2-19 死んだ社畜は再び魔獣に追われる (追加)
毛玉たちを撫でたことで落ち着いてきたアリスに俺は話しかける。
「そろそろ屋敷に戻ろうと思うんだけど……」
「帰れるの? どこにいるのかわからないのに……」
「それが問題なんだよね」
アリスの言葉に俺は困ってしまう。
屋敷に戻ろうと思うのだが、現在俺たちは自分がどこにいるのかわかっていない状況だ。
森の広さも有限であるため、一方向に歩いていけばいずれ出口につくこともあるだろうが、それがどこに出るかわかったものではない。
それに下手に森の中を歩き回って、ハードウルフのような魔獣に出会いでもしたら目も当てられない。
しかも、この森でハードウルフはかなり弱い部類に入る。
つまり、この森にはあれより強い魔獣がうじゃうじゃいるということなので、そんなものに出会えば今の俺たちではひとたまりもないわけだ。
本当にどうするべきか……
(ドドッ、ドドドッ)
「ん?」
少し離れたところから聞こえてくる音に俺は気が付いた。
何かが走っているようだが……
「何か勢いよく走っているようね」
「ああ、そうみたいだね」
アリスもどうやら音に気が付いたようだ。
まあ、彼女も耳はいいので当然だろう。
しかし……
「なんか、嫌な予感がするんだけど……」
「そうね……私もよ」
二人とも同じように嫌な予感がしたようだ。
俺たちの脳裏におそらく同じ光景を思い浮かべている可能性が高い。
屋敷の部屋程大きな体躯に、あのアレンがどこかに吹き飛ばされた光景を……
(ドドドッ、ドドドドッ、ドドドドドッ)
「どんどん近くなってきているね」
「しかも、地面が揺れていないかしら?」
足音がどんどん近づいてくる。
音が近づいてくるにつれ、地面に揺れを感じるようになった。
この揺れに覚えはある。
これは……
(ドドドドドドドドドドッ)
『ブオオオオオオオオオオオオオオッ』
「「やっぱりかっ!」」
現れた魔獣──【グレートヒポポタマス】を見て、俺とアリスは同時に叫んでしまった。
先ほどの揺れには覚えがあったので嫌な気がしていたのだが、まさかここまで予想通りとは思わなかった。
先ほどのグレートヒポポタマスと同じとは思いたくないが、あの鋭い視線は何となく見覚えがある──気がする。
流石にグレートヒポポタマスの個体の違いなどを見分けることはできないので断言はできないが、なんとなく同じなような気がするだけだ。
だが、本来グレートヒポポタマスというのは温厚な魔獣のはずだ。
よっぽどのことが暴れないと図鑑に書いてあったはずだ。
普段はその危険性の低さから中級に分類されるが、こと暴れ始めると上級と特級の間になると言われている。
つまり、あのグレートヒポポタマスは先程俺たちが出会い、逃げた個体と同じ可能性が高く、しかも上級と特級の間に位置するわけだ。
今の俺たちに勝てるはずがない。
「姉さん、逃げるよ」
「ええ、わかって……あっ!?」
「なに?」
その場から逃げようとするが、アリスがなぜか動かない。
一体、どうしたのいうのだろうか?
そう思った俺がアリスの方を見るが、彼女は申し訳なさそうな表情で言葉を紡ぐ。
「……立てない」
「えっ!?」
「体に力が入らないの」
「……」
突然の言葉に俺は思わず黙ってしまう。
いや、彼女の先ほどまでの状態だったら仕方がない事なのかもしれないが、この状況でそれは止めてほしかった。
暴れ狂うグレートヒポポタマスから逃げないといけないのに、動けないのでは話にならない。
仕方がない。
アリスが動けないと分かった今、俺にできることはどうにかしてあのグレートヒポポタマスを止めることだ。
そのために再び土壁を作ろうとする。
流石に特級に近い魔獣を止められるとは思わないが、それでもないよりはましだろう。
俺は地面に手をつけ、魔力を流そうとする。
「足止めになるかわからないけど、【サンド──」
(ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ)
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
「ん?」
魔法を使おうとした瞬間、どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえてきた。
しかも、かなり上の方──つまり、空から……
だが、空からその声が聞こえてくるはずがない、そう思ったのだが……
俺は思わず上を向く。
すると……
「どおっせいいいいいいいいっ」
(ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ)
『ブモオオオオオオオオオアッ』
盛大な掛け声と衝撃が周囲に響き渡る。
そして、グレートヒポポタマスは悲鳴を上げながら、地面に横たわった。
背中から胴体を貫かれ、その衝撃で地面に倒れ込んでしまった。
そして、その背中から大剣を引き抜き、突然空から現れた男──アレンは俺たちに笑顔を向ける。
「お前たち、無事でよかったぞ」
「「……」」
突然のアレンの登場に俺たちは何の反応もすることができなかった。
無事なのはよかったのだが、まさかこんなとんでもない登場をするとは思わなかった。
おかげで心配の言葉を告げることすらできなかった。
まあ、とりあえず生きていてよかった。
あと、グレートヒポポタマスの脅威がなくなったのは素直に嬉しかった。
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