閑話3-19 氷の微笑が鬼神に変わったとき 19
途中で視点が変わります。
「はぁ……はぁ……」
アレンは息を切らしながら、走り続けていた。
普段の彼であれば、この程度では息を切らすことはなかったはずだ。
だが、普段とは違う状況──エリザベスに話を聞かれ、逃げた彼女を追いかけないといけなかった。
その状況による焦りが彼の平常心を揺さぶり、普段以上に消耗させていたのだ。
といっても、まだ走ることはできる。
エリザベスを追いかけることはできるのだ。
しかし──
「どこに行ったんだ?」
アレンは周囲を見回しながら、そんなことを呟く。
アレン達がいるのは王都──リクール王国最大都市である。
数十万人の住人がいる大都市であり、それらの人が住むためにかなりの広さを誇っている。
街の中は道が入り組んでおり、大通りを逸れてもその先にいろんな道が続いているのだ。
むやみやたらに探していても、見つからない可能性の方が高いだろう。
だが、今の彼にはどのように探すのかは思いつかなかった。
そもそもエリザベスはアレンに見つからないために隠れているように逃げている可能性が高い。
その状況で、どうやって見つけられるか……
(ピリッ)
「ん?」
不意にアレンは何かを感じた。
何を感じたのかはわからない。
だが、アレンを急かすような──そんな雰囲気を感じとったのだ。
それはそこまで遠くない場所から感じる。
だが、王都の入り組んだ道のせいで、着くまでに意外と時間がかかるだろう。
そう思ったアレンはある決断をした。
(ダッ)
次の瞬間、アレンの姿が掻き消えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(エリザベス視点)
「(ああ……なんで逃げてるの、私っ!)」
王都の道を勢いよく走りながら、エリザベスは心の中でそんなことを考えていた。
彼女はどうして逃げているのかわからない。
だが、体が勝手に動いてしまっていた。
「(アレンが私に告白?)」
先ほど酒場で聞いた言葉を思い出す。
あの場所にいたのはたまたまだった。
アレンと口論をした後にそのまま部屋に帰ったのだが、なぜか落ち着くことができなかった。
なので、こんなときにはお酒を飲もうと思い、酒場に向かったわけだ。
そのせいで、まさかあんな場面に出くわすなんて……
「(アレンは私のことを先輩としか思っていないんじゃ……)」
エリザベスは今までの彼との出来事を思い出す。
先輩の女と後輩の男──それを見た周囲の者たちがからかってきたことはあった。
男女の組み合わせだから、そのように考える者は多いだろう。
だが、アレンはエリザベスに対して、そのような感情を持っているようには思えない態度だった。
普通に先輩を慕う後輩のような態度だったので、エリザベスも良き先輩としてふるまったつもりだ。
悪いことをしたら怒り、良い事をしたら褒める。
先輩後輩の関係であれば、いたって普通の関係だったと思う。
「(一体、いつから……)」
エリザベスの方は出会ったときからだった。
彼が新人の時に出会い、まだ子供っぽいやんちゃな男の子の雰囲気にとても可愛いと思ってしまった。
だが、流石に立場を利用するのはよくないと思ったため、その考えは胸の奥にしまっておいた。
エリザベスが冒険者としてのイロハを教え、いろんなクエストに連れて行くとアレンはどんどん成長していった。
その成長ぶりはすさまじく、数年も経つとエリザベスの実力を抜いていた。
だが、それでも彼はエリザベスのそばにいた。
彼ほどの実力であれば引く手数多のはずなのに、なぜかエリザベスのそばにいた。
そんなエリザベスのそばに居続ければ、仲間もできないのではないかと心配したが、レオンとルシフェルという仲のいい友達もできた。
【悪友】というべきか、しょっちゅう問題を起こしていた。
そのたびにエリザベスが説教をしていた。
そのせいでエリザベスはその三人の保護者的な扱いを受けていた。
だが、その関係が心地よかったのも事実だ。
エリザベスには家族はおらず、ずっと知り合いの家に世話になっていた。
だが、10歳になっても迷惑をかけるわけにはいかないと、冒険者になるために王都へやってきた。
10歳の女の子がそんな行動をするのは危ないが、幸運なことにエリザベスには【炎属性】の魔法の才能があり、冒険者として過ごすことができた。
だが、才能があるがゆえに孤独ではあった。
そんな彼女の孤独を埋めてくれたのが、あの三人──いや、最初はアレンだった。
「(私はどうしたらいいの……)」
いろいろと考えていたせいで、エリザベスは考えがまとまらなくなった。
走り続けていたせいもあるのだろう。
だからこそ、目の前に気づかなかった。
(ドンッ)
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
脇道から大通りに出た瞬間、誰かとぶつかってしまったからだ。
その衝撃でエリザベスはその場に倒れてしまった。
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なんかサブタイトルの人が全然出てこない……
あと、閑話なのにどんどん続いてしまう。
書いていて楽しいけど。




