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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第七章 成長した転生貴族は冒険者になる 【学院編2】
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閑話3-37 氷の微笑が鬼神に変わったとき 37


「初めまして。私はリナリア=バランタインと申します」


 おっとりとした雰囲気ではあるが、気品のある動きで挨拶をするバランタイン伯爵夫人。

 その所作を受け、アレンも口調を戻した方がいいと感じた。

 流石にこの人を相手に失礼な話し方はできないと思ったのだ。


「こちらこそ、初めまして。私はアレン=カルヴァドス──つい先日、国王様より男爵を賜ったものです」

「私はエリザベスです。A級冒険者でアレンのパーティーメンバーです」


 アレンに続いてエリザベスも自己紹介をする。

 ここで伯爵夫人が知らないのはこの二人だけだった。

 アレンが自己紹介をしたのであれば、エリザベスもするべきだと判断したのだろう。


「あら、ご丁寧にどうも。アレンさんにエリザベスさんね? これからもよろしくね」

「「は、はい」」


 おっとりとした雰囲気のまま返事をする伯爵夫人に、今まで出会ったことのないタイプの人だとアレンとエリザベスはどう反応すればいいのかわからなかった。

 二人は冒険者の中でも、相手に比較的威圧感を与えやすい見た目をしている。

 そんな二人を見れば、初めての人間は少し怖気づき、話しかけにくそうにするのだ。

 しかし、伯爵夫人はそんな二人の姿を気にする様子もなく、あっさりと話しかけてきたのだ。

 それだけで彼女が見た目とは違い、豪胆な人間であることがわかるわけだ。


「エリザベスさん──いえ、リズちゃんと呼んでいいかしら?」

「え、ええ……もちろんです」

「よかった。じゃあ、私のことは「リア」と呼んでね」

「り……いえ、伯爵夫人をそのように呼ぶことは……」

「そんなこと気にしなくていいわ。リズちゃんもうちの家族の一員になるんだから、親し気に呼んで欲しいわ」

「え、えっと……」


 おっとりとしながらも押しの強い伯爵夫人にエリザベスはどうすればいいのかわからなかった。

 親しくしたいと思っているのは本心なのだろうが、それを立場が邪魔をする。

 エリザベスはまだ平民──本来であれば、伯爵家の人間と対等に会話をすることができる人間ではないのだ。

 しかし、そんなことを伯爵夫人は気にしない。


「ほら、呼んで」

「う、あ……」

「リピートアフタミー、「リア」」

「「リナリアさん」で勘弁してくださいっ!」


 あまりの押しに耐えきれず、エリザベスが叫んだ。

 彼女が出したのは、最大限譲歩した案であった。

 愛称でかつ敬称をつけずに呼ぶわけにもいかず、ファーストネームに敬称をつけることで折り合いをつけたわけだ。

 そんなエリザベスの言葉に伯爵夫人は少し考える。


「う~ん……もう少し親しげに呼んで欲しいんだけど……」

「これ以上は流石に……そもそも親子ほど年も離れている相手を愛称で呼ぶのは……」

「もう、リズちゃんったら、真面目ねぇ。あっ、「お母様」なんてどうかしら?」

「っ!?」


 伯爵夫人の提案にエリザベスが今までで一番驚愕した表情を浮かべる。

 それもそうだろう。

 いきなり母親呼びをさせられようとしているのだ。

 普通に考えれば、これほど異常な状況はなかなかないだろう。

 だが、驚くエリザベスを放って、伯爵夫人は話を進める。


「娘たちはもうすでに他所の家に嫁いじゃったから滅多に会えない。私のことをそのように呼んでくれるのはもうクリスだけ。だから、リズちゃんみたいな娘が増えるの、本当にうれしいの」

「え、えっと……私はアレンと結婚するだけで……」

「アレンさんはクリスちゃんと結婚するでしょう? つまり、リズちゃんと立場が同じ……つまり、リズちゃんも私も娘と言って過言じゃないでしょう?」

「え、それは……」


 伯爵夫人の言葉にエリザベスはどう答えていいのかわからなかった。

 正直、彼女の言っていることは過言ではあった。

 いくら同じ男に嫁いだとはいえ、伯爵夫人にとってエリザベスは娘の位置にいるわけではないのだから。

 だが、そんなことを気にする伯爵夫人ではなかった。


「どう? 呼んでくれる?」

「う……」

「どうなの?」

「うぅ……」


 伯爵夫人に詰め寄られるエリザベス。

 その表情にはどんどん焦りが現れていき、周囲に視線を向ける。

 おそらくアレンかクリシアに助けを求めようとしているのだろう。


「((ふいっ))」


 だが、アレンとクリシアは視線を逸らした。

 それにエリザベスは茫然とした表情を浮かべた。

 別に二人も助けたくないわけではなかった。

 アレンの場合は、伯爵夫人の怒涛のマシンガントークを見て、自分ではどうにもできないと判断したのだ。

 下手に助けようとすれば、今度は自分に矛先が向きかねない──だから、逃げざるを得なかったわけだ。

 クリシアの場合はこうなった自分の母親を止めることはできないと経験則から知っていたのだ。

 エリザベスには悪いが、満足いくまで伯爵夫人の話を聞いてもらった方が被害が少ないと判断したのだ。


「ほら、早く」

「……お」

「ほらほら」

「……お義母様」

「まあっ!?」


 とうとう諦め、エリザベスは伯爵夫人のことを母親と呼んだ。

 それを聞いたエリザベスは本当に嬉しそうだった。


「リズちゃん、これからよろしくね」

(ガバッ)

「ひゃあっ!?」


 伯爵夫人は嬉しさのあまり勢いよく抱き着き、エリザベスに悲鳴を出させていた。

 普段はクールなエリザベスのそんな姿にアレンはかなり驚いていた。

 こういう一面もあるんだな、と新たな発見をしたわけだ。







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