1-2 死んだ社畜は異世界に (改訂版)
新作はじめました~(1話からかなりあいてますけどw……お待たせしました)
ぜひ読んでください。
「というわけで、あんたに特別な力を授けるわ」
女神さまはそう宣言する。
ものすごい美人なので自信満々な姿がよく似合う。
まあ、今はそんなことは関係ないので気になったことを質問する。
「それって選べるんですか?」
「もちろんよ。といっても、ポイントによって変わってくるんだけどね」
「ポイント、ですか?」
「ええ。前世でどんな行動をしたか、善行・悪行を項目ごとに評価されて換算されたポイントをそれぞれ与えられ、そのポイントから能力を得ていくわけよ」
「……なるほど」
つまり、良い事をすればポイントが高くなり、悪い事をすればポイントが下がるというわけだ。
そういうことならば、異世界転生で酷い能力になるという悲惨な状況になることはないだろう。
別に前世で俺は悪い事はほとんどしたことはないし、人に親切をするようにはしてきたはずだ。
まあ、流石に大きな人助けとかは無理だったが、それでも困っている人を見かけたら声をかけるぐらいはしていた。
そんな性格だからこそブラック企業を止められなかったわけだが……
「あんたには20000ポイント与えられているわ」
「20000ポイント、ですか? それって多いんですか?」
女神様から告げられた数字に俺は首を傾げる。
他の比較対象がわからないので、イマイチすごいのかどうかすらわからないのだ。
そんな俺に女神さまは説明してくれる。
「そうね……これは比較的多い方だわ。大体、一般的な日本人で2000ポイント前後が平均だから、10倍あるわね」
「一般的、ですか……それで過去最高のポイントはどれぐらいなんですか?」
「たしか10万ポイントを超えていたかしら?」
「……」
あまりの差に泣きそうになってしまう。
というか、いくら最高ポイントと比較したとしても、どうしてそこまで差がつくのだろうか?
どういう人生を送ったら、そんなにポイントを得ることができるのだろうか?
怪訝にそうな表情を浮かべていたのだろうか、女神さまが説明をしてくれる。
「この人たちのことは気にしなくていいわ。片方は聖人君子並みに人助けをしたせいで早死にしてるし、もう一人は小さな親切をコツコツして過ごしてきて100歳で大往生したご老人だからね」
「……なるほど」
たしかにそんな人物と比較されたならそれだけの差がついてもおかしくはないな。
流石に自分のことを聖人君子などと思わないし、同じような親切をしていたとしても長い年月には勝てない。
というわけで、俺の年齢でこのポイントは結構すごいのではないだろうか?
「とりあえず、これがポイントで手に入れられるもののリストよ。日用品からスキル、伝説の武器までなんでもござれね」
「ありがとうございます。ちょっと確認してみます」
女神さまがどこからか取り出した書類を渡されたので目を通してみる。
大体20枚ぐらいだろうか、1枚に100個ほどの項目が書かれているのですべて見るのも一苦労だ。
だが、最初の数枚──いや、半分ぐらいは見なくてもいいかもしれない。
なんせ……
「なんでコーラとかサイダー……ハンバーガーもありますね? しかも、1、2ポイントで……」
「ああ、それは異世界にないことを見越してわざわざ持っていきたいという奴らがいたからよ。最初は私もふざけているのかと思っていたんだけど、ジャンクフード漬けになった日本人にとっては必要必需品だったみたいよ」
「メタボな方ですか?」
「ええ、そうね。たしか死因が【食べ過ぎで喉を詰まらせ窒息死】だったはずよ」
「……」
なんて嫌な死に方だろう。
僕もジャンクフードは嫌いではないし、学生の頃はハンバーガーの有名チェーン店でバイトとかをしていたことがあるので一般平均よりは食べていたのではないだろうか?
