3-7 小さな転生貴族、来訪者の目的を知る
※2月26日に更新しました。
「おうおう、すげえことになってるな」
「……これをルシフェルさんが?」
愉快そうなリオンさんの言葉と目の前の光景に俺は驚きを隠せなかった。
シリウスの造った氷の壁が壊れているのは理解できる。
ルシフェルさんはその壁を壊すために魔法を使っており、彼の魔力ならば造作もないことのはずだ。
しかし、屋敷の外壁が粉々に破壊されているのは理解できない。
外壁は俺が魔法の訓練のついでに造ったものだ。
ついでとはいえ、相当な魔力を練り込んでいるのでかなり頑丈にできているはずだった。
それなのに、ここまで壊されているのだから驚いて当然だろう。
「いえ、君もこれぐらいできるでしょう? それだけの魔力量を有して、魔族顔負けの魔力操作もできるようですから」
「まあ、確かにできますけど」
ルシフェルさんの指摘に俺は同意する。
といっても、流石にここまでのことはできないかもしれない。
俺が造った壁なので壊すぐらいは可能だが、ここまで粉々になることはない。
「……やっぱり起きていたんだね」
「ん?」
シリウスが俺の方を見て、そんなことを言ってくる。
どうやら俺が起きていることは最初からわかっていたようだ。
まあ、普通の誘拐犯はさらった子供を小脇に抱えて屋敷に来ることはないだろうから、おかしいと思うのが当然である。
アリスは抱えられた俺の姿を見て怒りで正常な判断ができなくなったから、その事実に気付くことはなかったのだろう。
それでも格上のリオンさんに一撃を食らわせることができたのだから、彼女の戦闘センスには舌を巻く。
「どうしてこんなことを?」
「この二人がうちに用があるみたいだったから、連れてきたんだ。それでちょうど二人が訓練している光景を見て、リオンさんが姉さんに、ルシフェルさんが兄さんに興味を抱いてね」
「ああ、それで実力を試させろ、と?」
「うん」
俺の説明にシリウスは状況を理解する。
「ちょっと、その言い方は語弊があるでしょう。リオンはともかく、私はそんなことは言っていませんよ?」
俺たちの会話にルシフェルさんが文句を言う。
そういえば、彼は実力を試したいとは言っていなかった気がする。
「でも、兄さんの魔法を見て、興味があるとは言っていましたよね?」
「まあ、この年齢であれだけの魔法を使うことができれば、興味もわきますよ」
「結局、実力を試すようなことをしていますが?」
「う……」
ルシフェルは言葉を詰まらせる。
彼は最初こそ遠慮していたが、最終的にやってしまえば関係のないことだ。
というか、そもそも別に実力を試したいと思うのはそんなに悪い事ではない。
「ガハハッ、子供に言い負かされているじゃねえか。そんなんでよく魔族のトップが務まるもんだぜ」
言葉を詰まらせたルシフェルさんを見て、リオンさんが爆笑している。
どうやら俺に言い負かされたルシフェルの情けなさがツボに入ってしまったようだ。
まあ、5歳児相手に大人が反論できなくなっているのだから、笑ってしまう光景なのかもしれないが……
「リオンは子供相手に言い争いすらできないんじゃないですか? 脳まで筋肉で出来ているんですから」
「あぁ? 馬鹿にしているのか?」
「流石にそれぐらいはわかるようですね」
「喧嘩を売ってるんなら、言い値で買うぞ?」
怒りを露わにするリオン。
流石にこの二人が暴れるのはまずいと判断し、俺は仲裁に入る。
「喧嘩は止めてくださいね。先ほどの比じゃない被害が出るのは困るので……」
「「……」」
俺の言葉に二人はお互いを睨み付けながらも、言い争うのはやめてくれた。
この二人はドライとマティニの上位互換のようなものだ。
一回り二回りといったレベルではなく、野球でいうところの少年野球とプロ野球の差ぐらいはあるだろう。
ドライとマティニの喧嘩でも危ないと俺は思うので、この二人の喧嘩は危ないどころの騒ぎではないはずだ。
「流石グレインだね」
「兄さん、どうしたの?」
突然のシリウスの言葉に俺は首を傾げる。
