1-4 死んだ社畜は男爵家の次男坊 (改訂版)
あ~、生活が疲れるわ。
ストレスで少し太った……
俺はリクールという国の南端に位置する土地を治めるカルヴァドス男爵の次男坊──グレイン=カルヴァドスとして産まれた。
といっても、第一夫人に男の子が生まれている状態で、第二夫人の一人目の男の子として産まれた俺のことを次男というかが正しいかどうかはわからないが……
まあ、とりあえず貴族の次男坊としてこの異世界に生を受けたわけだ。
父親の名前はアレン=カルヴァドス、オールバックにした黒髪と獣のような鋭い目つきが特徴のワイルド系イケメンである。
貴族というよりは冒険者と言われた方が信じられる見た目なのだが、あながちそれは間違っていなかった。
元々冒険者として有名だったらしいのだが、とある事件をきっかけに叙爵されて男爵になったそうだ。
どんな事件かは知らないが、平民が男爵とはいえ貴族になれたということはかなりの武勲をたてたと推測される。
一体、何があったのだろうか……また機会があれば調べてみようか?
ちなみに、このアレンという男は元冒険者だったためなのか、全く貴族らしくなかったりする。
貴族というのはペンとグラスを持つのが仕事のイメージがあるのだが、この男は専ら大剣を持っているのだ。
筋骨隆々の肉体から振るわれた推定2メートルを超える大剣は少し離れたところから見ても剣圧を感じるぐらいだ。
剣を振るっただけで届かない位置にある木々の葉がざわざわとゆらめくほどで、それだけでいかにこの男が強いのをわかってしまう。
だが、そのぶんこの男は頭の方が残念だったりする。
正確に言うならば、戦闘に関係しない部分が苦手というべきだろうか?
こと戦闘については戦況を確認し、即座に次の行動を決めることができるそうだが、領地を治めるのに必要な書類を1枚読むのにかなりの時間を要していたりする。
この世界には地球にあった時計がないため正確な時間はわからないのだが、体感で1枚読むのに30分ぐらいかかっているのではないだろうか?
しかも、1枚読むごとに気晴らしに訓練をしようとするので、それを止めるために周囲の人間がものすごく頑張っている。
正直、貴族に向いていないにもほどがあるだろう。
そんなアレンに対して一番説教をしているのは、第二夫人──そして、俺の母親であるエリザベス=カルヴァドスだ。
燃えるような赤い髪と勝気に感じる吊り目が特徴の美女である。
自分の母親ながらかなりの美人だと思う。
彼女も元冒険者らしく、アレンの2年先輩としていろいろと指導していたそうだ。
彼が冒険者になって1年ぐらいから恋心を抱いていたそうなのだが、告白するのが恥ずかしくてなかなか言い出せずにいたそうだ。
そうこうしているうちに何の関係も進まないまま数年が過ぎ、アレンが叙爵されてしまう。
冒険者と貴族では身分が違うので今まで通りの関係で過ごすことはできない、彼女はそう思ったそうなのだが、
『リズ先輩、妻になって俺を支えてくれませんか?』
『え? ええええええええええええええええっ!?』
アレンの直球の告白に驚き、そのまま正常な判断ができない状態で頷いてしまったらしい。
ちなみに俺がこの話を知っているのは、別に彼女がこの話をしたからではない。
むしろ、彼女はこういう話を人に言うのは苦手なタイプの人間なので、ひた隠しにしているのだ。
この話を俺に伝えた元凶として現れるのが、第一夫人であるクリシア=カルヴァドスである。
氷のように透き通った青髪と感情の読めない無表情が特徴の女性で、雰囲気だけで俺は苦手に感じてしまった女性だった。
といっても、別に彼女が悪い人間だと言っているわけではない。
むしろ彼女のそんな雰囲気とは裏腹にとてもやさしい性格だということはわかっている。
彼女は元々伯爵家の令嬢だったそうなのだが、ある時たまたま魔物に襲われているときにアレンと助けてもらい、恋に落ちたそうだ。
そして、男爵を叙爵したアレンと再会したときに婚約を持ち掛けたらしい。
もちろん、彼女はエリザベスがアレンのことを好きだということは知っていた。
なので、上手いことアレンを誘導することによって、告白をさせるように仕向けたそうなのだ。
これは彼女が俺の面倒を見ながら自分の娘に自信満々に話していたので、俺も知っていたわけである。
つまり、彼女はエリザベスにとっては恋のキューピットというわけだ。
ファンタジー小説の貴族世界では跡継ぎを残すために一夫多妻は認められていることはよくあるが、妻どうしの仲が悪いなんてことはよくあったりする。