だが、それでも死ぬほど食べたいとは思わない。
ああいうのは時折食べるからおいしいのであって、常日頃から食べていては必ず飽きが来るはずだ。
まあ、他の人のことは気にしない方向で行こう。
今はどんなものが手に入るのかを確認することが大事だ。
ペラペラとページをめくっていく。
最初の10枚は1000ポイント以下で手に入る日用品がほとんどだった。
ハンバーガーとかコーラのポイントから換算すると、大体100000円ぐらいだろうか?
日本にいたころは当たり前だったものばかりだが、だからといってわざわざポイントを使ってまで手に入れようとは思わない。
消耗品がほとんどだし、異世界でそんなものを持っていたらかなり浮きそうな感じがする。
まだどんな場所に転生するかは知らないが、少なくとも現代日本にあるようなものがあるとは思えない。
10枚目の最後にはなんとスマホがあった。
今時のスマホの値段を考えれば、当然のポイントなのかもしれない。
「このスマホって、異世界でも使えるんですか?」
「使えないわよ」
「へ?」
「そりゃそうでしょ? 異世界に電波なんて飛んでいるはずはないんだし、他にスマホを持っている人間がいるわけでもないんだし……」
「たしかにそうですね……じゃあ、なんでこんなものがあるんですか?」
「一応、使うことができる方法があるのよ。後半に5000ポイントぐらい使って、ネットを使えるようにしたり、魔力で充電できるようにカスタムしたりできるのよ」
「……なるほど」
使うことができるようになるのは理解できたが、流石にそこまでポイントを使おうとは思わない。
5000ポイントなんて、俺の全財産(?)の四分の一じゃないか。
流石にそんなものに使おうとは思わない。
とりあえず、スマホのことは置いて続きを読んでいく。
11枚目以降は1000ポイントを超えるものばかりで、ここから異世界のものが混じり始めた。
火属性魔法、水属性魔法、剣術適性、槍術適性……など現代日本ではまずいらないようなものばかりである。
すべてではないだろうが、異世界で生活をしていくうえでどれかは必要になってくるのだろう。
「こういう魔法とか武器を扱う適性なんかは後天的に手に入らないんですか? 練習とかしたらできるようになりそうなものですけど……」
「う~ん、無理とは言わないけれどあまりお勧めはしないわね」
「どうしてですか?」
「たしかに貴方の言う通り練習をすればある程度は身に付けることはできるわ、本当に才能がない限りね。でも、あくまで身に付けることができるだけで金になるほど使いこなせるわけじゃないの」
「……生きていくうえではその適性がないといけない、ということですか?」
「そういうことね。ちなみにあなたは現在、何の才能も持っていない状態よ」
「つまり、才能系の能力をとっていかないと生きていけないわけか……」
何とも面倒な世界だな。
いや、ポイントで才能が手に入る分、良心的と言えるだろうか?
まあ、そもそもは自由に自分の才能を手に入れることは無理だろうから、俺は恵まれているのかもしれない。
そんなことを考えながら再び確認していく。
後半になっていくとどんどんポイントが高くなっていくが、どれもが最初の方に出てきた才能の上位互換になっていく。
3000ポイントでは2属性魔法適性と斬系武器適性、5000ポイントになれば全属性魔法適性、全武器適性などの恐ろしいレベルの適性があった。
俺の持っているポイントから考えるならば、魔法か武器のどちらかを取ってもいいのかもしれない。
候補として残しておこう。
そして、とうとう最後のページに到達した。
そこには今までの一覧のように100個書かれているわけではなく、一つ一つが大きく書かれていた。
しかも、一番上にご丁寧に【女神さまのおすすめ】と書かれていた。
これを選んだ方が良いのかもしれないが……
・聖属性の武器 各20000ポイント
・聖属性の防具 各20000ポイント
・聖属性武器適性 各20000ポイント
・聖属性魔法適性 各20000ポイント
・聖属性適性セット 50000ポイント
・闇属性の武器 各20000ポイント
・闇属性の防具 各20000ポイント
・闇属性武器適性 各20000ポイント
・闇属性魔法適性 各20000ポイント
・闇属性適性セット 50000ポイント
「高すぎないですか?」
なんかすべて恐ろしいぐらい高かった。
各々が俺の全ポイントを使って一つ手に入れられるだけだし、お得なはずのセットも全ポイントですら手に入れられない。
なんでこんなに高いんだ?
