閑話3-12 氷の微笑が鬼神に変わったとき 12
「突然、済まなかったな。あまりにもかわいかったものだから、つい……」
「い、いえ……危害を加えられたわけではありませんから……」
数分後、そこには豪快に笑うローゼスと恥ずかしそうにしているクリシアの姿があった。
貴族相手にあんなことをしておいて大丈夫かとアレンは思ったが、クリシアが怒っている様子ではないことから大丈夫だと判断した。
というか、アレンと話しているときのクリシアと違う気がする。
これが彼女の言っていた「知らない人と話すのが苦手」ということか?
そんなことを考えていると、ふと思い出したようにローゼスが話題を変える。
「ところで、私を呼んだみたいだけど、どうかしたのかい?」
「ああ、クリス様が話を聞きたいそうでな」
「私にかい? 貴族様が?」
俺の言葉にローゼスが驚いた表情を浮かべる。
そして、視線をクリシアに向けた。
「私、何かしたかい? 貴族様に聞かれることはないと思うけど……」
「さっき、あれほど抱き着いていただろ? それで怒られるんじゃないのか?」
「それだったら、最初から怒られているだろ? というか、そもそもそれの前に呼ばれていたじゃないか」
「たしかにそうだな」
アレンとローゼスが軽い受け答えをする。
その様子を見れば、二人がある程度親しい間柄であることは他人でもわかるだろう。
当然、クリシアもすぐに理解した。
だからこそ、質問する意味がある、と。
クリシアは意を決して、口を開いた。
「私が聞きたいのはアレン様のことです」
「アレンのこと? 何が聞きたいんだい? 身長? 体重? それとも、アレンの一番魅力的なところかい? 私のお勧めはアレンが上半身を脱いだ時に見える首から胸のあたりだね。鎖骨のあたりが非常にセクシーさ」
「いや、何を言って……というか、その情報はなんだっ!」
ローゼスの答えにアレンは思わずツッコんでしまう。
どうして、彼のそんな情報を知っているのだろうか?
いや、「知っている」というよりはむしろ「見た」感じだろうか?
とりあえず、何とも言えない感情になってしまう。
「いえ、そういう話ではありません」
「あら、違ったかい?」
「はい。ですが、後でその情報はすべて買わせてください」
「毎度あり。安くしておくよ」
「……本人の前でそんな話をしないでくれません?」
二人が本気かどうかわからないが、商談を始めたのでアレンは文句を言う。
普通、こういうのは本人の前では行われないだろう。
というか、人に隠れて行うようなことでは……
「とりあえず、私が聞きたいのはアレン様の好きな人のことについて、です」
「ちょっ!?」
いきなりクリシアがとんでもない質問をした。
それを聞いたアレンは慌ててしまう。
普通、そんなことをいきなり聞くか?
そんなことを聞けば、アレンに好きな人がいることがばれてしまうではないか。
「ん? リズのことかい?」
「へ?」
だが、返ってきたのはアレンが想像していなかったものだった。
しかも、驚いた様子は一切ない、まるで世間話をするような普通の口調で、だ。
「おい、ローゼス」
「ん? なんだい?」
アレンは思わずローゼスに話しかける。
ローゼスは何とも思っていないように振り向いた。
アレンの好きな人をばらした癖に、なんと酷い態度だろうか?
そう感じたアレンは思わず問い詰める。
「ローゼスには話していなかったよな? 俺がリズ先輩のことが好きなこと……」
アレンの口調が変わった。
これはアレンが怒り始めたからである。
普段は貴族と交流するほどではないが、アレンは丁寧な口調で話す。
しかし、怒ったり、戦闘の途中では乱暴な口調になる。
どちらのアレンも女性からは人気だったりする。
丁寧で優男な雰囲気のアレンとワイルドで男前なアレン──どちらのアレンがいいか、王都の女性の間で論争が起こるほどだ。
ちなみに、現状ではワイルドの方が若干優勢らしい。
これについて、本人は気付いていないが……
そんなワイルドアレンから質問されたわけだが、ローゼスは何の気もなしにあっさりと答えた。
「そんなもの、見てりゃわかるでしょ?」
「んなっ!?」
ローゼスの言葉に驚くアレン。
まさか、彼女にばれているとは思っていなかったのだろう。
しかし、そんな彼にさらなる驚きの真実が伝えられた。
「この店にいる連中で「アレンがリズのことが好き」ってことを知らない奴なんて、いないよ?」
「はあっ!?」
「というか、冒険者とそれに関連する人たちなら、ほぼ全員が知っているんじゃない?」
「ああ、そうだな」
「店に初めて来たときからそういう雰囲気があったしな」
「俺、アレンがリズに恋に落ちた瞬間を見たぞ?」
ローゼスの言葉にこの話を聞いていた周囲の客たちが頷いた。
「ええっ!?」
驚愕の事実を伝えられ、アレンは悲鳴のような声で驚く。
自分の恋心がばれているとは思っていなかったからである。
一応、そのことを伝えていた人はいる。
それはアレンとともに冒険していた【獣王】と【魔王】と呼ばれている仲間たちである。
流石にともに冒険する仲間たちに隠し事をするべきではないということで、腹を割って酒の席で話したことがあったからだ。
ちなみに、その二人はアレンに聞かされる前から──いや、アレンに出会った直後に気づいてはいたが……
「というわけで、今さら驚くようなことじゃないわけ? だから、文句を言われる筋合いはないよ」
「うぅ……」
ローゼスの言葉に辱めを受けたように落ち込むアレン。
それに申し訳なく思ったのか、ローゼスはアレンを慰めるように伝える。
「安心しな。リズはおそらく気づいていないはずさ」
「あぁっ!?」
慰めの言葉ではなく、とどめの言葉だった。
周囲にはばれているのに、当の本人にはまったく気づかれていなかったからだ。
これって、もしかすると脈がないのでは──そんな最悪の想定がアレンの頭をよぎった。
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