7-54 死んだ社畜は強者と出会う
普通のシルバーイーターに比べて、数倍ぐらいの大きさだろうか──それだけでもかなりの威圧感を感じる。
色はうっすらと青みがかっていた。
だが、よくよく観察しなければ、その違いを気づかないぐらいである。
傍目には大きめのシルバーイーターにしか見えないはずだ。
『GLUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
アブソルシルバーイーターは雄叫びを上げる。
その声に合わせて、周囲にいるシルバーイーターたちも意気揚々と声を上げる。
あの声には士気を上げる効果でもあるのだろうか、それほどまでにシルバーイーターたちが元気になっていたのだ。
しかし、この状況はまずいな。
俺はてっきりここにはアブソルシルバーイーターがいないと思っていた。
この銀山の至る所にあるシルバーイーターの生息地のどこかにいると思っており、アブソルシルバーイーターがいるのはその一番奥だと考えていた。
こんな一番入り口近くにいるなど、誰が考えるだろうか?
しかし……
「あれは……魔法を食っているのか?」
俺はアブソルシルバーイーターの姿を見て、そう呟いた。
アブソルシルバーイーターはシルバーイーターたちを捕えていた氷塊と岩石の檻を破壊した。
正確に言うと、まるで煎餅でも食っているかのように、ぼりぼりとかみ砕いていたのだ。
シルバーイーターたちが何度も体当たりをしてようやく壊せそうになった代物だぞ?
それをこんないとも簡単に壊すのか……
魔法が効かないだろうと推測していたが、これは想像以上の難敵かもしれない。
事前にきちんと俺が相手すると決めていてよかったのかもしれない。
「姉さん、ティリス、リュコ」
「「なに?」」
「はい」
「予定通り、シルバーイーターの相手をしていてくれ。できれば、アブソルシルバーイーターから離れた奴から相手してくれると助かる」
「「わかったわ」」
「わかりました」
俺の指示に三人は頷く。
彼女たちもアブソルシルバーイーターの危険性を感じ取ったのだろう。
あっさりと納得してくれた。
「兄さんは姉さんとリュコを、レヴィアはティリスの補助に回ってくれ」
「「了解」」
「あまり大きな魔法は放たなくていい。せいぜいシルバーイーターの足止めができるぐらいの拘束をしてくれればいいから」
「「わかった」」
二人も俺の指示をあっさりと聞いてくれた。
こんな指示を出したのは、二人の魔法をアブソルシルバーイーターに食われないためだ。
アブソルシルバーイーターは二人の造った檻を喰らって、若干プレッシャーが大きくなった。
おそらくだが、魔力を取り入れたことによって力を増幅することに成功したのだろう。
魔銀の性質なのだろうか、厄介な相手である。
俺も戦ううえで魔法を使うことが難しくなるわけだ。
「まったく面倒だな……」
俺はそんなことを呟く。
だが、俺の顔には笑顔が浮かんでいるはずだ。
面倒なことは事実だが、こういう強い相手を負かすのは楽しいからだ。
別に強い奴の心を折ることを楽しんでいるわけではない。
ただただ弱い奴をいじめるより、苦労して強い奴を倒すことにロマンがあるだけだ。
(ダッ)
俺はシリウスたちに指示を出し終えると、その場から駆け出した。
もちろん、アブソルシルバーイーターに向かっている。
俺が近づいたことに気付いたのか、アブソルシルバーイーターは檻を食べることを止め、こちらに視線を向けた。
だが、すでに遅い。
「はあっ」
(ガキンッ)
「なにっ!?」
俺はシルバーイーターたちの弱点でもあった腹側──顔と腹部の間を思いっ切り蹴り飛ばした。
しかし、本来は柔らかいと思われる場所がかなりの強度だった。
まるで金属でも蹴り飛ばしたような──いや、金属の特性を持っているということは、あながち間違いではないか?
とりあえず、かなり硬かった。
他のシルバーイーターたちは背中を覆うだけで精一杯だったのだが、アブソルシルバーイーターは腹部まで金属で覆われているのか。
これはなかなかにしんどい相手だな。
『GLUAA!』
(ブウンッ……ドオオンッ!)
攻撃されたことにイラついたのか、アブソルシルバーイーターは右の前足を俺に向かって振るう。
俺は即座にその場から飛び去ったが、その惨劇に思わず目を見開く。
ただ右前足を振り下ろしただけなのに、地面が抉り取られていたからだ。
表面を削った──そんな生易しいものではない。
明らかに前足の長さからは到達するはずではない深層まで抉り取っているのだ。
それだけで相手の膂力が恐ろしい事は理解できるだろう。
下手すれば、先日戦ったオークジェネラル並の力はあるだろう。
それに加え、魔法耐性もあるわけだ。
それだけでかなり討伐難易度が上がるわけだ。
『GLUAH!』
(ドドドドドッ)
「なにっ!?」
魔力の流れを感じたと思ったら、俺はさらに驚いて、その場から飛び退いてしまった。
先ほどまで俺のいた場所から地面が隆起したからだ。
しかも、かなり先端が鋭い。
完全に俺を殺そうとしてきたのだろう。
そんなことをやってきたのはもちろんアブソルシルバーイーターである。
しかし──
「まさか耐性だけじゃなく、魔法まで使ってくるとは……」
俺は流れてきた顔の汗をぬぐった。
たしかに強者との戦いはワクワクすると思っている。
しかし、それもあくまで俺の対処ができる範囲の話である。
対処ができない相手の場合、俺の感じていることはただの被虐思想になってしまうわけだ。
強い相手に蹂躙されることになるわけだからだ。
だが、俺にそういう趣味はない。
とりあえず……
「(やべぇ、どうしよう)」
俺は心の中でかなり焦ってしまっていた。
予想外に強い相手のせいで、どのように戦えばいいのかわからなくなってしまったからだ。
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるので、是非お願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




