第六章 閑話10 雷装の少女は自覚がない 2
「さて、反省会をするわよ」
「「……はい」」
私が宣言すると、頭を垂れた男性陣から力ない返事がやってきた。
もちろん、先ほどの失態をしっかりと理解しているからだろう。
自分の悪いことが分かっているのは、良い事ではある。
だが、悪いと理解しているのにあのような愚行をするのは悪い事ではあるが……
「二人は近接戦闘をするから、一番前で敵を相手しないといけないことは理解しているわ。だけど、二人が同時に襲い掛かるのはあまり良い手だとは思えないの。特に私たち人間に比べて大きな魔物を相手する場合にはね」
「「……」」
「二人同時に攻撃しようとしたら、今回みたいに一気に薙ぎ払われることになるの。それは理解しているかしら?」
「ああ、身をもって理解したさ」
私の説明にロット──槍を持った方の男が返事をする。
彼は真面目な人間だからこそ、こういう時にはしっかりと返事をしてくれる。
だが、完全に理解しているかはわからない。
なんせ何度も同じようなミスを繰り返すからだ。
別に頭が悪いとかではないはずだ。
おそらく今までの習慣が体から抜けきらない、とかそういう理由なのだと思われる。
まあ、これは時間をかければ治ると思うので、気長に待つとしよう。
「だが、あれだけ大きな相手だと一人で抑えておくことは難しいと思うぞ? なんせあれだけ体格差があるんだから、二人がかりでも止められるかは怪しいぞ。一人でなんかはもってのほかだと思うけど……」
もう一人の片手剣を装備している男性──ヴォーパルがそんなことを言ってくる。
普段は軽薄そうな人間であるのだが、意外と言うことはまともなのだ。
だが、流石に今回は私の言うことの方が正しいはずだ。
「普通に体格に差があるのなら、確かに二人がかりで止めた方が良いわ。だけど、今回の相手のミノタウロスはそんなことができる相手じゃないわ。だからこそ、二人同時に攻めて吹き飛ばされたでしょ?」
「たしかにそうだが……じゃあ、どうしたらよかったんだ?」
「それはもちろん、ロットが槍でミノタウロスの動きを牽制し、ヴォーパルが背後からダメージを与えていけばよかったのよ」
「……なるほど」
私の説明にヴォーパルが納得する。
ロットの方も驚いたような表情を浮かべていた。
そんなことを考えつかなかったのだろう。
本当に頭が悪く無いのか心配になってくる反応である。
まあ、今はそんなことはどうでもいいか。
「とりあえず、二人にはさっきの戦闘は反省してもらいたいことだらけよ。サンドラなんて、一人でミノタウロスの動きを止めていたんだから」
「それはすごいが……相性の良さじゃないのか、それ?」
「あら、何か文句があるかしら? というか、戦いの最中に相性云々を言うのはナンセンスだと思うわ」
「いや、別に悪いとは言っていないよ。だが、ミノタウロスの動きを止めることが出来たのは、サンドラ嬢の土魔法の相性が良かったというだけだと思うだけよ。ああいう力任せの相手にはその力を発揮させないようにさせるべきで、地面に下半身を埋めてしまえばその力は半分以下になるわけだと思うんだが……」
「あら、ちゃんと理解しているじゃない。じゃあ、どうして真正面から戦おうとしたのかしら?」
「うぐ……ミノタウロスぐらいなら十分かと思って……」
「そういう油断が命取りになるのよ、この冒険者って稼業はね」
「……たしかにそうだな。そこは反省するよ」
「ええ、そうしてね」
私の言葉にヴォーパルが反省したような表情を見せる。
ロットも同様の反応だった。
あら、言い過ぎたかしら?