「ああ、それは英雄とか勇者になりたい人用のスキルね。さっき言っていた聖人君子の方が聖属性セットを選んだわよ」
「……その人なら選びそうですね。俺はいりませんけど……」
「平和な生活を望んでいるんだったらいらないでしょうね? 確かにおすすめとは書いているけど、あくまでちやほやされたい人用に用意しているだけだわ」
「……」
なんて元も子もない言い方をするんだろうか?
まあ、勇者とか英雄とかになりたい人の中にはそういう理由でなる人も幾人か──いや、結構な割合でいそうな気がする。
流石に自分の身を粉にして世界を救いたい──という人間の方が少数な気がする。
あくまでちやほやされるため、そのために世界をついでに救おうとする人の方が多いんだろう。
だが、もう一つ気になるのは……
「この闇属性セットについては?」
「ああ、それは闇落ちに興味がある人用ね? 前世で善行をしていたけど、そのせいでストレスがたまった人は暴れたいがためにそれを選ぶのよ」
「……マジですか?」
闇が深いな。
気持ちはわからないでもないが、前世で善行を積んでいるんだったら転生しても積んでいけよ。
他人に迷惑をかけるな、と言いたい。
まあ、会ったことのない人間には言うことはできないし、他人の希望に文句を言うのもおかしな話だろう。
その人の決めたことなのだろうから、放っておくことにする。
とりあえず、一覧をすべて確認し、俺が希望するものは決めた。
「全属性魔法適性、魔力回復(天)、身体能力強化(大)、治癒力(大)、武器適性(大)を頂けますか?」
「わかったわ。その5つで15000ポイントね。はい」
「うおっ」
突然、俺の体が白く光ったので思わず驚きの声を上げてしまった。
すぐに光が治まり、体の内側から力があふれるように感じた。
だが、そんな俺に女神さまは注意をしてくる。
「力があふれるように感じるかもしれないけど、それはあくまで今だけよ? 転生してすぐには使えないはずだから……」
「そうなんですか?」
「ええ。あくまで適性を手に入れているだけだから、練習とかしない限りは使えることはないわ。まあ、普通の人より上達はかなり早くなるけどね」
「なるほど」
彼女の説明はよくわかった。
いくら天才とはいえしたことがないことができることはない。
最低でもある程度説明を受け、どのような事をやっているかを理解しないと才能があってもできないだろう。
とりあえずできることはわかっているから、それを考えて訓練をしていこう。
「で、残り5000ポイントあるわ。どうするの?」
「……そうですね~」
彼女の言葉に俺は再び一覧を確認する。
正直、俺の望む生活を送るうえでこれ以上欲しいものがあるとは思えない。
というか、そもそもこの能力だけでも過剰と言えるだろう。
生活をするうえで能力があった方が楽だとは思うが、過剰な能力はより面倒な事態を呼び込むことにもなりかねない。
とりあえずは能力を持っているが、常日頃は抑える生活をしていくつもりだ。
そうすれば、前世のような仕事に追われる生活になることはないだろうし、理想のスローライフを送れるはずだ。
そんな中、一覧を見ていてある項目を見つけた。
そういえば、ブラック企業に勤める以外にもう一つだけ治すべき俺の欠点があった。
「じゃあ、この【──】があるということはその逆とかできますか?」
「ん? あぁ~、それは無理ね」
だが、希望した項目はあっさりと断られた。
「なんでですかっ!?」
「能力を加えることはできるけど、消すのは私の権限じゃ無理だからよ。それに普通はその能力も男としては憧れるものだと思うけど……」
「……それで苦労してきたんですよ」
「あら、そう。でも、私にもできないことがあるから……」
「そうですか……」