同じ妻だとしても生まれの差から序列などができて、仲が悪くなるなんてこともない話ではない。
だが、うちに関してはその心配はなかった。
エリザベスの方はアレン以外には物怖じをせずに会話できるし、クリシアも貴族じゃないからという理由でエリザベスのことを見下すようなことはなかった。
というか、貴族以外を見下すような人間がアレンと結婚しようとは思わないだろう。
ちなみに第一夫人のクリスには二人の子供がいる。
俺がこの異世界に転生して初めて見た子供二人のことである。
兄のシリウスと妹のアリスことアリシアの二人である。
この二人は俺の2歳年上で、双子の兄と妹である。
といっても、この二人はあまり似ているとは言い難い。
いや、整ったルックスと氷のように美しい髪の毛という点においてはかなり似ているといってもいいだろうが、簡単に言うならば性格が真逆なのだ。
兄のシリウスは大人しい性格のようで、母親のクリスかメイドのサーラの腕の中でじっとしていることが多い。
面倒を見ている側からすれば、世話しやすい事この上ないだろう。
逆にアリスの方はというと、元気な性格で何にでも興味を示しやすい。
そのため、目を離した瞬間に勝手にいろんな場所に行こうとしてしまうのだ。
まあ、これは子供なので仕方がない事なのかもしれないが、シリウスに比べると若干手がかかってしまうのだ。
俺のことを遠くからじっと見つめるシリウスに対し、アリスは積極的に俺に関わろうとしてくる。
頬を指で突いてくるのはやめてほしいが、初めての弟ということで気になって仕方がないのだろう。
俺は仕方がないので、彼女の指を掴んであげる。
もちろん思いっきりではなく、きちんと手加減をしてである。
「わぁっ!」
俺が反応を示すと、アリスはとても嬉しそうな表情を浮かべる。
まあ、気になっている存在から反応されれば、誰でもそうなるのかもしれない。
そんな彼女の様子に周囲にいた大人たちもほっこりとしていた。
「……」
そんな俺たちの様子をシリウスは羨ましそうな表情でじっと見つめていた。
だが、彼がこちらに来ることはなかった。
恥ずかしいのだろうか?
「……シリウスはいかないの?」
「……べつにいい」
抱っこしていたクリスがそう聞くが、シリウスはふいっと視線を逸らす。
やはり恥ずかしいのだろうか?
彼からは別に悪感情は感じないのだが、彼のプライドのようなものが邪魔をしているように感じる。
子供なのだから、別にそういうことは気にしなくてもいいと思うのだが……
そんな彼に他の大人たちも声をかける。
「シリウス、貴方もかわいがってあげなさい。貴方の弟よ?」
「そうだぞ。上の者は下の者を面倒を見なければいけないんだから、今のうちに訓練をしなさい」
「……はい」
リズとアレンの言葉にシリウスは少し考えてから頷く。
三人の大人たちからそう言われたら、断るわけにはいかないと思ったのだろう。
そんな彼の返事に抱っこをしていたクリスが彼を連れてくる。
そして、俺の近くにそっと下ろす。
「ほら、かわいいでしょ?」
「う、うん……」
リズの言葉にシリウスは頷く。
だが、どことなくぎこちない雰囲気を感じた。
もしかして……
「シリウスもアリスもこんな時があったんだから」
「そ、そうなんだ……」
「ふふっ、シリウスも触ってあげなさい。「お兄ちゃんですよ」ってね?」
「えっ!?」
リズの言葉にシリウスは驚く。
そして、俺に視線を向けるが、彼が俺に触れてくる様子はなかった。
一体、どうしたんだろうか? と思ったのだが、彼の手が震えていることに気が付いた。
もしかすると、彼は怖いと思っているのかもしれない。
別に俺に対してではない。
俺という未知の存在に対して、どのように接すればいいのかがわからないことで恐怖を感じているのだ。
ならば、俺がやるべきことは一つ……
「あう~」
「(ギュッ)わっ!?」
俺が彼の指を握ってあげると、シリウスは驚いたような表情になる。
まあ、いきなり指を掴まれたらそうなるのも仕方がないだろう。
だが、彼は俺の手を振りほどくようなことはなかった。
彼の表情を見ると、恐々としながらもどこか嬉しそうだった。
そういう表情を浮かべてくれるのならば、俺もこのような行動をとった甲斐があるというものだ。
そんな俺たちの様子に大人たちは温かい目で見つめていた。
こんな感じで異世界に転生してから4年の時が経った。
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※現在、ここまで改訂しています。
続きを改訂すれば、題名に(改訂)をつけるので、それがついたら読み進めてください。