閑話3-35 氷の微笑が鬼神に変わったとき 35
「……なるほど。氷の牢獄と言ったところか?」
閉じ込められたアレンは思わずそう呟いた。
現在、彼は氷の壁が集まってできたドーム状の氷の中にいた。
もちろん、複数の壁は隙間を無くしてしまっているため、外への出口は一切ないようだ。
空気穴がある様子もない。
完全にバランタイン伯爵はアレンを殺す気でこの魔法を使ったようだ。
このまま中から出ることができなければ、そのまま窒息死してしまうわけだ。
中々にえぐい魔法である。
「なら、とっとと出るか」
アレンはそう呟くと、大剣を思いっきり横薙ぎに振るう。
(ガギイイイイイイイイッ)
甲高い音とともに氷の壁が削れた。
しかし、氷の壁を破ることはできなかった。
(シュウウウウウウウウウウウッ)
「なに?」
氷の壁は一気に修復した。
この氷のドーム自体がバランタイン伯爵の魔法である。
壊されれば、自然と修復されるのだろう。
これは面倒である。
先ほどのアレンの一撃は全力ではないにしろ、そこそこの力を込めたはずである。
だが、それでも完全には破壊することが叶わなかった。
ならば、アレンも全力で破壊するしかないわけである。
しかし、そんなことを許してくれるバランタイン伯爵ではない。
(((((バアアアアアアアアアアアアンッ)))))
(((((ドドドドドドドドドッ)))))
氷の壁から先ほどの茨と礫がアレンに向かって放たれた。
アレンはそれをどうにかはじく。
しかし、かなり数が多い。
完全にこの魔法の支配下のためか、外にいたときよりも簡単に魔法を使うことができるのかもしれない。
これほどの弾幕、逃れるビジョンが中々浮かんでこない。
「【氷結処刑】か……よく言ったものだ」
アレンは思わず感心する。
おそらく、この中は氷の処刑場なのだろう。
罪人を閉じ込め、追い詰め処刑をする──まさに名前の通りである。
まったくとんでもない魔法を使う者である。
【英雄】と呼ばれる人間が使うような魔法ではないだろう。
いや、これぐらいの魔法を使わないと、戦争では英雄になれなかったのかもしれない。
そんなことを考えている間も、攻撃はやむ様子はない。
むしろ、いつまでも倒れないアレンに対して苛立ち、攻撃の数が増えているようにすら感じる。
魔法に意識があるわけでもないので、それは気のせいだと思う……思いたい。
(チッ)
「くっ!?」
礫の一つがアレンの右頬を傷つける。
そこから血が流れてきた。
しかし──
(カチカチカチッ)
「なっ!?」
その出血がいきなり凍ってしまった。
その光景にアレンは驚く。
つまり、この中は血液が一瞬で凍るほどの冷たさであるわけだ。
そんな場所にいつまでも居続けることはできないだろう。
いくら【英雄】と呼ばれようとも、人間であることには変わりない。
流石にこのまま閉じ込められていれば、そう長い時間もかからずに氷漬けにされる可能性が高い。
そうなれば、アレンの負け──いや、死につながるわけだ。
「やるしかないか」
アレンはそう呟く。
しかし、考えは先ほどの氷の壁の修復を思い出す。
ある程度であれば、傷つけることはできる。
しかし、生半可な傷ではあのように一瞬で修復されてしまうわけだ。
ならば、修復できないほど破壊する威力の攻撃を放てばいい。
だが、そのような攻撃を放つためにはある程度のため時間が必要になってくる。
それをこの状況でできるだろうか?
氷の礫が飛び回り、氷の茨が暴れまわっている、この空間で……
「ちっ……覚悟を決めるか」
アレンはそう呟くと大剣を右斜め下に向け、腰を落として構える。
柄も片手ではなく、両手でしっかりと握る。
(チチチチチチッ)
(スパパパパパパンッ)
「くっ!?」
動きを止めたアレンに氷の礫と茨が襲い掛かり、彼の体を傷つけていく。
体中から流れていく血が一瞬で凍り付く。
徐々にアレンの体が氷に包まれていった。
すでに表面は氷に覆われ、中まで凍り付くのは時間の問題かと思われた。
そんなとき、彼の口から白い息が漏れ出た。
「【大破斬】」
アレンは全身に力を込め、左回りに回転をした。
その動きに合わせて大剣を振るった。
大剣が振るわれて起こった風圧が氷の礫や茨──壁すらも破壊していく。
それだけではない。
周囲の地面を覆っていた氷も破壊し、剥がしていった。
「なっ!?」
バランタイン伯爵の驚愕の声が聞こえてきた。
おそらく、この魔法が破られるとは思っていなかったのだろう。
たしかに、強力な魔法ではあった。
アレンも全身が氷漬けになりかけになるまで、追い詰められていた。
一歩間違えれば、負けていたのはアレンだったのかもしれない。
アレンは氷に覆われて動きづらくなった脚を動かし、片手片膝を地面についているバランタイン伯爵に近づく。
どうやら、彼はもうすでに動けないようだ。
あれほどの魔法を使ったのだ。
その体にはもうほとんど魔力が残っていないのだろう。
そんな彼の首元に大剣を突き付ける。
「チェックメイト。俺の勝ちだ」
「くっ……」
こうしてアレンとバランタイン伯爵の決闘は、アレンの勝利という結果で終わった。
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