断られたことでテンションが下がってしまったが、流石にこれ以上食い下がることはしなかった。
たしかにそれは欲しかったが、人を困らせてまで欲しいとは思ってはいない。
まあ、女神様を人扱いしていいかはわからないが……
「そのかわりと言っては何だけど、あんたが日常生活を送るうえで不自由にならない程度の能力を付加しておくわ。【言語理解】、【魔力感知(大)】──この二つがあれば、あんたの才能はすぐにでも開花すると思うわ。ちょうど5000ポイントだしね」
「ありがとうございます」
勝手に選ばれたが、俺はそれを受け入れた。
先ほどからの会話から彼女が優しい性格であることは理解できたし、付加してもらった能力も俺のために考えられたものだと思われる。
だったら、受け入れない選択肢はない。
「とりあえず、これで私から伝えられることは伝えたわ」
「そうなんですか? 結構あっさりですね」
「まあ、死んだ人間に対してそんなにやることはないわよ? 天国に送るか、異世界に送るかって選択肢しかないから、相当優柔不断じゃない限りはこんなものよ」
「なるほど」
優柔不断な人がどれだけかかったのか気になったが、今はそんなことはどうでもいいか。
それに俺も新たな人生を早く送りたい。
「じゃあ、転生させるわね。あんたが次の人生を有意義に過ごせることを願っているわ」
「いろいろとありがとうございます。女神さまも頑張ってくださいね」
「っ!? うるさいわね……とっとと行きなさい」
「……いや、女神さまが送ってくれないと、転生はできないんですけど……」
彼女の言葉に俺はそんな反論をしてしまう。
いや、少し踏み込みすぎたことを言ってしまったかもしれないが、俺のためにここまでやってくれたのだからそれぐらいのことは言わせて欲しい。
本当に感謝しているのだから……
「……最後に一つだけいいかしら?」
「なんですか?」
彼女の言葉に俺は反論する。
なぜか彼女は真剣な表情をしていた。
一体、どうしたのだろうか?
そんなことを考えていると、彼女はツカツカと近づいてきた。
そして……
(チュッ)
「えっ!?」
彼女のいきなりの行動に俺は驚きの声を上げる。
額に感じた柔らかい感覚に思わずその場所に手を当ててしまう。
どうして彼女がそんな行動をしたのか、信じられなかったからである。
顔が赤くなったのを感じた。
「と、とりあえず、私のために異世界転生を選んでくれたお礼よっ! 【女神の祝福】を与えたわっ」
「えっと……それは……」
「じゃあ、とっとと送るわねっ! 日本ではこういうときに言うでしょ、【早起きは三文の得】って」
「いや、それは意味が違うと……って、ちょっと待て」
「えいっ」
「うおっ!?」
俺の体が白い光に包まれる。
ああ、これで俺は次の世界に行くということか……
そう思い、最後のお礼を言おうと女神さまの方に視線を向けた。
そこには顔を真っ赤にして、体を震わせている美女の姿があった。
もしかして、先ほどの行動を恥ずかしがっているのだろうか?
恥ずかしがるぐらいなら、あんな行動をするなよ──俺は思わずそんなことを思ってしまった。
だが、俺はそれを口に出すことはなかった。
流石にここまでやってくれた彼女にそんな追い打ちをかける真似をするのは俺の良心が許さなかったからだ。
俺は黙って──笑顔のまま異世界に向かうことにした。
それが女神さまへ感謝の気持ちが伝わると信じて……
【適性】についての説明
(小)、(中)、(大)、(特)、(天)の5つがあります。
ちなみに(天)は天才という意味で、化け物レベルに強くなります。
といっても、主人公はその化け物レベルの力を使おうとは思ってもいませんが……
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