7-111 死んだ社畜はやばい状況に割って入る
「おおおおおおおおおおっ!」
「っ!?」
いきなり殴りかかってきたロット先輩を見て、子爵は目を見開く。
まさか、平民が貴族である自分に殴りかかってくるとは思わなかったのだろう。
完全に反応が遅れていた。
それは子爵の周囲にいた部下たちも同じで、誰も守りに行くのが遅れていた。
このままでは先輩が子爵を殴ってしまう。
誰もがそう思った瞬間──
「はい、ストップ。流石にそれはまずいですよ」
「「「「「えっ!?」」」」」
ロット先輩と子爵の間に俺が割って入った。
いきなり現れた俺の姿を見て、その場にいた全員が呆けた声を出してしまう。
まさか、こんなところに10歳程度の子供が現れるとは思わなかったのだろう。
これは仕方がない。
俺の見た目が若いのが悪いのだ。
「グレイン君?」
まず、初めに気づいたのがヴォーパル先輩だった。
殴りかかろうとした相棒を後ろから見ていたおかげで、現れた瞬間から俺の全身を視認することができていたためだろう。
一番早く、俺のことに気が付いた。
「え? グレイン君? どうして……」
次に拳を止められたロット先輩が俺の存在に気づく。
その目は俺の存在が信じられないとばかりの驚きの表情だった。
いや、そこまで驚かなくとも……
とりあえず、俺はロット先輩を落ち着かせる。
「ロット先輩。流石に貴族を殴るのは駄目ですよ。不敬罪に問われますよ」
「うぐっ……だが、エクレールとサンドラがダンジョンに取り残されているんだぞ。少しでも早く助けに行かないと……」
「その気持ちはわかりますが、何の準備もない状態で行っても逆に危険ですよ。冒険者でしょう?」
「たしかにそうだが……」
俺の説明に先輩は口ごもる。
完全な正論であるため、言い返すことができなかったのだろう。
先輩も理解はしていたのだろう。
感情で助けたいと思っていただけで……
「お前は何者だ?」
俺が先輩を落ち着かせていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこには俺のことを見下ろす子爵の姿があった。
まるで俺のことを珍獣でも見るかのように、少し驚いた様子で見下ろしていた。
流石にこの状況で何も言わないわけにはいかないので、軽く頭を下げて自己紹介をする。
「初めまして、アストラ子爵様。僕はグレイン=カルヴァドスと申します」
「カルヴァドス? 【巨人殺し】の?」
俺の自己紹介に子爵は驚いたような反応をする。
流石はアレン、家名だけで連想されるとは……
「それは父の話ですね。僕はその次男坊です」
「ほう……君がいるということは、父君もいらっしゃるということか?」
俺の言葉に子爵が期待に満ちた声を出す。
息子である俺がいるということで、父親であるアレンがいると勘違いしたのだろう。
彼も早くこの問題を解決したいと思っているのだろう。
だからこそ、そんな希望的観測を口に出してしまったわけだ。
「いえ、父は来ていません。カルヴァドス男爵領は辺境ですから、まだ情報も伝わっていないでしょう」
「……そうか。だが、どうして君がここに?」
アレンが来ないと分かった子爵は落ち込むが、すぐに俺がこの場にいる理由を聞く。
まあ、それは気になるわな。
特段隠すことでもないので、俺は説明することにする。
「僕は王都の冒険者ギルドのマスターに依頼されて、ここに来ました」
「ならば、他にも冒険者は来ているのか?」
「いえ、まだですね。僕たちは先行してこの子爵領に来させていただきました。他の冒険者たちも数日のうちに到着するでしょう」
「……そうか。だが、よく来てくれた」
俺たちだけが早く来たことに落胆の声を漏らしたが、それでも助けに来てくれたことは素直にうれしかったのだろう。
感謝の言葉を告げてくれる。
いくら貴族と言えども、しっかりと礼は言える人間なのだろう。
見た目は怖いが、その辺の礼儀はしっかりとしているようだ。
「しかし、こんな子供が冒険者とは……まだ新人なのでは?」
ふと子爵が気づいたようにそんなことを呟く。
俺を初めて見た人は全員同じような反応をするな。
まあ、10歳の俺の姿ならば、それも仕方がないのかもしれないが……
とりあえず、もう慣れた行動をとることにする。
「たしかに俺は新人ですが、すでにCランクです」
「Cランクだとっ!? たしかにその年齢ではすごいかもしれないが……」
子爵は一瞬驚いたような反応を示すが、すぐに落胆したような声を漏らす。
それも仕方がないだろう。
本来のダンジョンはDランクであり、【大量発生】が起こった時点でBランク並の危険度になってしまっている。
たかだかDランクの俺が来ても、力不足だと思っているのだろう。
そんな彼に俺は告げる。
「僕がDランクなのは、あくまで新人にこれ以上高ランクを最初からつけるべきではないという配慮からですよ。実際は数ランクは上の実力を持っています」
「そうなのか? いや、自己申告で言われても……」
「信じられませんか?」
「ああ、そうだな。たしかに【巨人殺し】の息子であるならばあり得ない話ではないが、だからといって手放しに信じられるわけがないだろう」
疑り深い人である。
貴族の当主としては優秀なのかもしれないが……
まあ、完全に信じてもらう必要はないか。
「それも仕方がないでしょう。僕もこんな見た目ですからね」
「立ち振る舞いは年齢不相応みたいだがな」
「周りが異常でしたから、年齢相応の立ち振る舞いができなかったんですよ」
「そうなのか?」
俺の言葉に子爵が聞き返してくる。
俺自身はそう思っている。
だが、そんな俺の言葉にシリウスたちからあきれたような視線を感じる。
どうやら違うようだ。
この状況で否定されることはないだろうが……
「とりあえず、王立学院の学長や冒険者ギルドのマスターに実力が認められていますから、今回の【大量発生】を治めるのを手伝わせてもらいます」
「……その二人が認めているのであれば、言っていることは本当なのだろうな。まだ完全には信じられないが、今は猫の手も借りたい状況。助力に感謝しよう」
「ご期待に沿えるよう、努力します」
とりあえず、少しは信頼を得ることができたようだ。
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