閑話8-4 第二王女と公爵令嬢の会話
「とりあえず、ネックレスだったら隠し持つことができるのよ。そうすれば、襲撃者も魔法を無効化することを警戒しないかもしれないからね」
「隠した方が良いの? むしろ、魔法が効かないということをわからせた方が抑止力になると思うけど?」
ようやく落ち着いたイリアの言葉にシャルロットは聞き返す。
魔法が効かない、ということはシャルロットの言う通り、確かに抑止力として使うことはできるだろう。
しかし、それはあくまでも一部の人間に対してだけである。
「それは駄目ね」
「そうなの?」
「たしかに魔法が通用しないということで、魔法を使った暗殺者に対しては抑止力になるでしょう。でも、所詮はそれだけなのよ」
「それだけ、とは?」
「それ以外の──武器を使った暗殺者には効果がほとんどない、ということね」
「ほとんど、ってことは少しはあるの?」
イリアの言葉に気になったのか、シャルロットは聞き返した。
自分の考えが甘い事を指摘されたのは気にしていないようだ。
まあ、もともとイリアの言っていることの方が正しいと思っているのだ。
シャルロットにとっては今さら気にすることでもない。
「いまどき、魔法もなしに行動する人間の方が珍しいからね。武器をメインに戦う人間でも、何らかの魔法を使っているものよ」
「【身体強化】とかね」
「ええ、そうよ。よく気づいたわね」
シャルロットから良い例が出てきたので、素直に驚くイリア。
まさか、そんな的確な答えが出てくるとは思ってもいなかったようだ。
イリアを驚かせたので、シャルロットは自信満々に告げる。
「シリウス君に聞いたのよ」
「シリウス君に?」
「あの【巨人殺し】のアレン=カルヴァドス男爵は【身体強化】しか使えない──たったそれだけで、伝説を成し遂げたんだって」
「ああ、そういうことね」
シャルロットの言葉に納得するイリア。
そういえば、イリアもグレインからその話を聞いたことがある。
世間一般的にアレン=カルヴァドス男爵は近接戦闘も魔法も両方こなすことができる最強の男という印象が強いが、実は近接戦闘しかできなかったりする。
しかし、その脅威の身体能力と【身体強化】による伸び幅のおかげで、たとえ遠距離にいる相手でも油断することはできない。
近接武器しか持っていないはずが、遠距離の相手に攻撃を届かす手段があるかららしい。
イリアは実際に見たことがないのでどのような者かは知らないが、グレインが言うのであれば事実なのだろう。
一度ぐらい、お目にかかってみたい。
とりあえず、シャルロットの言う通り、どれだけ魔法が苦手な人間でも【身体強化】という魔法を使うことができるのだ。
それが使えないのは生まれつき魔力を持たない人だけである。
獣人のほとんどがそれに当てはまり、人間の中ではごくわずかと言われている。
「とりあえず、【魔力吸収効果】があれば、その【身体強化】もなくすことができるわけよ」
「……その時点ですでに暗殺されそうになっていると思うけど?」
「……たしかにそうね。でも、急に【身体強化】がなくなったら、相手も焦るんじゃない?」
「それもそうだね」
シャルロットの指摘に納得しつつも、しっかりと切り返すイリア。
イリアを完全に納得させることなど、同年代ではまず不可能なのだ。
「でも、事前にシャルが【魔力吸収効果】を持ったネックレスをつけていることを知られたら、それもうまくいくわけがないわよね」
「知られたら、対策もされそうだしね」
「それに、他にも隠しておく理由があるのよ」
「え? 他にもあるの?」
イリアの言葉にシャルロットは驚く。
これ以外にも理由があるのだろうか?
暗殺者対策だけでも結構な重さなのに、他にも対策をしなければいけないのだろうか。
イリアは一体、どこまで考えているのだろうか──シャルロットは唖然としてしまう。
そんなシャルロットの様子を気にすることなく、イリアは話を進める。
「もう一つ、気にしないといけないのは……【正妃派】よ」
「【正妃派】?」
イリアの言葉にシャルロットは肩透かしを食らった気分になる。
予想外の言葉が来ると思ったのに、告げられたのはそこまで驚くことではなかった。
なぜなら、少し前に話題に上がっていたのだから……
「でも、何に気をつければいいの?」
シャルロットは質問をする。
たしかに警戒するに越したことはないと思うが、今回の件については何を警戒すればいいのかわからない。
【正妃派】の人間にこの情報が渡れば、それに応じた対策を立てられるということだろうか?
それは別に先ほどの話と同じだろう。
そもそも、シャルロットにそういう輩を差し向ける可能性が一番高いのが、【正妃派】の人間なのだから……
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