7-30 死んだ社畜は学長に報告する
「というわけで、初めてのクエストはあっさりとこなしました」
「ふむ」
俺の言葉に学長が頷いた。
冒険者ギルドでガルドさんに報告した翌日、学院に登校した俺は昨日までの出来事を学長に話したのだ。
今回のクエストも一応はカリキュラムの一環なので、しっかりと報告を行わないといけないのだ。
社会人にとっては当たり前のホウ・レン・ソウというやつだ。
これを怠ると前世では大変なことになっていた。
普通の企業でも大事な事ではあるが、ブラック企業ともなるとこれを怠ることでこちらに降りかかる被害が甚大なことになるのだ。
ああ、思い出しただけで震えが……とりあえず、忘れることにしよう。
今は学長にクエストのことを話すだけだ。
「シリウス兄さんたちと俺の専属メイドであるリュコの5人がDランク、俺がCランクからのスタートになりました」
「ほう……思ったよりも下のランクからだね?」
「そうですか? ガルドさんの話では父さんがDランクスタートだったと聞いていますけど?」
学長の反応に俺は思わずそう問いかけてしまう。
あの常識はずれな力を持つアレンがDランクスタートなのだ。
シリウスたちがその1ランク下、俺に至っては1ランク上からスタートなのだから思ったよりも下ということはないと思うのだが……
そんな俺の言葉に学長は話を進める。
「君は今のアレン君しか知らないからそう思うのさ」
「? どういうことですか?」
「アレン君も昔から今みたいに強かったわけじゃないのさ。だからこそ、Dランクからのスタートだったわけだ」
「……いや、十分に凄いと思いますけど……というか、ガルドさんから父さんは新人のころから強かったと聞いてますが?」
「新人の中では群を抜いて強かっただろうね。だからこそDランクからのスタートになったんだし……」
「なら、十分強いと思いますけど……」
学長の言葉に首を傾げる。
言っていることが理解できなかったからだ。
疑問に思う俺に学長が一言付け加える。
「そうだね……わかりやすく言うと、新人の頃のアレン君の強さは二年前の君と同じくらいの強さだね」
「……なるほど」
ようやく理解することが出来た。
二年前の俺ぐらいの強さ──ということを考えれば、確かに新人冒険者の中では格段に強いだろう。
Dランクからスタートになるのもうなずける。
だが、所詮は二年前の俺の強さだ。
今の俺はあの頃よりも2倍とまではいわないが、1.5倍ぐらいの強さになっていると自負している。
当然、シリウスたちも俺ほどではないにしろしっかりと成長できている。
おそらく二年前の俺程度なら、二人で勝つことも可能になっているのではないだろうか?
そう考えると、たしかにCランクスタートはそこまで高くはないかもしれない。
「といっても、流石にBランク以上にするわけにもいかなかったんだろうね」
「そうなんですか?」
「ああ。Bランク以上になってくると、その冒険者自体に指名が来る──いわゆる指名依頼というものが出てくるんだ。その冒険者の名声を聞き、その腕を見込んで金を積んで依頼をするのさ」
「そういうのがあるんですね」
「だが、その指名依頼を受けるためには最低限周囲が納得できるような名声──実績を積まないといけないわけだ」
「……新人でいきなりBランク冒険者になっても、実績が全くないというわけですね」
「ああ、そういうことさ」
俺の言葉に学長が頷く。
確かにその通りかもしれない。
俺がCランクスタートと言うのはてっきりアレンの一つ上にしようという意志が働いたのかもしれないと思っていたが、それは勘違いだったようだ。
今の俺ではBランクになるのは早すぎる。
ある程度実績を積ませるためにCランクからのスタートになったのだろう。
「そういえば、リオン君とルシフェル君もDランクスタートだったはずだよ」
「そうでしょうね」
あの二人はアレンと同程度の力の持ち主だ。
だったら、Dランクからスタートしていても何らおかしくはない。
むしろ、一番下のGランク、その一つ上のFランクで過ごしている姿なんかまったく想像できない。
そう納得する俺に学長はさらに情報を加える。
「ちなみに三人は最速の1ヶ月でCランクに上がり、その2週間後にはBランクに上がっていたよ」
「え?」
今度は驚きの声を漏らしてしまった。
それはそうだろう。
なんせ、信じられない情報を聞かされてしまったからだ。
「どうしてそんなことに?」
まったく予想だにしていなかったことに、俺は思わずそう問いかけた。
それはそうだろう。
いくらあの三人に才能があったとしても、ランクアップがいくらなんでも速すぎる。
今の俺にだって、そんな簡単にランクアップができるとは思わない。
いくら俺が化け物だと言われるほどの才能があったとしても、だ。
そんな俺の様子にククッと笑いをこらえながら、学長が話を続ける。
「別にそうおかしい事ではないさ。彼らの実力ならば、さほどおかしなことでもない。君の実力でも、できることだろう」
「……俺はそう思えませんが? 少なくとも、現状の俺では1ヶ月でBランクに上がる姿が想像できません」
学長の言葉に俺はそう反論した。
一体、どういう手品を使ったら、そんな早くにランクアップできるのだろうか?
全く理解が追い付かない俺は頭の中で思考がグルグルと回転していた。
だが、一向に答えに辿り着くことはなかった。
そんな俺の様子を見て、学長がようやく種明かしをしてくれた。
「三人がランクアップした理由は、アレン君が平民だったからさ」
「……あっ!?」
学長の言葉にようやく納得することが出来た。
たしかによく考えれば、わかりやすい事だった。
「アレン君はいくら優れた近接戦闘の技術を持っていようが、平民は平民。当時、王立学院に通うことが出来なかったから、冒険者ギルドに行くことになったわけだ」
「……そして、本来は勉学に回す時間をすべてクエストに回すことによって、通常の冒険者の何倍ものスピードでランクアップした、ということですね?」
「ああ、そういうことだね。ちなみに参考までに言っておくと、通常のDランク冒険者は一つの依頼をこなすのに三~五日程度、Cランク冒険者は五~七日程度かかると言われているが、あの三人は七日で数十単位の依頼をこなしていたよ」
「……それは物理的にあり得るんですか?」
学長の言葉に俺は思わずそう問うていた。
それはそうだろう。
だって、いくらあの三人が人並み外れた能力を持っていたとしても、持っている体は一つだけだ。
それなのに、どうしてそんな数のクエストをこなすことができるのだろうか?
精々二,三倍程度だと思うが……
「最初のころは少なかったよ。でも、一週間もすればクエストの勝手がわかったようで、一気にクエストを受注するようになったんだ」
「……それって、受付の人に断られたりしないんですか?」
俺の疑問はもっともだと思う。
普通に考えれば、クエストを同時に受注するのはあまり意味がないことだ。
むしろ、一つのクエストに割く時間が減り、クエストの期間までの時間が少なくなることを考えれば、あまりいい事とは思えないからだ。
そうすると、受付の人はそういうのを推奨しないと思うのだが……
「話を聞くと、いちいち一つ二つのクエストで報告に戻ってくるのはめんどくさい、ということだったよ。それならば、近くで受注されているクエストを一手に引き受けた方が良いと思ったようだね」
「ああ、なるほど」
「最初のころは受付の子たちも難色を示したようだけど、何度かするとあっさりと受け流すようになっていたよ。人間というのは慣れるものなんだね」
「……そうですね」
アレンたちも大概ではあったが、当時の受付の人もなかなか豪胆だったようだ。
普通の人だったら、こんなことにはなっていなかっただろう。
ブックマーク・評価・レビュー等は作者のやる気につながるので、是非お願いします。
勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




