7-26 死んだ社畜は自身の戦闘論を話す 1
「とりあえず、詳細を聞こうか? 見たところ、全員大した怪我もなく帰ってこられたみたいだが……」
ガルドさんはそう言いながら、シリウスたちに視線を向ける。
たしかに彼の言う通り、シリウスたちに傷一つない。
だが、その視線はいかがなものだろうか?
その感情は俺以外にも持った者がおり……
「ガルド、女性に対してそんな不躾な視線を向けるのはどうかと思いますよ?」
ウィズさんだった。
礼儀やマナーなどに厳しい彼だからこそ、そういうのに無頓着なガルドさんの行動が許せないのだろう。
というか、こういうところから直したいのかもしれない。
「いや、ちょっと見ただけだろう? というか、こんな子供たちにそんな視線を向けるかよ」
「そういう問題ではないでしょう。というか、彼女たちだってすでに冒険者として登録しているのですから、子ども扱いは駄目でしょう」
「いくら冒険者として登録していても、子供は子供だと思うんだが……」
「だからといって、あの視線は駄目です。女性からまた嫌われますよ?」
「そんな視線を向けるかよっ! というか、「また」ってどういうことだよ!」
ウィズさんの言葉にガルドさんは反論する。
まあ、内容はさておき、俺が思っていることをウィズさんは言ってくれた。
とりあえず、本人はそんなことは全く思っていないのだろうが、男であるガルドさんが不躾に女性陣(一部男)を見つめるのは世間体的にもあまりよろしくない。
これが家族であれば別であろうが、赤の他人である以上は変な勘繰りをされかねない。
なので、しっかりと注意してもらいたい。
「……ったく、わかったよ。これからは注意するよ」
「はい、そうしてください」
結局、ガルドさんが折れたようだ。
自分の行動にも悪いところがあったことは理解できたのか、思いのほか素直に受け入れていた。
まあ、まっすぐな心根を持っていそうだからな。
これ以上文句を言われたくないのか、この空気を変えるべくガルドさんは話を進めることにしたようだ。
「とりあえず、個別の評価を聞かせてくれ」
「わかりました。とりあえず、まずは後衛のシリウスとレヴィアについてですが……」
「ふむ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
10分後──
俺の報告をガルドさんは頷きながら聞いていた。
そこそこ内容的には多かったのだが、どれも真剣に聞いているようだった。
記録に残さないのはどうなのかと思っていたのだが、彼の後ろでウィズさんが何か書いているようだったので問題はないと思われる。
こういうのは適材適所ということなのだろう。
「ふむ、なるほど。なかなか面白い結果だったようだな」
「そうですね。戦闘は安心して見ることが出来たので、後に残るのはその独特の戦闘に対する興味だけですね」
ガルドさんの言葉に俺は思わずそう返事した。
彼の言う通り、シリウスたちの戦闘は見ている側からすれば中々に見応えのあるものではあった。
どの攻撃や魔法も派手で華やかなものだったためか、思わず感嘆の声を漏らすほどであった。
だが、だからといって一概に手放しで褒められるようなものではないのだ。
「とりあえず、実戦で戦えるぐらいの実力は持っているようだが、これからのことを考えるならもっと実戦的な戦い方を身に付けるべきなんだろうな」
「そうですね」
ガルドさんの言葉に俺は頷く。
おそらく俺の報告を聞きながら、直感的に指摘する部分を思いついたのだろう。
しっかりと話を聞いたからこそ、すぐにそのようなアドバイスをすることができたのだろう。
もしかすると、話しながら頭の中でその状況を思い描いていたのかもしれない。
「より実戦的、ですか?」
ガルドさんの言葉にシリウスが問いかける。
言葉の意味が分かっても、どうしてそう言われたのかがわからなかったのだろう。
まあ、言われた側からすれば、わからないのも仕方がない。
現にシリウスたちは問題なく戦えていたからだ。
そんなシリウスにガルドさんが説明を始める。
「ああ、そうだ。君たちは今回のクエストは新人としてはかなり高評価で達成できただろう。それは素直に喜ぶべきことだな」
「あ、ありがとうございます」
「だが、グレイン君からも評価を受けたのだろうが、満点の評価ではなかったはずだ」
「……そうですね」
俺から言われたことを思い出したのか、シリウスが少し落ち込んだ様子を見せる。
俺としては大して悪い事言っていない気がするのだが、彼からすれば結構落ち込むような内容だったようだ。
そんなシリウスの様子に矛先を向けるのはまずいと思ったのか、なぜかガルドさんは俺に向かって話しかけてきた。
「さて、グレイン。君が当事者だったら、どのように戦っていた」
「俺が、ですか?」
突然の質問に俺は首を傾げる。
どうしてこの状況で俺に話しかけるのか、意味が分からなかったからだ。
だが、そんな俺にガルドさんは真剣な表情でさらに聞いてくる。
「実際に現場を見ていたのは君だけだからな。一番それについて語ることはできるのは君だろう?」
「まあ、そうですかね」
ガルドさんの言っていることはたしかにもっともなので、俺はとりあえず考えてみることにする。
まずは……
「まずはシリウスとレヴィアの魔法ですかね。二人がかりで魔法を発動させることによって、オークたちの行動を阻害していましたが、今回はそこまでする必要はなかったと思います」
「ほう? それはどうしてだ?」
「明らかに過剰に拘束していたからですね、もっと弱い威力の魔法でも十分に拘束が出来ていた筈です」
「なるほど」
俺の説明にガルドさんが頷く。
シリウスとレヴィアは少し驚いたような表情を浮かべていた。
まあ、戦闘の後にはそんなことを言っていなかったからな。
あの時は別に問題ではないと思っていたのだ。
これはあくまで俺が戦った場合にはどのように行動するかを伝えているだけなのだから……
「とりあえず、拘束するための魔法はどちらか一方だけでやるべきでしたね」
「なら、もう片方はどうするんだ?」
「そうですね。もう片方は相手が足を動かすことが出来ないように腱を斬ったりするための魔法を放つべき、でしょうか?」
「なかなか恐ろしい事を考えるな。だが、どうしてそんなことを考えたのだ」
俺の考えを聞いて、ガルドさんが若干引いたような表情を浮かべる。
いや、そこまでおかしな考えではないだろう。
対人戦ならまだしも、こちらの命を狙ってくるような相手に手心を加える必要なんてないのだから……
「もしかすると、拘束を無理やり壊して抜け出そうとする奴が現れるかもしれない。そうならないためにも、相手を動けなくさせるべきです」
「それは二重の魔法ではだめなのか?」
「それで可能であれば問題はないですね。ですが、それでも拘束できない相手が現れれば? それならば、一重でも二重でも大差はありません」
「だったら、拘束は一重にして、もう片方が相手が動けないように身体能力を奪うべき、ということだな」
「ええ、そういうことです」
ガルドさんの言葉に俺は頷く。
やはりこの人は戦闘のことになるとしっかりと頭を働かせることが出来る。
こういう人に自分の戦闘論を話すのはなんか楽しいな。
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