閑話7-13 聖氷と闇炎の姉妹たちの会話
「王都に学長がいるということは、それ以上の戦力をそこに置く必要がなくなる──これはわかるかしら?」
「……たしかにそうだね」
私の言葉にクロネは少し考え、頷く。
どうやら納得してくれたようである。
続きの説明をしよう。
「つまり、その分の戦力を他に回すことができるわけね。そうすると、より他の戦場に戦力が増えるわけよね」
「あっ!?」
どうやらクロネが気付いたようだ。
たしかに学長は王都から離れることはできないかもしれない。
だが、彼が王都にいることで、他の場所に戦力を移すことができる。
それだけで十分な戦力であろう。
「学長が王都にいることによって、敵は王都に攻めることができない。そして、王都以外を攻めようとしても、そこには本来より多い戦力がいるわけよ」
「そうしたら、攻めるに攻めることができないわけね。よく考えているわね、昔の人は」
クロネが感心したように告げる。
しかし、その感心の仕方はどうだろうか?
この作戦はあくまでも学長がいるからこそ成り立つ作戦である。
それまでは厳しい戦いを強いられていたのだ。
まあ、今はそんなことを指摘する時ではないが……
「でも、だからこそわからないんだけど……」
「何が?」
「だから、学長を唯一傷つけられる存在、っての」
「ああ、そんな話だったわね」
クロネに元の話を思い出させられた。
そういえば、そもそもそんな話をしていた。
あまりにも学長の話が逸れてしまったせいで、忘れてしまっていた。
話を戻すとしよう。
「本当にいるの?」
「ええ、もちろんよ。そして、今までの話を聞いていれば、クロネもわかるはずよ?」
「え? そんな人、いたかな?」
私の言葉にクロネは首を傾げる。
本当にわからないようだ。
まあ、これは難しかったかもしれない。
ちょっと意地悪なことを言ってしまったかな?
「それは【王族】たちよ」
「えっ?」
私の説明にクロネが驚く。
それはそうだろう。
今までの話は学長が王都を守る話だった。
それなのに、守られているはずの王族が唯一学長を傷つける存在だなんて、信じることの方が難しいだろう。
しかし、これは事実である。
「王族と学長の契約は、【王族を守るために王都から離れることができない】ということ。つまり、学長にとって王族は守るべき存在なの」
「ええ、そうね。でも、それがどうして王族が学長を傷つける存在になるの?」
「それは学長は王族に攻撃できないけど、王族は学長を攻撃できるからよ」
「それはわかっているわ。でも、納得できないんだけど……」
私の説明にクロネが悩む。
だが、私は彼女が気になっていることに気が付いた。
「例えば、クロネは自分よりも圧倒的に強い人に護衛になると言われて、素直に信じられる?」
「その人は私の知っている人?」
「そうね……知らない人と言う設定で」
「それはちょっと無理かな?」
「どうして?」
条件を加えるとあっさりと否定したクロネに私は質問をする。
彼女がどうしてそういう選択をしたのか、聞くためである。
「その護衛をすると言った人がもしかすると裏切る可能性があるから? 本当に護衛として役立っているのならいいけど、もしかすると私の近くに寄るためにそう言ってきた可能性もあるわ」
「そうね。その可能性があるから、身近には知っているうえで強力な護衛を置かないといけないわね」
クロネはしっかりと正解を出してくれた。
基本的にこういう話はお父様たちが決めてくれる。
しかし、だからといって私たちが何も考えず、ただただそれを享受し続けるのはよくないのだ。
しっかりと物事の理由をわかっておかないといけないわけだ。
「それは王族にも言えるでしょう?」
「あっ!? 王族にとって、学長は強力な戦力になるかもしれないけど、同時に自分たちの身を脅かす存在になりかねない?」
先ほどの話でようやくクロネは答えに辿り着いた。
ここまでヒントを出せば、辿り付けたようだ。
「ええ、そういうことよ。だからこそ、王族は学長との契約で【王族に対する攻撃を禁止】としたわけよ。魔法による強力な契約だから、いかに学長と言えども破ることはできないの」
「なるほど……王族側にはそれがないから、一方的に攻撃ができる、というわけね?」
「そういうこと」
クロネの言葉に私は頷く。
やはりクロネへの説明は楽しいな。
これがアリス姉様やティリス姉様だと途中で寝てしまう可能性が高いからなぁ。
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