7-9 死んだ社畜は祖父の過去を聞く
「まさかこんな早くお目にかかれるとは思わなかったよ。いくら認められるようになったとはいえ、ほとんどいないからな」
「……わかるんですか?」
ガルドさんの言葉に俺は思わずそう問いかけた。
だが、そんな俺の質問に帰ってきたのは、若干呆れた言葉だった。
「何を言っているんだ? それぐらい一目見れば、わかるだろう?」
「え?」
「外見的特徴は明らかに獣人だ。それなのに魔力を持っているということは、魔力を持つ希少種の獣人か魔族の血が混じっていることになる。希少種の獣人については知識として持っているから、彼女ではないことは簡単に推測できるわけだ。というわけで、【デュアル】だとわかるわけだ」
「……なるほど」
ガルドさんの言葉に俺は納得する。
たしかにその通りかもしれない。
冒険者として実力を積んでいる彼からすれば、これぐらいの芸当はわけないのかもしれない。
てっきり脳筋だと思っていたが、意外と洞察力に優れているのかもしれない。
そんな風に感心していたのに、次の一言で若干評価が落ちてしまう。
「まあ、二年前にアレン先輩に話は聞いていたことも理由かな、【デュアル】がいることは気づいていた」
「それはつまり、【デュアル】がいることが分かったうえで探したということですか?」
「そういうことだな」
「……」
俺はどう反応すればいいのかわからなかった。
何もない状況から探すに比べれば、かなり難易度が下がっているからだ。
それでもきちんと特徴を観察し、相手の魔力を感じることが出来ているので十分すごいが……
「というか、あっさりと受け入れますね? 【デュアル】って、もともと忌み嫌われていたと思っていましたが……」
ガルドさんの反応に俺は思わずそんなことを聞いてしまう。
リュコのいるときにデリカシーのない質問かもしれないが、俺は純粋に気になってしまったのだ。
どうしてガルドさんが【デュアル】を見て、こんな普通に対応しているのかが……
そんな俺の質問を聞いたガルドさんはウィズさんと顔を見合わせ、軽く笑う。
「なるほど……世間一般的な考え方だと、そう思っても仕方がないな。まさか君からそんなことを聞くとは思わなかったな」
「……それは俺を馬鹿にしていますか?」
「君は自分が普通だと?」
「……流石にそこまでは思っていませんよ。ですが、それでも普通の考え方ぐらいはできると思っています」
ガルドさん、失礼じゃないか?
確かに俺は普通ではないが、ここまで言われるいわれはない。
そもそも俺が異常なのは近接戦闘能力と魔力、年齢にそぐわない考えと知識量だけである。
前者二つはともかく、後者二つは成長すれば身に付けることができるものだと思う。
世間的に考えて、早熟なだけなのだ。
事実は異なるが……
「まあ、その話はあとでいいだろう。とりあえず、どうして俺たちが彼女を見て驚かなかったかというと、そもそも冒険者は【デュアル】に対してそこまで嫌悪感を持っていないからだ」
「は?」
ガルドさんの言葉に俺は驚いてしまう。
シリウスたちも同様に驚いていた。
そんな俺たちの反応を見て、してやったりとばかりにガルドさんニヤリと口角を上げる。
「冒険者は実力社会だからな、実力があるんだったら獣人や魔族、さらには【デュアル】だろうが認めるんだ。それが冒険者ってやつだ」
「……なるほど。ですが、それならどうして忌み嫌われているなんて話が出ているんですか?」
「それはもちろん、忌み嫌う奴らもいるからだ」
「……」
「まずは自分たちの種族を誇りに思っている獣人、魔族の一部だな」
「……なるほど」
「そして、人間至上主義の一部権力者はただでさえ獣人や魔族が嫌いなのに、その血が両方混ざっている【デュアル】は倍で忌み嫌っているわけだ」
「……よくわかりました」
言われてみれば、納得できる話だった。
正直、同じ人間だとも思いたくない考え方ではあるが、考え方というのは人それぞれだ。
俺が否定することではない。
一部で認められていなくとも、俺が認めていればいいんだから。
「アレン先輩から頼まれているから、そこの嬢ちゃんの実力はお墨付きだ。そもそも、グレイン君と一緒に来ていることは、しっかりと実力はあるんだろう?」
「ええ、そうですね。少なくとも、単純な戦闘能力でいるなら俺の次に強いですね」
「マジでっ!」
俺の言葉にガルドさんが驚いた。
【デュアル】の件で驚かなかったのに、まさかここで驚くとは……
そんな彼に俺は説明する。
「やはり【獣人の膂力】に【魔族の魔力】が混ざり合っていますから、もともと潜在能力的にはかなり高かったわけですよ」
「それをアレン先輩が引き出したわけだ?」
「いえ、父さんは何もしていませんよ?」
「え? そうなのか?」
「はい。彼女の師匠はバランタイン伯爵です」
「バランタイン伯爵だと? あの【氷の鬼神】のことか?」
「「「「「っ!?」」」」」
予想外の言葉に俺たちは驚愕の表情を浮かべる。
それはそうだろう。
予想外の言葉が出てきたからである。
俺は思わずガルドさんに聞いてしまう。
「あの……【氷の鬼神】とは?」
「ん? もちろん、バランタイン伯爵の異名だが?」
「いや、それはわかるんですけど……普段の彼からは想像がつかなくて……」
俺たちにとっては優しい祖父だから、そんな異名がついているとは思わなかった。
訓練をしている時は厳しくはあるが、それでもリュコに無理をさせているようには見えなかった。
そんな優しい人間につくような異名ではないと思うのだが……
「かつての戦争ではバランタイン伯爵は【氷笑の悪魔】と呼ばれていたんだが……」
「なんですか、その異名も」
「それはもちろん戦場で相手を一気に凍らせ、それを冷え冷えする氷笑で見ているからついた異名だ。敵味方関係なく、恐れていたそうだ」
「……そうですか」
さらに予想外の異名にもうどう反応すればいいのかわからなかった。
祖父の予想外の姿に、孫としてどうすればいいのか正解が分からない。
そんな俺たちに気を遣ってくれたのかはわからないが、ガルドさんは話を進める。
「だが、その異名が変わったのは戦争が終わって数十年後だ」
「そうなんですか? てっきり、戦争中の異名だと思っていたんですが……」
ガルドさんの言葉に俺は思わずそんな反応をしてしまった。
【鬼神】なんて評されているのだから、てっきり戦争中の活躍からそう呼ばれているものだと思っていた。
しかし、返ってきたのは予想外の──いや、予想外ではあるが考えられないわけではない話だった。
「その異名が付いたのは、彼の娘がアレン先輩に求婚したときだからだ」
「……」
「娘のことを溺愛していたバランタイン伯爵はその場でアレン先輩に決闘を申し込み、一対一で戦ったんだ」
「……」
「あの時はすごかったな。なんせ【巨人殺し】という英雄を相手に鬼神のような剣幕で50手前の伯爵が襲い掛かったんだぞ? あれはものすごい光景だったな」
「……」
「もちろん、実力はアレンの方に明らかに軍配が上がった。だが、愛する娘を奪われまいとする父親の強さはその差をだいぶ埋めていたんだ。なんせアレン先輩は焦っていたからな」
「……そうですか」
話を聞いて、俺が言えるのはそれだけだった。
この話を聞いて、どんな反応をすればいいのかわからない。
だが、とりあえず笑えないことだけはわかった。
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