閑話3-10 氷の微笑が鬼神に変わったとき 10
「さて、アレン様に受け入れてもらえたということで、次の話に移りましょう」
「えっと……次?」
先ほど嬉し涙を流していたのに、すぐに普通の表情に戻るクリシア。
もう少し続くと思っていたのに、あまりの切り替えの早さに少し肩透かしを食らってしまう。
しかし、彼女の言葉の方が気になってしまった。
何もわかっていないアレンをクリシアは半眼で睨む。
「もしかして、先ほど受け入れた時点で話が終わったとでも思っていたんですか?」
「……」
クリシアの言葉にアレンは目線を逸らす。
本気で終わったと思っていたからだ。
自分がクリシアの求婚を受け入れ、全員が幸せになったと思ってしまったわけだ。
しかし、事はそう簡単にはいかない。
「たしかに、アレン様が私の求婚を受け入れてくれたことで、受け入れなかった時には一切なかった道ができました。しかし、それはあくまで一つの可能性の話です。それがうまくいくかはアレン様次第なんですよ?」
「そうなんですか?」
クリシアの言葉にアレンは聞き返す。
この言葉でアレンがあまり考えていなかったことが露呈したわけだ。
そんなアレンの様子にクリシアは呆れたようにため息をつく。
「はぁ……自分のことなのに、本当に何も考えていないんですね。あのギガンテスと戦っていた時のかっこいい姿と一致しないんですが……」
「戦いは基本的に直感に頼ってするからな。あまり考えることはしないんですよ」
「……それが強くなる秘訣なんですかね?」
「それはわからないですね。何も考えずに戦って、命を落としてしまう、なんてこともざらにあります。あくまで私自身の戦い方ですね」
「……そうですか」
クリシアにはよくわからない話だ。
彼女自身も魔法による戦闘はできるが、近接戦闘については門外漢である。
だが、アレンの戦い方が異常であることは流石に理解できる。
まあ、今はその話はどうでもいい。
「アレン様が私の求婚を受け入れてくれたことで、主な問題が二つになりました」
「二つも?」
クリシアが右手の人差し指と中指を立てる。
彼女の言葉にアレンは驚いていた。
まるで「多い」と思っているようだった。
そんなアレンにクリシアは説明する。
「これでも受け入れなかった時に比べれば、かなり減ったんですよ? そのときは数えきれないほどの問題が出てくるはずでしたから」
「そこまでっ!?」
「はい、そうです。アレン様が受け入れてくれたことで、その問題は残っていることには残っていますが、気にしなくてもいい程度の問題になりました」
「……そうなんですか?」
クリシアの言葉にアレンは考え込みながら頷く。
だが、あまり理解はできていなかった。
どんな問題があったのか、わからないからである。
「まあ、今は気にならなくなった方はどうでもいいです。それよりも二つの主な問題の方です」
「ああ、そうですね」
クリシアの言葉にアレンはようやく本題に意識を向けた。
これはアレンが幸せになるかどうかの瀬戸際なのだ。
真剣に話を聞かなければ……
ようやく真剣になったアレンを見て、クリシアは笑みを浮かべる。
そして、右手の中指を畳んで、人差し指だけを立てた状態にする。
「まず、一つ目はお父様の件です」
「バランタイン伯爵?」
クリシアの口から出てきた言葉にアレンは驚く。
どうしてここでその人物が出てくるのだろうか?
クリシアが頼み込んだとはいえ、アレンに話を持ってきたのはバランタイン伯爵自身なのに……
首を傾げるアレンにクリシアは説明する。
「お父様は硬派ではあり、恋愛結婚を推奨していますが、基本的に貴族の重婚自体を認めていないわけではありません。その必要性は理解していますから」
「なら、問題ないんじゃ……」
クリシアの説明にアレンはそう感じた。
認めているのであれば、問題になるとは思えないのだが……
しかし、次のクリシアの言葉にアレンはようやく理解することができた。
「ですが、自分の家族のことになると、話は別です」
「自分の家族……つまり、この場合はクリス様のことですね?」
「はい、その通りです。以前は私の姉たちも含まれていましたが、結婚をしたのを機にその対象から外れたようです」
「そうなんですね」
「といっても、最後までごねていたようですが……お母様が説教をして、ようやく納得したようです」
「はは……」
なんと反応をしていいのか、アレンはわからなくなってしまった。
戦争で功績を立てた英雄の噂話を聞き、実際に対峙したことでバランタイン伯爵のことはすごい人物であると思っていた。
しかし、クリシアから出てくる彼のエピソードはアレンの想像をぶち壊すものだった。
まあ、家族を大事にすることは別に悪い事ではないので、批判することではないが……
「とりあえず、お父様は私に結婚するのなら、私が愛し、私を愛してくれる人だと考えているわけです。私に惜しみない愛情を向けている人ならなおいいですね」
「……なるほど。このまま進むと……」
「お父様はアレン様に対して怒髪天をつくことになるでしょう。アレン様をその手にかける可能性もあります」
「おおう……」
いきなりの物騒な話に思わず情けない声を出してしまうアレン。
冒険者と言う職業柄、命の危険にさらされる場面なんてざらにあった。
しかし、まさか貴族になって間もないのに、命の危険にさらされることになるとは思わなかった。
これは貴族の世界でも例外なことかもしれないが……
「つまり、一つ目の問題は私のことで怒るであろうお父様にどうにかして重婚を認めてもらわないといけないことです」
「……なるほど。それは難しそうですね」
クリシアの言葉にアレンは考え込んだ。
どうすれば、認められるのか──真剣に考えないといけないと思ったからだ。
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