6-29 死んだ社畜はボッチ王子の話を聞く
「君が入学してきた時には驚いたものだよ」
「そうなんですか?」
キース王子の言葉に俺は思わずそう聞き返してしまった。
しかし、すぐに彼が驚いてしまうのも無理がないと気づいた。
なんせ、8歳である俺が王立学院に飛び級で入学するなど、誰が想像つくだろうか?
当人の俺ですら驚いてしまっていたのだ。
事情を知らない人間には何が起こったのかわからなくても仕方がないだろう。
「君と出会った時には「すぐにまた会うことになるかな?」なんてことを考えていたが、まさか本当にその通りになるとは……」
「実際に会った手前、聞くのはどうかと思いますけど……なんでそんなことを思ったんですか? 俺はなかなか領地から出てこないと思うんですけど?」
キース王子の言葉に思わず聞き返してしまう。
俺は基本的には領地に引きこもっている人間である。
スローライフを送るためにもできる限り領地から出ないようにしているのだ。
この前のように王家主催のパーティーなど断れない催しの場合は仕方なく来ることにはなるが、それ以外はできる限り断るようにしているのだ。
うちの一族もあまり社交界というのは得意ではないので、俺が言わずとも行かないという選択肢になっているわけだが……
「勘、かな?」
「勘ですか?」
「ああ。何となくなんだが、君とは仲良くなっていけそうだと思っただけさ。だからこそ、すぐに出会えたら、と……まあ、これは私の願望かな?」
「まあ、そうですね」
確かに願望だった。
しかし、一国の王子にそのように言われるのは光栄である。
スローライフを送りたい俺にとっては、嬉しいとは言い難いが……
「私はね、友達がいないんだよ……」
「「えっ!?」」
突然のカミングアウトに俺とイリアさんは驚きの声を漏らす。
事前に言われていれば対処のしようもあったが、急な発言だったのでまったく警戒できていなかった。
しかし、まさか王族からそのようなことを言われるとは思わなかった。
いや、シャル王女の実の兄であるならば、それぐらいは想像できる……わけないか?
いくら実の兄妹でも、どちらも友達がいないことを気にしているなんて誰が気づくだろうか、いや気付くはずがない。(反語)
そんな俺たちの反応を気にした様子もなく、話を続ける。
「私が側妃の子供であることは知っているよね?」
「ええ、もちろんです」
「国王様から聞きましたよ」
キース王子の質問に俺たちはあっさりと答える。
つい数か月前、国王様直々に聞かされたことなので、しっかりと覚えていた。
しかし、だからこそ疑問に感じてしまった。
第一王子とはいえ、側妃の子供ということで王位継承権的には正妃の息子に比べて低くなるのは理解できる。
だからといって、友達ができない者なのだろうか?
それも本人が気にするレベルで……
俺がそんなことを気にしていると、イリアさんが口を開いた。
「ですが、一国の王子なのですから、近寄ってくる人間はいるのではないのですか? 本物の友達とは言えませんが、取り巻きぐらいはできると思うんですが……」
イリアさんも同じようなことを思っていたのだろう。
彼女の質問は俺の聞きたいことをしっかりと聞いてくれていた。
まあ、少し強く言いすぎな気もするが……
「私には取り巻きすらいないよ。この5年間、ずっと一人で学生生活を送ってきたんだ……」
「「えっ!?」」
再び驚いてしまう。
これは驚いて当然だろう。
まさか、一国の王子様が学院に入学してから5年もの間、友達どころか取り巻きすらも作ることすらできずにボッチ生活を送っていたなど、誰が想像つくだろうか?
そんな俺たちの反応に、苦笑しながらキース王子は説明する。
「「私が庶民の血が混ざったものであるため、正妃から嫌われている」なんて話は正しい話だ。正妃は公爵家の出身だから、私の母親のことを嫌うのは当然のことだしね」
「「……」」
「正妃に目をつけられた王子になど誰が近づこうと思うかな?」
「ですが……それだけでそんなことには……」
キース王子の言葉にイリアさんが反論しようとする。
まあ、たしかに彼女がおかしいと思うのは当然だろう。
話を聞く限りでは確かに周りにいる人は少なくなるかもしれないが、それでも0になるとは思えない。
だからこそ、イリアさんは聞き返したわけだが……
「私が下手に優秀過ぎるのが駄目なのだろうな」
「「えっ!?」」
今度は茫然とした声を出してしまった。
先ほどまでとは違い、声を上げるほどは驚くことはなかった。
しかし、俺たちは「何を言っているのだろう、この人?」といった視線を向けてはいたが……
そんな俺たちの視線に気にすることなく、キース王子は話を続ける。
「私は勉強もできるし、運動も苦手ではない。【水属性】の魔法も上級魔法を2,3個使えるぐらいだから、かなり優秀な部類だろう」
「……たしかにそうですね」
キース王子の言葉に俺たちは頷く。
たしかに彼の話を聞く限り、嘘は言っていないようだ。
よくよく観察してみると、彼の中にはかなりの高密度の魔力が流れている。
これなら上級魔法を使えるだろう。
「しかし、それが私への反発を強めることになってしまっているわけだ」
「……どういうことですか?」
キース王子の言葉に俺は聞き返してしまう。
彼が優秀であることは理解できた。
だが、だからといって彼がここまで孤立させられている理由がわからない。
優秀な人間の周りには自然に人が集まるものではないだろうか?
優秀な人間が人嫌いである場合にはその限りではないかもしれないが、キース王子がそういう人間ではないことは話していてすぐにわかった。
だからこそ。理解できないのだ。
「優秀であるからこそ、私を次期国王に推そうとする勢力が現れるんだ。正妃の息子がいるのに、ね?」
「……なるほど」
ようやく話が見えてきたかもしれない。
俺が考えている通りだと、たしかに彼は孤立させられるのかもしれない。
「入学した当初には私に近づこうと話しかけてくる人間はいた。もちろん、私の権力に寄ってきたことは理解していたが、城にいるころから周りに家族以外に人がいなかった私にとっては嬉しかったんだ」
「「……」」
「でも、次の日になると話しかけてくれた子たちは私を避けるようになった。裏で正妃が圧力をかけたことはすぐにわかったよ」
「「……」」
「次の年に異母弟たちが入学してきた時、私は愕然してしまったね。彼らの周りには取り巻きがいたからね」
「「……」」
「私がシャルのように【聖属性】のような貴重な属性を持っていれば、「有用性がある」とここまでひどい扱いになることはなかっただろうね。私が普通の属性を持って、下手に優秀だったからこそ起こった悲劇というわけだ」
「「……」」
何と言えばいいのかわからなかった。
あまりにもかわいそうな状況に俺は何も言うことはできなかった。
それはイリアさんも同様だった。
そんな俺たちの様子に気が付いたのか、キース王子の顔に笑みが戻った。
「そんな私の前にグレイン君が現れてくれて、本当に嬉しかったんだよ。君だったら、正妃の圧力になど屈することなく、私とも仲良くやってくれると思ったのさ」
「……どうしてそんなことを?」
キース王子の期待が重い。
なぜ、俺がそんな人間だと思ったのだろうか?
そんな俺の疑問にキース王子はあっさりと答える。
「だって、グレイン君は別に権力なんか興味ないでしょ? 興味があるんだったら、もっと王都に来るはずだろうし」
「……」
キース王子の指摘に俺は目線を逸らしてしまう。
たしかに、彼の言う通りかもしれない。
俺の今までの行動はそのように取られても仕方がなかった。
横から突き刺さるイリアさんの視線が痛い。
貴族らしくない、とでも思っているのだろうか?
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