第六章 閑話14 ボッチ王子は父親と話す 3
「とりあえず、お前の留学の件はわかった。だが、最後に一つだけ聞きたいことがある」
「なんですか?」
真剣な表情で問いかけてくる国王を見て、キースも真剣な表情を浮かべる。
確実に真剣な内容の質問をされると思ったからである。
もちろん、合っていた。
「お前は私の跡を継ぐ気はあるのか?」
「……それはつまり次代の国王になるか、ということですよね?」
「ああ、そうだ」
キースの問いかけに国王は頷く。
やはりまだ真剣な表情を浮かべている。
国王にとってもこの質問はしっかりと聞いておかなければならないことなのだろう。
今までにないぐらい真剣な表情だ。
そんな国王に対し、キースも本心で答えた。
「まだわからないですね」
「わからない、か。どうしてだ?」
「もちろん、自分に国王が務まるかが不安だからですよ」
国王の質問にキースははっきりと答える。
もちろん、本心からの言葉である。
しかし、そんなキースの言葉に国王は怪訝そうな表情を浮かべる。
「私はそうは思わないと思うが……少なくとも私の子供の中で一番優秀だし、長子だしな。正妃の子供がいるのに側妃の子供を跡継ぎにすることに反対する奴らもいるかもしれんが、そんなことは気にしなくてもいいと思っているんだが……」
「たしかにそうかもしれませんね」
「それなのに、どうして不安になるんだ? お前だったら、反対分子からの妨害にだって対抗できるだろうに……」
「そういう問題じゃないでしょう」
「ん?」
キースの言葉に国王は首を傾げる。
どうやらこれについては当たっていなかったようだ。
理解できていない国王にキースは説明する。
「正直、反対分子からの妨害なんて毛ほども気にしていませんよ。そこまで気にするようなことではありませんから」
「おう……そこまではっきり言うのか」
「父上もそれは認めているでしょう。とりあえず、私が不安なのは、今の私に国王たる器があるかどうかですよ」
「? 少なくとも私よりあると思うが?」
キースの説明に思わず国王は聞き返してしまった。
彼からすれば、そこまで心配するようなことに思えなかったからだ。
そんな反応にキースはさらに説明を続ける。
「私が言いたいのは、私が国王になったことで生じる責任に耐えきれるかどうか心配なんですよ」
「? よくわからないのだが……」
「私はいろいろと考えてから行動するタイプです。だから、物事を決めるときもあらゆる情報を手に入れ、それを精査したうえで決めています」
「ああ、そうみたいだな。だからこそ、お前のやることに間違いはほとんどないようだ」
「ですが、それだけの情報を手に入れたうえで精査して決定したら、選ばれなかった情報について選ばなかったことによる悪影響について考えてしまうんですよ」
「……そこまで気にすることはないと思うが?」
キースの言葉を聞き、国王は思わず答えてしまう。
たしかにキースの言っていることはわからないでもないが、正直なところ国王はそんなことを気にする必要がないと思ってしまう。
自分たちが決めることにおいてすべての人が幸せになるものなどほとんどないに等しい。
できるだけ多くの人に幸せになってもらうためにいろんなことを決めていくが、選ばれなかった少数派が不幸になってしまうこともあるはずだ。
そんなことをいちいち気にしていても、良い政治ができないと国王は思っている。
もし自分の決めたことで不利益を被った者がいるのであれば、それに対して補填できるようなことを決めればいいと思っている。
それが国王の考え方だった。
まあ、これは国王の性格だからこその考え方なので、キースにそれを押し付けるつもりは毛頭ない。
「とりあえず、私はその答えを得るために今回の留学を決めたんです」
「ほう、答えとは?」
「それはわかりませんね。とりあえず、自分が上に立った時に物事を決定するために必要なことを学ぶつもりです。それが決め方なのか、決めるための知識なのかはわかりませんが……」
「ふむ……まあ、それはお前が納得するまで勉強してくるがいい。そういうのは自分が納得するまでやるべきだからな」
「ありがとうございます」
国王の言葉にキースはほっとした。
もしかしたら、納得されないと思っていたのかもしれない。
だが、国王はキースの言葉を否定することなどなかった。
これが国王の器のでかさなのである。
「とりあえず、留学の件については以上だ。あともう一つ……」
「なんですか?」
真剣な話は留学の話だけだと思っていたキースは話に続きがあることに少し怪訝そうな表情を浮かべた。
今の自分に他に聞かれるようなことがあるとは思っていなかったのだが……
そんなことを考えていると、国王の口から予想外の質問が飛んできた。
「お前、好きな子とかいるのか?」
「……」
予想外の質問に思わず黙ってしまった。
それはそうだろう。
まさか父親からそんな質問をされると思ってもみなかったからだ。
思わず睨みつけるような視線を向けるが、国王は真剣な表情で説明する。
「別にお前のことを馬鹿にしたり、デバガメでこんなことを聞いているわけではない。そもそもこれはお前が国王になることにも関係があるんだぞ?」
「え?」
「お前が国王になるんだったら、最低限お前を支えることが出来る王妃がいないといけないんだ。それぐらいはわかるだろう」
「……たしかにそうですね」
予想外の真面目な答えにキースは肯定するしかなかった。
たしかに言っていることはもっともである。
国のトップである人間に妻がいないのは外聞が非常に悪いだろう。
それに将来のことを考えるのならば、跡継ぎを生んでもらうために妻を得ることは大事であることは間違いない。
だが、一つ疑問に思うことがある。
「ですが、そういうのは政略結婚とかだと思っていたんですけが……」
「まあ、王族や貴族の婚姻関係だとそれが普通だろうな。だが、私はその考え方を否定するつもりはないが、私自身は反対している」
「……それは母さんのことがあるからですか?」
「ああ、そうだ。私はお前とシャルロットの実の母親のことを愛していた。だからこそ、無理矢理にでも側妃として迎え入れたんだ、愛しているからこそ一緒に生きていきたい、と」
「だが、そのせいで母上は死んでしまったんですよ」
「ああ、そうだな。それについては後悔の念しかない」
「だったら、どうして私にそんなことを言うんですか?」
キースは真剣な表情で質問する。
自分が後悔しているのであれば、止めようとするのが普通ではないだろうか?
父親の考えていることがわからないのだ。
だが、そんなキースの質問に国王は笑顔で答える。
「それはお前に幸せに生きてほしいからだ」
「っ!?」
国王の言葉にキースが驚いたような表情を浮かべる。
本当に予想外の答えだったからだ。
父親の顔には子供であるキースを気遣うような優しい表情が浮かんでいた。
「たしかに私のせいでお前たちの母親が死んでしまった。そのことについては後悔している。だが、自分の傍に呼んだことを後悔はしていない」
「……それならば、わたしにどうしろ、と?」
「お前がどんな相手を選ぶのかはわからない。政略結婚になるか、恋愛結婚になるかはお前次第だろう。だが、愛し合っているのならば、決して手放すな」
「……わかったよ」
国王の言葉にキースは頷いた。
普段はちゃらんぽらんな彼にしては、いたって真面目な内容だったからだ。
だったら、こちらも真剣に答えるしかない。
だが……
「最後に一つ……」
「なんですか?」
「恋愛で盛り上がるのは構わないが、むやみに一線を超えるのは駄目だぞ? あとで問題になるから」
「……最後まで真面目な雰囲気で話してくれよ」
国王の忠告に思わず呆れた視線を向けてしまう。
どうしてこの父親は最後まで真面目な雰囲気で続かないのだろうか。
本当にこの父親との血のつながりを心配してしまうキースであった。
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