7-43 死んだ社畜は絡まれる
出発から3日後の朝、俺たちはロックック銀山の麓の村に到着した。
村といっても、カルヴァドス男爵領にあるような田舎情緒あふれた雰囲気の村ではない。
むしろ、どちらかというと都会に近い活気のある村だった。
といっても、王都のように決して治安が良いわけではないが……
まあ、銀山という他のものとは別格の収入源があるからこそこれだけ発展し、活気に満ち溢れているのだろう。
そして、その収入源が魔物によって失われようとしているので、冒険者ギルドに依頼を出したのだろう。
「すごいわね。まさかこんなに活気のある村があるとは思わなかったわ」
「たしかにそうね。村って聞いていたから、もう少し小さいものを想像していたけど、これって下手したら街とか呼ばれない?」
アリスとティリスが周囲を見渡しながら、俺が考えていたようなことを口にしていた。
まあ、二人でもそれぐらいは理解できるのだろう。
ちなみに、なぜ二人が外に出ているのかというと、馬車の中では体がなまるということで、体を動かすために外に出ているのだ。
勉強をするのが嫌になったから、というのも理由の一つだと思われるが……
あと、俺も馬車の外に出ている。
理由は……俺の場合は馬車に弱いからである。
馬車酔いをしないために道中の8割以上は外で走っている。
それについて二人から文句を言われたが、二人は勉強しないといけないのでその文句は聞かないことにした。
そもそも俺の場合は健康上の問題なので、文句を言われる謂れはない。
「といっても、これでも活気がない方だろうな」
「そうなの?」
俺の言葉にアリスが驚く。
いや、普通に考えればわかるだろう。
これで活気がある方だったら、俺たちは何のためにここまで来たんだ。
そんなことを俺が考えていると、馬車の中からシリウスが会話に入ってくる。
「収入源の銀山で採掘が出来なくなってるからね。当然、村の活気も落ちているだろうね」
「でも、どうみたって活気があるようにしか見えないけど?」
「僕たちが言っているのはあくまで本来の活気に比べて、だよ? そもそもここは鉱山の村だから採掘のために集まってきた人たちの集まりで、基本的に活気のある人間が多いはずだよ」
「ああ、そういうことか」
シリウスの質問にアリスが納得する。
その隣でティリスも納得したような顔をしていた。
どうやら彼女もまたわかっていなかったのだろう。
まあ、アリスが分かっていない時点で察することはできるが……
そんなことを考えていると、シリウスが話しかけてきた。
「さて、グレイン。これからどうする?」
「そうだな……まずは情報を集めようか」
「情報? 宿屋とかをとる方が先だと思うけど?」
俺の言葉にシリウスが少し驚いたような反応を示していた。
まあ、シリウスが驚くのも当然だろう。
普通は長旅の後は先に宿屋を探して、宿泊できる場所を見つける方が先であることが鉄則だからだ。
俺だって、普通はそのセオリーで行動している。
今回そのセオリーから外れる行動をするのには、理由があるのだ。
そろそろ来る頃だと思うが……
「おい、そこの坊主」
「ん?」
村の中を歩いていると、少し離れたところから声を掛けられる。
そこには数人の男たち──ガタイが良いところから鉱山で働いていると推測される者たちがいた。
声をかけてきたのは、その中の一人だった。
ガタイの良さは男たちの中では平均ぐらいだったが、顔には軽薄そうな雰囲気が漂っている。
集団のムードメーカーのような者だろうか?
俺たちが立ち止まると、男たちが俺たちを──いや、俺を取り囲んできた。
まだ10歳の子供の体だと、鉱山で働くような男たちに囲まれると、まるで山脈のように感じてしまうな。
「坊主、この村に何の用だ? 余所者みたいだが……」
話しかけてきた男がさらに俺に問いかけてくる。
だが、視線はうちの女性陣に向いている。
他の男たちも同様だ。
明らかに狙いがバレバレである。
「あんたたちに言う必要はあるか?」
俺はあっさりとそう返した。
まるで挑発するように──いや、完全に挑発した。
男達が怒るとわかっていての発言である。
当然、男たちは俺の思い通りに怒り始めた。
「あぁっ? てめぇ、なめてんのか?」
「ガキが粋がってんじゃねえぞ?」
「余所者が、2度とこの村に来れないようにしてやろうか?」
おうおう、発言がまるでチンピラだな。
いや、チンピラそのものである。
まさかここまで乗ってくるとは思わなかったな。
精々、いきなり殴りかかってくるぐらいだと思っていたが……
「はぁ……」
俺は大きくため息をついた。
もちろん、これは本心から落胆しているわけではない。
相手に対して挑発するための行動だ。
もちろん、この行動に男たちはさらに怒った。
「なんだ、そのため息は?」
「俺たちのことを舐めてんのか?」
舐めているのは事実である。
少なくとも、いくら凄んだところで君たちが俺を怖がらせることは不可能だからだ。
明らかに俺の方が強いし……
「そんなことも聞かないと分からないのか? やはり働くのに体しか使わないような人間たちは頭の中も筋肉になってしまうんだな」
「「「「「なんだとっ!?」」」」」
俺の言葉に男たちの怒りは頂点に達したのだろう。
一斉に俺に殴り掛かってきた。
その行動から、俺は本当に頭まで筋肉なのではないかと思ってしまった。
少し考えれば、同時に襲い掛かることのデメリットはわかるだろうし……
(タッ)
「「「「「へっ……(バキッ)くべらっ!?」」」」」
俺は軽く地面を蹴り、高さ3mぐらいに跳躍した。
そして、男たちは目の前から俺が消えたと驚愕し、そのまま勢いのまま止まれずにお互いを殴り飛ばしてしまった。
しかも、器用なことに全員が殴られていた。
ある意味器用なことをしているな。
何人かは漏れると思っていたのだが、これでは俺が殴る必要がなくなったではないか。
まあ、下手に殴るよりはましか?
とりあえず、俺は声をかけてきた男の胸倉を掴み、頬を張る。
「(バシィッ)ふべっ!? な、なんだっ!?」
いきなり頬に鋭い衝撃を受け、驚いた男が目を覚ます。
そして、自分の胸倉を掴まれていることに気が付く。
「て、てめぇ、何し(ガッ)べっ……」
男が問いかける前に俺は片手で男の両頬を挟んだ。
もちろん、俺の体でそんな芸当はできないので、土魔法で作った巨大な手で、だ。
あと、普通の手ではありえないぐらいの鋭い爪をつけて……
その爪を目の前にちらつかせながら、俺は笑顔で問いかける。
「さて、この辺で一番情報を知っている人の所に案内してもらおうか?」
そんな俺の言葉に恐怖の表情になった男は頷くしかなかった。
よし、これで情報を得ることが出来るな。
ちなみに、一部始終見ていたシリウスたちが呆れた表情をしていたのは、余談である。
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今回、主人公が暴れましたが、これは絡まれたので仕方なく、です。
まあ、絡まれることはもともと予想していたことですが……
鉱山の麓の村ということで、いろんな意味でフラストレーションが溜まっている人が多いんです。




