6-26 死んだ社畜は婚約者の行動になやむ
お茶会の翌日、学院での一週間が再び始まった。
しかし、なぜかいつものように訓練する気分ではなく、俺に与えられた教室で悩んでいた。
「むぅ……」
「どうしたの? そんな難しい顔をして?」
そして、なぜか隣にはイリアさんがいた。
彼女もこの時間は授業があるはずなのに、果たしていいのだろうか?
ちなみに質問したところ、「一回生の内容だともうすでに習っているところなの。担当の先生には理解していることを証明したから、出席しなくても最高評価を貰えるわ」と言っていた。
頭がいいとは思っていたが、まさかそこまでとは思わなかった。
まあ、今はそんなことを気にしている場合ではないな。
とりあえず、俺は説明をする。
「昨日のレヴィアが気になってな」
「レヴィアちゃんが? シャルの魔法訓練を自分が受けるといったことかしら?」
「ああ、そうだ」
「別にいいんじゃないかしら? 言っていることは別に間違ってはいないし、魔法と言う点に関しては魔族である彼女ならうってつけじゃないかしら?」
俺の言葉にイリアさんが論理的に返答してくる。
たしかに彼女の言っている通り、レヴィアがシャル王女様の魔法訓練をするということについては問題はない。
シリウスもついていることから、普通よりも安全性は担保されているだろう。
俺が一人でやった方が最も安全であることには変わりないが……
「なんで突然レヴィアがあんなことを言いだしたのか、それが気になっているんだ」
「どういうことかしら?」
「レヴィアはそもそも人見知りなんだ。正直、俺やその周囲の人間以外には自分から話しかけることすらできない娘のはずなんだ」
「ああ、確かにそんな感じがするわね」
俺の説明にイリアさんが納得してくれる。
彼女のような観察眼のある才女には簡単にわかることだろう。
「今回の件でレヴィアが自分の意見を言えるようになった、と良いようにとらえていいものか悩んでいるんだ」
「というと?」
「何を考えてレヴィアが名乗りを上げたんだろうか?」
素直にレヴィアの成長を喜んであげたい。
なんの立場でそんなことを言っているのかわからないが、昔の彼女を知っている俺としてはその成長は喜ばしい事である。
しかし、だからこそ突然の彼女の成長を疑問に思ってしまうのだ。
普段の彼女らしくない、と。
「私は二つほど理由が思いついたわね」
「二つ?」
イリアさんの言葉に俺は思わず聞き返してしまった。
身近にいる俺ですら一つもわからないのに、どうして彼女が二つも思い浮かんだのだろうか?
だが、思いつかないので、ここは素直に聞かせてもらおう。
「一つ目は婚約者が増えることを懸念してかしらね?」
「婚約者? それって、俺のか?」
「ええ、もちろん」
「いや、それはありえないだろう」
イリアさんの一つ目の理由に俺は思わず呆れた表情を浮かべてしまう。
おそらく彼女の言っているのは、シャル王女が俺の婚約者になるということだろう。
そんなこと、天地がひっくり返ってもあり得ない──いや、それは言い過ぎかもしれないが、現状でそうなる確率はかなり低いと思う。
しかし、イリアさんはそうは思っていないようだ。
「ありえない話ではないと思うわ。なんせ、グレイン君はあの【巨人殺し】の子供で、さらには獣王と魔王を加えた三人から手ほどきを受けたたった一人の人間よ?」
「……たしかにそうだな」
「そのうえ、王立学院の学長直々に訓練してもらえるほどの実力者なわけだから、権力者からすれば喉から手が出るほど欲しい人材じゃないかしら?」
「ふむ……だけど、それがどうしてレヴィアの心配につながる?」
俺が権力者から欲しがられる人材であることはわかるが、だからといってレヴィアが心配になる理由がわからない。
俺のことを使おうとする権力者にむざむざと使われるつもりはないので、その点でレヴィアに心配されることはないと思う。
だからこそ、わからないわけだが……
「そんな優秀な人間だったら、王女様の婚約者としてふさわしいんじゃないかしら?」
「……言わんとすることはわからんでもないな」
「現に、私だってグレイン君の魅力にメロメロよ?」
「……」
「……急に黙らないでよ。私が馬鹿みたいじゃない」
「それは悪かった」
イリアさんの言葉に俺は謝罪する。
たしかに黙ったのは悪かった。
まさかイリアさんがあんな冗談を言うとは思わなかったのだ。
いや、時折ふざけることがあったから、これぐらい言うことぐらいは予測するべきだっただろうか?
……俺がそんなことをする必要はないな。
「とりあえず、シャルの婚約者にグレイン君が上がる可能性があるわけよ」
「……だが、俺は男爵家の人間だぞ? 王女の婚約者としては、力不足すぎる気がするが……」
「その点はいろいろ対策できるんじゃないかしら?」
「対策?」
俺の言葉にイリアさんがあっさりと返事する。
対策とは、いったいなんなのだろうか?
「カルヴァドス男爵家はバランタイン伯爵家とつながりがあるわよね? グレイン君がバランタイン伯爵家の人間となれば、身分についてはそこまで問題にならないはずよ」
「……俺にはバランタイン伯爵家の血は流れていないけどな?」
「まあ、養子となる分にはそこは関係ないわね。それに、グレイン君には英雄の息子であるうえに、自らも英雄になる可能性を秘めているわ。英雄と呼ばれる人間と王族が婚姻関係を結ぶのはない話ではないわ」
「ふむ……」
イリアさんの言っていることは大げさではあるが、納得できない話ではない。
というか、王族と英雄が結婚するというのは、どこぞの有名RPGのような展開だな。
まあ、あれは魔王を倒した勇者と姫の結婚だったわけだが……
もしそんなことになる場合、俺は誰を倒せばいいのだろうか?
魔王に知り合いはいるが、あいにくと倒す予定はない。
あと、今の俺では倒すことはできない。
「まあ、レヴィアちゃんはそれを心配したんだと思うわ? そんな心配をされるぐらい愛されているのね?」
「……心配させたのは悪いと思うが、俺が王女様と結婚なんかしたくないことぐらいわかって欲しかったな」
レヴィアに心配されたことは少しうれしかったが、もう少し俺のことを信頼してほしかった。
俺がこの世界に転生して望んでいるのはスローライフだ。
そんな望みを持つ人間が王族との結婚など望むはずがないだろう。
だが、そんな俺の言葉にイリアさんが反応する。
「でも、すでに王女様と婚約しているわよね?」
「え?」
「しかも、二人」
「あっ!?」
イリアさんの指摘で思い出した。
そういえば、レヴィアとティリスは違う国とはいえ王女様だった。
もしかすると、同じ王女であるということからレヴィアは心配していたのかもしれない。
あながち的外れでもなかったわけだ。
「ときどき思うんだけど……」
「何を?」
「グレイン君ってものすごく優秀だけど、どこか大きく抜けているところがあるよね?」
「……」
イリアさんの指摘に俺は返事することが出来なかった。
先ほどまでレヴィアとティリスのことを王女であることを忘れていた身としては否定できなかった。
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