6-6 死んだ社畜は自身の未来を嘆く
「ふむ……予想以上にうちの学生のレベルが低いですね」
「そうなのか?」
学長の言葉に俺は思わず聞いてしまう。
現在、俺たちは学長室にいた。
彼から今後の相談があるという理由でここに連れてこられてしまった。
まあ、美味いお菓子があるから、別にここに来るのは構わない。
シリウスたちにお土産として持って帰らせてもらおう。
「お菓子に集中しないでください。こっちも真剣な話なんですよ?」
「ああ、すみません」
「……まあ、子供だから仕方のないことかもしれませんけど、今はこっちの話が先です」
「ああ、わかったよ」
学長が真剣な表情で話すので、俺もしっかりと意識をそちらに向ける。
さて、どんな話をするのだろうか?
「グレイン君はたしかに化け物レベルに強いです。それこそ、この学院の中で私に次ぐ実力者でしょう」
「化け物、言うなや」
学長の言葉にいきなり反論してしまう。
こちらとしては、化け物扱いはあまりされたくない。
否定できないことではあるが、人扱いされていないという点であまり嬉しくかんじないのだ。
なんか、いじめられている感があって、嫌な気持ちになってしまうわけだ。
しかし、そんな俺の言葉など聞き入れる様子もなく、学長は話を続ける。
「シリウス君、レヴィアさんは君ほどではないにしろ、魔法の面で優れている。アリスさん、ティグリスさんも戦闘方面に秀でている」
「まあ、そうですね」
「この4人はすでにその方面で現在の5,6回生並みの実力を持っているはずです」
「それはすごいことだな」
4人への学長の評価を聞き、俺は驚きながらも納得する。
たしかに、あの4人は俺が【特別試験】で戦った生徒の中で上級生並みに強いはずだ。
全員に勝つことは無理でも、互角に戦うことができるはずだ。
身内が褒められたことで、思わず嬉しくなってしまったが……
「それでは駄目なんですよ」
「何がだ?」
学長の言葉に俺は首を傾げてしまう。
4人が強すぎることがだろうか?
別にそれは彼らが悪い事ではない。
俺というイレギュラーがいたせいで、周りにいる彼らが強くなってしまったのだ。
それが駄目だということは、俺が悪いのか?
「別にあの4人や、君のことを否定しているわけではないです」
「そうなのか?」
「ええ。グレイン君レベルならともかく、あの4人レベルの生徒は昔はもっといたんですよ。流石に1,2年生では無理でしょうが、3年生にもなるとすでに4人レベルに到達している者が8割ぐらいいましたよ」
「へぇ……」
「それこそ、闘技場が毎日のように破壊され、生徒全員の大工技術が高くなったものです」
「……それはいいことなのか?」
学長の言葉に俺はツッコんでしまう。
だが、とりあえず昔の生徒たちがかなり強かったことは理解できた。
だからこそ、疑問がある。
「どうして、今はこんなに弱いんだ?」
「おそらく、戦争がないからでしょうね」
「戦争がない?」
学長の言葉に俺は首を傾げる。
そんな俺に彼は説明してくれる。
「かつて、この国はブレイ帝国と戦争をしていました。人間至上主義という思想を持つ国でしたので、我が国とは考え方が真逆でした。そのため、戦争が起きてしまったわけです」
「ああ、そんな歴史があったな」
屋敷に合った歴史の本にそういう内容のものがあったことを思い出す。
たしか、かれこれ40年近く前の話だったはずだ。
「戦争で戦っているのはほとんどが国の騎士や冒険者たちでした。ですが、戦力として学院の生徒たちも数えられていました」
「……それは国としていいのか?」
「まあ、あまりいい事ではありませんね。ですが、一人でも戦闘ができる者が欲しい国としては、学院の生徒たちを戦力として数えざるを得なかったわけです」
「……なるほど」
「流石に10代前半の少年少女たちは行くことはありませんでしたが、5,6回生の生徒たちは希望すれば、参戦することができました」
「戦力として数えていたのに、志願制だったの?」
「貴族の子弟も多くいたので、強制的に全員、というわけにはいかなかったのですよ? といっても、貴族の子弟の中には率先して戦争に参加するような子たちもいたわけですが……」
「……」
学長の説明に俺の中には二人ほど思い浮かんでしまった。
40年ほど前ということは、おそらくあの二人は学生だったはずだ。
あの性格であれば……
「現バランタイン伯爵と現マスキュラ―伯爵ですね」
「やっぱりか」
俺の予想が当たってしまった。
たしかに、あの二人が戦争に参加したという話は聞いたことがある。
しかし、まさか学生のうちに参加しているとは思わなかった。
「まあ、彼らは別格でしたが、多くの学生が戦争に志願しました」
「国を思う気持ちがあるのなら、当然でしょうね」
「学長としては誇らしい反面、心配もしましたがね」
「まあ、あんたの立場なら仕方のない事だろう」
学長が少し悲しげな表情を浮かべていた。
やはり、学長の立場では生徒を死地にやるような真似はしたくなかったはずだ。
これからの前途ある若者たちの未来を潰すようなものなので、教育者としては止めたかったはずだ。
まあ、今となっては過去の祭りなわけだが……
「学院に残った生徒も戦争中だということで、おのずと訓練に身を入れていました。自分の身は自分で守るべきだと思っていたんでしょうね」
「戦争に行かなくても、巻き込まれる可能性はあるからな。それも貴族の子供ならば、御家存続のために最低限一人は生き残っておかないといけないわけだし……」
「ほう……まさか君からそのような答えが返ってくるとは驚きですね?」
「……何がだ?」
学長の言葉に反応してしまう。
今のは、一体どういうことだろうか?