彼が何を言っているのかわからなかった。
「獣人と魔族のトップを相手に正論で諭すなんて、普通はできないよ」
「いや、それはそうしないとまずいからで……」
「目上の人に対して意見を言えるなら、貴族の当主とか向いているんじゃないかな?」
「っ!?」
彼の意図していることを理解した。
これを機に俺の方が次期当主にふさわしいと周囲に思わせようとしているのだ。
しかも、まったく状況を理解していないこの二人にそう認識させることで、逃げ道を防ごうとしているようだ。
「兄さんだって、ルシフェルさんに魔法で褒められていたじゃないか。やっぱりそういう才能のある人間の方が当主にふさわしいんじゃないかな?」
「それだったら、グレインも同じじゃないかな? ルシフェルさんが評価するぐらいの魔力操作もできるみたいだし」
「僕の魔法なんてそこまでのモノじゃないよ。絶対に兄さんの方が凄いと思うよ?」
「……思ってもないことを言わないでよ。流石に僕だって、自分の魔法がグレインよりできていないことはわかっているんだから」
「……ごめん」
シリウスが急に落ち込んだので、俺は思わず謝ってしまう。
当主になりたくないがゆえに思ってもないおべっかをしてしまったが、流石にそれは彼のプライドを傷つけてしまったみたいだ。
流石にありもしない評価を告げられるのはあまりうれしいものではないか。
「やはり歪な兄弟ですね~。どちらが当主になるかを争うのが普通なのに……」
「人間は面倒な生き物だな。獣人なんて、一番強い奴がトップになるからわかりやすいのに……」
「獣人は種族的に脳筋ですからね……というか、実力至上主義すぎませんかね?」
「まあ、力が強い奴ほど偉くなるのが当然だと思っているからな」
俺たちの会話を聞きながら、二人がそんな会話をしている。
そんなに俺たちは歪なのだろうか?
普通ではないことは理解していたが、まさかそこまで言われるとは……
二人とも当主になりたくないので、譲り合っているだけなのだが……いや、それ自体がおかしいのか?
「しかし、別の用事で来たのに、思わぬ収穫を得ましたよ」
「ああ、そうだな。というか、どうしてお前さんはこの領地に来たんだ?」
「私は最近流行りのチェスとリバーシの開発者に会いに来たんですよ。あれほどの発明をした人間にぜひ会いたいと思ってね」
「ほう……お前さんの国でも流行っているのか? チェスというのは知らないがリバーシはビストでも流行っていてな、最近は娘と楽しんで遊んでいるんだ」
「それはいいですね。私も娘とのコミュニケーションの一環で使っていますよ」
二人がそんな会話をしている。
まさか二人がそんな目的で来ているとは思っていなかった。
こんな辺境の地に来るのだから、てっきり様々な種族のるつぼであるこの地を視察に来ているのだと思っていた。
しかし、目的はまさかのリバーシとチェスの開発者──つまり、俺に会いに来たわけだ。
また厄介ごとになりそうだ──そんな思いが俺の頭によぎる。
「さて、アレンに会いに行くか」
「ええ、そうですね」
共通の目的だと分かった二人は先程とは違い、笑顔で会話をしている。
仲が良いのか悪いのかはっきりしてほしい。
二人が屋敷に向かっていこうとした瞬間──
「行かせると思いますか?」
「「「「っ!?」」」」
──背後から冷たい声が聞こえ、4人全員がその場で固まってしまう。
なぜなら、その声の主が怒りを感じ取ったからだ。
俺たちは恐怖を感じたが、このままの状態でい続けるわけにはいかない。
ゆっくりと振り向くと、エリザベスがそこにいた。
満面の笑みを浮かべているが、彼女の後ろには燃え盛る怒りの炎が見える。
実際にはないはずなのに……
そして、笑顔のまま彼女は口を開く。
「とりあえず、正座しなさい」
「「「「……はい」」」」
ここが外であるとか気にすることもできず、俺たちはただただ素直にその指示に従って正座をした。
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