プロローグ 周囲の国にて
第三章、始まります。
※2月24日に更新しました。
(獣人の国ビスト)
「ほぉ、これがリバーシというやつか……見たところ、黒と白の色がついた石にしか見えないが……」
ソファに座りながら、獅子の男が石を確認するようかざす。
どこからどうみてもただの石にしか見えず、怪訝そうな表情を浮かべる。
そんな男に部下が説明をする。
「はい。リバーシとは盤上にそれらの石の並べていく遊びのようで、同じ色で挟んだ場合に色を変えるようです。そして、最終的に色が多い方の勝利となります」
「ふむ……つまり、どちらの色がより盤上を染め上げるかを競う遊びという訳か」
「そのようです。といっても、私も商人から買った者に話を聞いただけなので、正確とは言えませんが……」
部下が申し訳なさそうに告げる。
目の前の男を支えることを第一と考えているのに、正確性のない情報を伝えるしかなかったのだ。
そのことに悔しさを感じたのだ。
しかし、そんな部下の言葉にも男は満足そうな表情を浮かべる。
「なかなか面白そうじゃないか。ルールも簡単みたいだから、娘たちとも遊べそうだ」
「それは良いと思います。リバーシは【子供でも遊ぶことができる】との触れ込みで売られているそうで、すでにリクール王国の首都では大人気のようです」
「それは楽しみだな。最近、うちの娘は反抗期みたいで冷たいんだ。これを機会に親子の仲を深められるかもしれない」
「それは……」
部下はどう反応すれば良いのかわからなかった。
男の娘はたしかに反抗しているのだが、原因は男の方にあったりする。
娘に構い過ぎて、嫌がられているのだ。
家族を大事に思うのは良いことではあるが、やり過ぎると駄目な例だ。
「よし、さっそく娘と遊んでくるわ」
「えっ!?」
突然の言葉に部下が驚きの声を上げた。
男がいきなり立ち上がり、リバーシを片手に部屋から出ていこうとしているからだ。
それに気づいた部下は慌てて男を止めようとする。
「ちょっと待ってください、リオン様っ! まだ仕事が残っているんですがっ!」
「はははっ、後は任せた。俺は娘とリバーシで遊ぶのに忙しいのだよ」
「それは忙しいとは言いませんっ!」
高笑いをしながら逃げる男──リオンを真剣な表情で部下の女性は追いかける。
ビストのとある場所では日常的な光景である。
そんな様子を周囲にいる人間は生暖かい目で見た後、自分たちの仕事に戻っていった。
(魔族の国・アビス)
「へぇ……これがチェスというやつかい?」
「少し難解なルールだな。駒の動きを覚えたうえで、どのように動かすのかを考えないといけないわけか……」
「ククッ、頭の悪いお前じゃ難しいかもしれないな」
「それはこっちのセリフだ。お前程度では駒の動きすら覚えられないのではないか?」
「はぁ?」
二人の男がチェスの駒を手に取った状態で言い争いをする。
彼らは同じ職場で働く仲間ではあるのだが、性格的に相容れないせいかかなり仲が悪い。
普段からよくケンカをしており、そのたびに周囲のものを壊したりしているのでかなり迷惑だったりする。
普段は物を壊す程度で済んでいるので周りも見て見ぬふりをしているのだが、今回は流石に注意される。
「お前たち、喧嘩は止めろ。ルシフェル様の御前だぞ」
「「は、はい……」」
女性が注意した瞬間、喧嘩をしていた二人は借りてきた猫のように小さくなる。
二人は性格的に相容れないが、この女性に逆らってはいけないという点では共通している。
そして、二人が静かになったことを確認すると、女は椅子に座っていた男に話しかける。
「ルシフェル様、どうでしょうか? こちらは人族のモスコという商人が持ってきたチェスという遊びです。自身の駒を動かし、相手の駒を倒し、最終的に王を討ち取れば勝利することができるようです」
「へぇ……それは面白そうじゃないか」
女の説明にルシフェルと呼ばれた男がニヤリと口角を上げる。
一見するとかなりの悪そうなことを考えているように見えるのだが、決してそんなことはなかった。
現在は純粋にチェスを楽しそうだと思っているだけであった。
人に勘違いされる表情を浮かべてしまうのが、ルシフェルの悩みである。
「しかし、見事な駒ですね。おそらくそれぞれの駒をかたどったものなのでしょうが、大変美しくできています。これを作った職人は相当な腕利きですね」
「そうか? 俺はこれを職人が作ったとは思えないな」
「っ!? どうしてですか?」
ルシフェルの言葉に女性が驚きの表情を浮かべる。
まさか自分の考えを否定されるとは思っていなかったのだ。
自信満々に言ったことを否定されたので、先ほど怒られた二人は笑いをこらえていた。
もちろん彼女はそれに気が付いていたので、あとで罰を与えることを決めた。
「これは魔法で作られている。しかも、魔力が練り込まれてな」
「……たしかにそうですね。あまりにも見事だったため、そちらに気が回りませんでした」
「まあ、たしかに見事であるのは認めよう。だが、私の印象では練習途中と言ったところな」
「そうなのですか?」
女性は純粋に聞き返す。
これほどまで精巧な駒を魔法で造っているのだ。
相当な魔法の達人が制作者だと言われてもおかしくはない。
しかし、ルシフェルはそう言わなかった。
「ああ。全体に同じ魔力があることから一人の魔法使いが造ったことはわかる。だが、所々にまだ魔力にばらつきがある。つまり、練習中というわけだ」
「……なるほど」
ルシフェルの言葉に女が納得する。
流石は魔族一の魔法の使い手、魔法のことに関しては彼の右に出る者がいない。
女性はルシフェルこそ自分が仕えるべき主であることを改めて認識した。
「しかし、これだけのものを造る魔法使いは気になるな」
「たしかにそうですね」
ルシフェルの興味はすでにチェスの作成者へと移っていた。
彼は自身の興味のある分野──特に魔法関連に関しては異常なほど執着を見せる。
だからこそ、制作者のことが気になったわけだ。
「では、モスコという男に一度話を聞いてみます。素直に教えてくれるかはわかりませんが……」
「ああ、頼む」
女性は頭を下げて部屋から出ていく。
先ほど喧嘩していた二人の男達も同時に部屋を出ていく。
先ほど笑った件について罰を与えるため、女性が出て行く際に視線で指示を出していたのだ。
そして、ルシフェルが部屋に一人残される。
駒をかざしながらチェスの作成者について考えていると、部屋の扉がノックされる。
許可を出すと、一人の少女が顔を出した。
「お父様」
「ん、どうしたんだい?」
「今、時間がある? お父様と一緒に過ごしたいの」
「大丈夫だよ。ちょうど面白い遊び道具が手に入ったから、一緒にやろう」
「(ぱあっ)うん」
ルシフェルの言葉に少女は満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
その姿を見て、彼は相好を崩す。
魔法馬鹿とよく揶揄される彼ではあるが、彼が魔法以上に好きなのは愛娘である少女のことだ。
父娘で楽しくチェスを楽しんだ。
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次回は16時になります。




