか?
少なくとも、私はこの人と話したことはない。
いや、挨拶ぐらいはしたことはあるかもしれないが、足を止めて話をした記憶はなかった。
「じゃあ、なんで私に告白を?」
「一目惚れですっ!」
「……」
男子生徒があっさりと答え、私はどう反応すればいいのかわからなかった。
別に一目惚れすることを否定するつもりはない。
そういうことだってありうるだろう。
しかし、一目惚れをしたからといって、すぐさま告白するのはどうかと思う。
少しでも成功率を上げるために、相手の好感度を上げるべきだろう。
といっても、ストーカーのように付きまとうことはするべきではないが……
その点で言うと、この男子生徒は良い意味でも悪い意味でも行動はしていなかった。
「ごめんなさい」
「……理由を聞いても?」
私は告白を断った。
元々、この告白を受けるつもりは全くなかった。
そんな私の返事に男子生徒が聞いてくる。
自分に悪い部分があると思ったのだろうか、それを直そうと思っているのかもしれない。
それは良い心がけである。
だが、聞いても意味はないと思うけど……
「私、好きな人がいるの」
「……付き合っているんですか?」
「いいえ」
男子生徒の質問に私は首を横に振る。
私だって、直接会ったのは一度だけ──一目惚れと言って過言ではない。
男子生徒を笑うことはできない。
「もしかして、その人には他に好きな人が?」
「それはないわね」
「じゃあ、どうして?」
男子生徒が驚く。
大方、どうして告白しないのか、と思っているのだろう。
一目惚れで告白されるのだから、私のルックスはかなりいい部類に入るだろう。
自分で言うのは、どうかと思うけど……
先生から委員長を任せられるほど真面目ではあるし、成績もかなりいい。
運動はあまり得意ではないが、それでも苦手なりに努力はしているつもりである。
そんな私を魅力的に感じたからこそ、男子生徒たちは告白をしてくれているのだろう。
だからこそ、私が片思いをしていることが信じられないと思っているのかもしれない。
いや、誰だって片思いはするんじゃないだろうか?
「その人には告白できないの」
「え?」
「私とその人の間にはとんでもない距離ができてしまったの。だから、私は告白することはできないわ。向こうから告白されることもないけどね」
「諦めないんですか?」
私の言葉に男子生徒がそんな質問をする。
報われない恋をしていると思っているのだろうか?
そんな報われない恋をするぐらいなら、きちんと実る恋をした方がいいと思っているのかもしれない。
それも一つの考え方であろう。
無駄な好意を持ち続けるほど、恋愛において意味のない事はない。
妥協をし、一緒に過ごすことが楽しいと思う相手と恋愛をすることも一つの手段だろう。
もちろん、それを否定するつもりはない。
しかし……
「無理ね」
私は再び首を横に振った。
今の私には、まだ諦めることはできない。
それほどまでに私の心の奥深くまであの人の面影はあるのだから……
「……わかりました。今回は諦めます」
「ええ、そうして……って、今回は?」
男子生徒の言葉に納得しかけたが、すぐに違和感に気が付く。
今、変な言葉が入らなかったか?
そんな私の反応に男子生徒はしてやったり、といった表情を浮かべる。
「宮本さんだって、諦めてないんだろ? だったら、僕も諦める必要はないでしょ?」
「……たしかにそうね」
男子生徒の言葉に私は納得せざるを得なかった。
たしかに、私が諦めていないのに、男子生徒に諦めろとは言えない。
ぐうの音も出なかった。
「それに、これから僕のことを知ってもらえば、付き合ってもらう可能性も出てくるでしょう?」
「……その可能性は低いわよ?」
「その言い方だと、可能性は0ではない、でしょ。だったら、まだチャンスは残っているはずだ」
「……そうね」
男子生徒の言葉に私は少し考え、そう答えた。
正直、可能性はほぼ0に近い。
だが、それでも可能性は残っているのも事実だ。
きっぱりと断った方が彼のためかもしれないが、彼の言い分を否定することは私にはできなかった。
「じゃあ、今後は友達として仲良くしてもらえますか?」
「ええ、それなら」
「よし」
私が受け入れると、男子生徒はガッツポーズをする。
この程度で喜ぶのか?
まあ、一目惚れをした相手なら友達になることを嬉しいのかもしれないな。
私はそんな彼の姿を少し可愛らしく思ってしまった。
「……」
その成果はわからないが、少し離れたところからこちらのことを睨みつけている人がいることに気づかなかった。
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男子生徒のルックスについては、二番セカンドをイメージしました。
小柄ですばしっこい、バントが得意なイメージです。
あくまで作者の個人的なイメージなので、気にしない方向でお願いします。
ちなみに、坊主頭で有名な部活としては柔道部がありますが(偏見)、その場合には「服の上からわかるほど筋肉が盛り上がって」と表現しようと思っていました。
作者も現役のころはそんな感じでしたから……(ものすごく弱いくせに)