「いえいえ、聞いていた話と少し違うと思っていたんですよ? アレン君の話では、君はカルヴァドス男爵家を継ぐつもりはない、と。だから、そういう話には興味ないものと思っていたわけですが……」
「なるほど……言っていることがわからないわけではないな」
「では、どうして?」
「そんなもん、なりたくないからに決まっているだろう?」
「?」
俺の言葉に学長は首を傾げる。
そんな彼に俺は自身の考えを述べる。
「なりたくない、といって逃げようとしても、逃げるのはなかなか難しいだろう。シリウス兄さんもいるからおしつけることはできなくもないけど、あいにくと俺の方が優秀過ぎる」
「シリウス君なら、立派にカルヴァドス男爵家を継げると思いますが?」
「まあ、そうだろうね。だけど、それができたとしてもカルヴァドス男爵家の当主にならないだけだ」
「つまり、別口で貴族になる可能性が?」
「ああ、そういうことだ。貴族に限らず、他国の王族に縁があるわけだから、あながちおかしい話じゃないだろう?」
「普通の貴族の子弟がそんなことを言えば、馬鹿げた話だと一蹴できますね。ですが、君にはそれを実現できるレベルの能力がありますね。いろんな意味で……」
「というわけで、そういう話から逃れるために、いろいろと知識を得ているわけだ。知らないだけだったら、強制的にさせられる可能性があるからな」
「……それでも難しいと思いますけど?」
「……言わないでくれ」
学長の指摘に俺は落ち込んでしまう。
あくまで俺の言ったことは理想論だ。
現実というのは酷なもので、俺の考えていることとは裏腹に事が進んでしまうことが多々ある。
貴族の当主として働きたくない、という気持ちを持っていたとしても、俺の能力を逃したくないという理由で国は貴族として縛り付けようとしてくるだろう。
そこから逃げ出すことはできなくもないかもしれないが、そうすると今度はお尋ね者になってしまう。
他の国に亡命なんてこともできないわけではないが、結局はその国で同様に縛り付けられる可能性が出てくるわけだ。
というわけで、一番この国に残るのがマシになってくるわけだが、そうなると貴族の当主になることから避けられないわけで……
「まあ、身近なところにアレン君がいますから、相談に乗ってもらえばいいんじゃないですか?」
「……それは失敗談として?」
おそらく学長の言っているのは、アレンが自分の意思とは関係なく貴族になってしまったことを言っているのだろう。
そう考えると、俺の未来は彼に近いものになるのかもしれない。
「諦めの心を教えてもらえるかもしれませんよ?」
「……そうだな」
「とりあえず、この学院で貴族のことをもっと勉強しなさい。将来のために、ね」
「はぁ……」
学長の言葉に俺はため息をつくしかなかった。
スローライフを送るつもりが、どうして貴族になる道しか残されていないのだろうか?
どこで間違った?
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今回、グレイン君が自分が貴族の当主になる道から避けられないと言っていますが、あくまでこれは作者の考えです。本来なら、もっといろんなしがらみなどがあるかもしれませんが、作者はそういうことを考えるのは得意ではないので、純粋にグレイン君の才能から考えてこんな話になりました。