でも、私の言っていることは間違っていないから、大丈夫だと思うけれど……
そんなことを思っていると、黙っていたサンドラが会話に入ってくる。
「エクレール、少し言い過ぎよ。二人とも意気消沈しているじゃない」
「そうかしら? 私としては当然のことを言ったまでだけど……」
「それはそうかもしれないけど、二人とも悪気があったわけじゃないんだから……もう少し優しくしてあげてもいいんじゃない?」
「でも、このミスは今までも何度かあったわよ」
「うっ……たしかにそうかもしれないけど……」
私の反論にサンドラの言葉が詰まる。
まあ、彼女は元々弁が立つ方ではない。
だから、簡単に言い負かすことが出来る。
しかし、今回はそうはいかなかった。
「最近、エクレールは変わったわね」
「あら、そうかしら?」
サンドラの言葉に私は聞き返してしまう。
自分では変わったとは思っていなかったからだ。
しかし、そんな私の反応にサンドラはニヤリと笑った。
「無意識なのね。エクレールはあの時から急に変わったのよ」
「あの時、っていつよ」
「もちろん、グレイン君に負けてからよ」
「ふぁっ!?」
サンドラの言葉に私は思わず驚きの声を上げてしまう。
一体、どうしてここでその名前が出るのよ。
私は恨みがましい視線をサンドラに向ける。
しかし、彼女は両手を横にしながら掌を上に向け、呆れたような表情を浮かべる。
なんかムカつく反応だわ。
というか、後ろの男性陣も私のことを呆れた目で見てくるんだけど……
なんでそんな目で見られなければいけないのよ。
「エクレールはグレイン君が好きなのよね?」
「なんでそういう話になるのよ」
「それぐらい見てたらわかるわよ。まあ、5年の付き合いがあるから、私にしかわからないかもしれないけど……」
「大丈夫だよ。まだ二年の付き合いしかない俺でもエクレール嬢がグレインに恋しているのはわかるぞ?」
「そうだな。明らかに恋する者の視線だな、あれは」
「なっ!?」
サンドラだけではなく、ヴォーパルやロットまでそんなことを言ってきた。
本当に意味が分からない。
別に私はグレイン君に恋していなんかいないはずだ。
思わず否定しようとする私にサンドラは質問してくる。
「じゃあ、どうしてエクレールは急にダンジョンを潜ることを目標にし始めたの?」
「それはもちろん強くなるためよ。これは昔から変わっていないと思うけど……」
「たしかにダンジョンに潜ろうとするのは昔からの目標だったわね。でも、それはあくまで学院を卒業してからだったはずよ?」
「……そうだったかしら?」
「むしろ今は卒業までにダンジョンを制覇しようと躍起になっているように見えるわ」
「……」
サンドラの指摘に私は黙るしかなかった。
たしかに彼女の言う通りかもしれないと思ってしまったからだ。
なぜか私はダンジョンに早く潜り、一刻でも早くダンジョンを制覇したいと思う気持ちがあったのだ。
どうしてかしら?
そんな疑問を感じる私にサンドラはさらに話を続ける。
「少しでも早くグレイン君に近づくためでしょ?」
「なっ!? なんでそうなるのよ」
「いつまでかまととぶってるのよ、15にもなった女が。乙女か、あんたは」
サンドラが呆れたような視線をこちらに向けてくる。
どうしてそんな視線を向けられなければいけないのよ。
「かまととぶってなんかいないわよ。本当に意味が分からないのよ」
「本当に? エクレールは本当にグレイン君に恋していないの?」
「そんなはずないじゃない。だって、あの子がいくら強くてもまだ8歳の男の子よ?」
「「「……」」」
私の言葉に三人が黙って、こちらを見てくる。
なんでそんな目で見られないといけないのよ。
私の言っていることは間違ってはいないわよね?
そんなことを思う私を放って、三人は背中を向けて何か語り始めた。
だが、残念ながら声が小さすぎて何を言っているのか聞こえなかった。
「(おい、こいつ完全に自覚していないぞ。なんでだ?)」
「(ああ、今まで恋愛経験がなかったから、自覚できていないかもしれないわ)」
「(そうなのか? 15にもなって、今まで恋愛経験もないなんて信じられないんだが……いや、貴族だったらそれが普通なのか?)」
「(いや、貴族の人間だから、恋愛ぐらい普通にするんじゃ……)」
「(これはエクレールの方がおかしいわ。私だって、婚約者のミスト様にしっかりと恋心を抱いているんだから……)」
「(ああ、そういえばお前も一応貴族だったな。伯爵家だっけ?)」
「(ええ、そうよ。といっても、正確に言えば、伯爵家の分家なんだけどね。だから、貴族としての権力なんてうちにはほとんどないから)」
「(まあ、今はそんな話はどうでもいいか。とりあえず、問題はエクレールが恋心を自覚していないことだが……)」
「(とりあえず、自覚させずともそちらに意識を向けるようにしておけばいいのでは?)」
「(ええ、そうね。下手に周りが囃し立てても悪影響になりかねないから、自分で自覚することができるように周りが支援するべきかもしれないわ)」
「(……そうするべきかもな。じゃあ、そういう方針で進めるか)」
「(おう)」
「(ええ)」
ようやく三人の会話が終わったのか、急に立ち上がってこちらを見てきた。
とりあえず、三人の笑顔が気持ち悪かった。
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