閑話7-12 聖氷と闇炎の姉妹たちの会話
「学長が王家と契約したのは、どのような理由だと思いますか?」
「え? 王家の血筋を守るため……つまり、王家の人間を守るため、でしょ?」
シルフィアの質問にクロネは答える。
どうやらそこは理解しているようだ。
まあ、今までの話で説明したのだから、クロネなら理解できていて当然なのだが……
そんなクロネにシルフィアはさらに質問をする。
「では、そんな学長に唯一攻撃できる存在がいます。もちろん、学長の攻撃を恐れることもせず……」
「えっ!? そんな人がいるの?」
シルフィアの質問にクロネが驚く。
彼女の反応はもっともである。
今まで聞いた話で、学長がこの国で一番強い存在であることは十分理解しているはずだ。
王都から遠く離れられないことを覗いでは、弱点というものが存在しないように思えた。
しかし、唯一──学長を恐れる必要のない存在がいるのだ。
「わかりませんか?」
「……うん。全く思いつかない」
どうやらクロネには難しいようだった。
まあ、普通に考える分には思いつかないことだから、仕方がないだろう。
答えを知っている私が口を開く。
「王家の人間よね?」
「ええ、そうです」
「えっ!?」
私の答えにシルフィアが正解を告げる。
そして、そんな私の答えを聞いたクロネは驚きの声を上げる。
予想通りの反応である。
「なんで? 王家の人は学長に守ってもらっている立場なんじゃないの?」
クロネはそう問いかけてきた。
彼女の言っていることはもっともである。
守ってもらっているはずの学長に刃を向けるなんて、不義理にもほどがある。
だが、これは別にそういう意図で決められたものではないのだ。
「元々は、王家にエルフがリクール王国に住むための条件として行われた契約なのですよ」
「え?」
シルフィアが理由を説明する。
しかし、まだ理解できないのか、クロネは首を傾げる。
まあ、難しい話なので、それは仕方がないだろう。
かみ砕いて、説明しよう。
「学長は数百年前まであったエルフの国に住んでいたの」
「数百年前まで、あった? 今はないの?」
「ええ、そうみたい。消滅したかのように跡形もなく、ね?」
「跡形もなく……」
私の説明にクロネが反応に困っていた。
跡形もなく国が消える……言葉にすれば、これほど反応に困るものはなかなかないだろう。
全く想像できないのだから……
しかし、これは事実なのだ。
「学長はそこの生き残りなの」
「……そうなんだ」
「学長が他の生き残りとやってきたのが、昔のリクール王国だったってわけ」
「なんでリクール王国なの? 昔といっても、他に国はあったんじゃ……」
私の説明にクロネが質問をしてくる。
いい質問である。
たしかに、どうして学長がリクール王国に来たのか、理由は気になるだろう。
「その当時からリクール王国は他の種族を受け入れていたわ。そして、他の人間のほとんど国は【人族至上主義】──今より酷かったみたいよ」
「なるほど……それなら、リクール王国に来るのは当然だね」
私の説明でクロネは納得してくれた。
流石にこのレベルの説明であれば、理解できるようだ。
これで話を進めよう。
「その当時、リクール王国は困窮していたわ」
「なんで?」
「他の【人間至上主義】の国と戦争をしていたからよ。考え方が違えば、争いがおこるのも当然──しかも、相手の方が数が多い、ときたわけよ」
「ああ、そういうこと」
私の説明に頷くクロネ。
理解してくれる人間に説明をするのはやはり楽しい。
相手がわかっていなければ、説明も無駄だと思ってしまうしね。
「だからこそ、当時の国王は学長と契約したわけよ。リクール王国を守るために戦力となることを……その見返りとして、エルフの永住権を認める、と」
「学長にとっては願っていた条件というわけね? でも、それだとおかしくない?」
「なにがかしら?」
クロネが何かに気づいたようだ。
おかしなところがあっただろうか?
「学長は王都から離れられないのよね? それなのに、どうして戦力となれるの?」
「ああ、そのこと」
クロネの納得いかない部分が理解できた。
たしかに、今までの説明だと矛盾しているように感じるな。
王都から動けないことには、戦争での戦力にはならない──普通はそう思うだろう。
しかし、当時の国王はまったく違う考えを持っていたのだ。
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるので、是非お願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




